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現代から妖怪を遠ざけたのは誰?/東方智霊奇伝1巻読んだ【ネタバレ注意!ほぼ日更新#38】

 今日は東方知霊奇伝の1巻を読みました。諸々所感を書き留めて、最後にどっかしらを模写することでイラスト練習して終了する記事です。

※以下、作品に関するネタバレを含みます。

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「怨霊とは―――妖怪の つまり幻想郷の存在を脅かす霊魂なのよ」


 最近は公式公認の二次創作という体で複数の漫画が東方外来異変やComic Walker経由で連載されていたりという流れもあってか、東方智霊奇伝という漫画をちらと見た時は二次創作群のひとつかと思い込んでいた。数か月前に開催された東方人気投票のアンケート項目に、公式書籍として「東方智霊奇伝」に関する記述があったことから、はじめて公式書籍なのだと知った次第である。

 この智霊奇伝、プチ推理小説じみた展開、繊細な線と直立気味の構図、大きいコマの空白という、さらに新キャラクターではなく既存キャラクターが主人公として展開されるという、東方公式の書籍としてはなんとも例を見ない漫画となっている。タイトルの「智霊奇伝」も、主人公古明地さとりが初登場する作品「東方地霊殿」をもじったような名前であることから、まるで東方地霊殿ベースの二次創作のような印象を受ける。しかしこの話、二次創作などではなく原作者自身が話を書いているものである。
 なんともまあ新しさを感じる智霊奇伝だけど、東方のキャラクターがもつ無味乾燥さは、推理小説が孕む人間へのドライさとなんとなく自然に馴染む雰囲気がして面白い。東方シリーズにおいてはほとんど不死身である妖怪をはじめとする魑魅魍魎が描かれるのだから、殺人事件じみたことが起きても無味乾燥なのはある種当然ではあるのだけれど。

 さて、妖怪について「東方においてほぼ不死身である」と上述したけれど、その強靭な肉体と寿命をもってしても存在の危機に陥れられるような、妖怪にとってのいわゆる天敵が存在する。それがこの智霊奇伝で真犯人として語られる「怨霊」である。
 作中でも怨霊は恐れられており、幻想郷の実質的な統治者である八雲紫にも「危険な存在」と評されているけれど、この怨霊について色々と気になったので、改めて現時点の怨霊の情報を整理してみた。


 
 東方鈴奈庵においては言わずと知れたキャラクター「易者」の解説記事に、怨霊について端的に説明が記載されている。

また『東方求聞口授』の対談での神奈子によると幻想郷の妖怪が怨霊を恐れる要因は2つあるという。
まずは先にも書いた怨霊が人間に取憑く性質で、怨霊はこの手口で人間同士が怨み合うように仕向けるという。
人間の間だけで敵対関係が完結するようになってしまうと”人間は妖怪を畏れ、妖怪は人間を襲う”幻想郷のルールを根底から覆しかねなくなる。人間の畏れが存在意義たる妖怪達にとっては死活問題といえる。

 智霊奇伝はこの「怨霊の乗っ取りによっていがみあいになり恐れ合う人間」という構図に似た展開をなぞったストーリーであるとも捉えられる。人間同士だけでなく妖怪も入れ混じり対立するように仕向けていると考えれば、求聞口授だけで語られていたこの設定がやや体現されつつあるのが智霊奇伝である。
 非常に直感的な怨霊の恐ろしさとして「意識の乗っ取り」が挙げられるが、大局的に見れば、この「人間-妖怪の関係で成り立つ幻想郷を崩壊させてしまいかねない」という性質はあまりに恐ろしい。これは幻想郷における終末シナリオであり、幻想郷が幻想郷でなくなる未来へとつながる。「幻想郷はすべてを受け入れる」とは二次創作においてよく言うけれど、何のことはない、内部にいる幻想郷の者達には受け入れてはいけない存在がいる。霊夢が易者を「人間が妖怪になることが最も悪」と切り捨てたように。

■現代において妖怪が陳腐化した原因

 ところでこの、「人間-妖怪の関係を瓦解させる」、その理由が「人間の乗っ取りによって人間同士を敵対させる」であるという、怨霊の解釈が個人的には非常に面白いと思っている。これはある種、我々が生きる現代において、幽霊や妖怪などが人々の恐れの対象でなくなってきた理由の一つではないか、とすら思える。
 智霊奇伝の本筋から少し外れるけど、色々思いついたので書いておく。

 「科学の進歩が幽霊、妖怪が存在しないことを裏付けた」なども魑魅魍魎による恐怖が陳腐化した原因としてよく語られるが、これは個人的に腑に落ちないところがある。
 科学や技術、学問が人類史上超高度で発展している現代だからこそ、その科学が未だカバーできていない範囲がくっきりと浮き彫りになっている。とりわけ大きいのは「宇宙」「深海」「時空」「量子力学」といった分野は未だ未知だけれど、今最も我々が持つ未知として関心が向いているのは「人間そのもの」ではないか。これだけ技術が発展し様々な科学に囲まれ生活していても、自分の心でさえ判然としない。ましてや他人の気持ちや行動原理などを理解するのは本当に難しく、脳や心の構造は未解明の部分が多い。この論の裏付けとして、今最もホットな技術は「人工知能、AI」である。ヒト由来の未知が、今最も話題となっているのである。我々は外界の未知を解明する一方で、自分自身が何者であるかをよく知らないことに辿り着いている。

 恐怖というのは未知が生み出すものだとよく聞く。人間はやはり動物なので危機感知や自己防衛の本能があって、よく知らない、よく分からないブラックボックスに対してはネガティブな印象を持つ傾向がある。まったくの伏せカード、それが存在しているという以外情報がないものに対して、一種の恐怖を感じる。これが「恐怖は未知が生み出す」とするロジックである。とすると、「科学の進歩は既存の未知を既知に転換した一方で、発掘されていない未知を新たに生み出した」と言える。つまり、「科学が幽霊や妖怪を陳腐化させたのは若干の矛盾があるのではないか」と思うのだ。

 では何が幽霊や妖怪を陳腐化させ、ある種のロマンやノスタルジーを感じる存在、まさしく「幻想入り」する存在に転化させたのか。
 東方求聞口授にて語られる「怨霊が人間-妖怪を崩壊させる方法」を着想とすれば一つの解釈が生まれる。

 「ヒトは科学の進歩により、真の未知は人間自身であると気付き、人間が人間を恐れるようになった。だから、人間が妖怪を恐れる構図が崩れた
 これが現代に起きた、妖怪-人間の関係が崩れた終末シナリオではないか。現代は幻想郷の終末シナリオである「人間が妖怪を恐れなくなる」を辿った結果、幽霊や妖怪が陳腐化したのだ

 という、今思いついたけど、誰かが思いついてそうな解釈を「妖怪-人間を崩す怨霊」という設定を見て思いついた。
 閑話休題。

■古明地さとりという怨霊への適任

 これはある程度有名な原作設定だけど、古明地さとりが地霊殿において怨霊を管理しているのはある種理由があって、それは「(割と)彼女にしかできないから」という役目的理由である。近年では「11点の女(公式設定)」として揶揄・賞賛される古明地さとりだけど、これは何より彼女のメンタル、精神がずば抜けて耐久度が高いことの証左である。
 さとりの妖怪は他の存在の心の奥底を見透かしてしまう能力により人の本音が聞こえてしまう。さとりの妹である古明地こいしは「人間の心を見たってつまらない」という理由でさとりの能力を閉ざしているが、さとりの妖怪自身でさえ自壊するほど、本心を見透かす能力はその所持者にとって精神的な負担が大きい。そこで有名な「(自己評価)11点」が出てくる。古明地さとりはこの、人に忌避され、自身を追い詰める能力を「他にない素晴らしい能力である」と自画自賛を極めている。さらに、それだけ精神が強い彼女は、妖怪の中では極めて異例的な存在である。
 妖怪は強靭な身体能力と寿命の一方で、並の人間よりも精神が脆い。それは「自身が自身らしい振る舞いをしていないと存在が消滅する」という妖怪が持つ特殊な性質にも表れている。妖怪は、人間に恐れられなくなった時、本当の意味で消滅し忘れ去られる。古明地さとりをはじめとするさとりの妖怪は、自身の精神の耐久度と引き換えに、多くの他者からの忌避と恐怖を集めることで、他の妖怪よりも強い精神を持ち強かに生きているとも考えられる。(当の本人は、館から出たがらない引きこもりではあるけれど…。)

 そして怨霊は、妖怪および人間の精神に付け入って意識を乗っ取る存在である。精神が脆い妖怪は格好の的である上、存在を上書きされていくことで消滅の危機に晒されるという、かなりヤバめの天敵である。
 これに対抗手段を持つ存在は多くない。古明地さとりという「精神が強靭な妖怪」というイレギュラーは、怨霊を管理するのにうってつけであり、ある種彼女にしかできないものである。そこで、精神に付け込まれない動物たちと一緒に、地霊殿というある種の怨霊管理施設の主として鎮座しているのが古明地さとりである。

 …というわけで、ここまでお膳立てをすると、館から極端に出たがらない古明地さとりが重い腰を動かして探偵をする理由になる。彼女にしか担当できない怨霊、それも頻繁に意識を乗っ取っていく手練れが地上に逃げ出したため、その後を追って調査を続けているわけである。

 なんだかこうやってストーリーの理由をなぞっていくと、智霊奇伝は新たな設定というより既存の設定をなぞらえているようにも思える。そこも含めて原作書籍らしからぬ点となっているけれど、個人的にはそこが面白いなあと思う。二次創作っぽい原作東方、これからどうなっていくんだろうなー。


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■絵の話

 智霊奇伝、髪型のアレンジが特徴的です。橙とか髪降ろしててクソかわいいし、霊夢は2章になるとこっそり髪飾り変えてるし、そしてレミリアの若干ロングになってるのかわいい。というわけでレミリア描きました。


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 2h。こんなに短時間で終わったのは久しぶり…。

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 1h時点。目描くの楽しかったな。


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 比較。こうしてみると線が元に比べて細すぎるかもしれん…。全体を見て把握する力、まだまだ足りてない。これが身に付くとバランスの調整に四苦八苦するのはだいぶ減ると思うんだけど…
 あと髪のボリューム多すぎたかも。髪がかわいくて……意識しすぎたなあ。他にも意識を払わないと。



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 あと、先々日に終わらなかったヴァイオレットに30minだけ着手できたよ…(未完)



それではまた明日