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unrequited love - situation report【和訳】

"無理にでも起こしてやる
一生涯忘れられない光景を
"

 東方アレンジサークルsituation reportのC96新譜unrequited loveから二曲、Unseen Letters・Reverse Fateです。

 unrequited loveは上記二曲のみが入ったEPで、収録された二曲の間には空白が全くなく、まるで繋がった一曲かのように進行していきます。公式でもPart1・Part2という区切りで紹介されていたので、二曲合わせて一曲ということなのでしょう。というわけで、二曲とも和訳してみました。

 蓋を開ければ東方Projectの世界観を活かしまくった最高にイカした歌詞でした。音楽的表現は叙情ハードコア・メタルコアなのですが、歌詞。歌詞がめっちゃ怖かったです。独自の解釈に過ぎませんが、夏の納涼ということで解説とともにお楽しみください。

※以下の音源はXFDです。

1. unrequited love Part1: Unseen Letters

there's no room for sentiment
cuz I'm here for you

 センチメンタルを抱く余裕もない
 あなたがずっと頭にこびりついていて
 それだけで精一杯だから

reputation reputation
this is what you wanted to obtain

 名声、評判、周囲の羨望とか
 あなたはそんなのが欲しいだけなんでしょう

there is no reason for denying me
It doesn't matter what you think of me

 私を否定できる理由はないわ
 あなたが私をどう思ってたって構わない

social discourse in repentance?
repeating repeating in my mind now
It doesn't matter

 後悔から自分の言い分を振りまくんでしょう?
 何度も何度も頭の中で反芻してるわ
 「あなたが私をどう思おうと関係ない」って

君に気持ちは 伝わらないし
そう そんな気安く
さわらないでよ

今すぐにその手を放しなさい
これ以上何を求めているの

are you the same one?
do you abandon me?
there is no reason for denying me

 かつてのあなたはどこにいるの?
 あなたは私を見捨てたの?
 私を否定する理由なんてどこにもないでしょう?

imitation imitation
this is what I wanted to hold in my hand

 真似事をしているの
 ずっとほしかったものを、この手に抱いているっていう想像を

requited love
It doesn't matter what you think of me

 報われない片思いなんかじゃない
 あなたが私をどう思っていたって関係ない

You can't stop the changes
Live with your own eyes

 無理にでも起こしてやる
 一生涯忘れられない光景を

哀れな君 寂しさを押し付けて
虚しさを埋める オモチャにはならないよ
言葉と気持ち 受け取ることは無いし
君がくれたもの 何一ついらないわ

against reverse fate
 
運命が逆巻いていく


2. unrequited love Part2: Reverse Fate

全てを燃やす逆縁の理

華やかに手を取った 逆さまな世界
彩られた 黒い枠は 誰のもの

この手は 冷めきった 心には届かない
灯りがついた 逆縁の理

look at her face in this reverse fate
requited love in my hand

 逆巻いた運命の中で、彼女の顔を見つめる
 想い合っている気持ちが、この腕に残っている

look at her face in this reverse fate
requited love in my hand
 逆巻いた世界の中で、彼女の顔を見つめている
 想い合った証が、この腕に宿っている

全てを燃やす逆縁の理

何一つ 言葉は 聞けなくて

灯りが消えていく 逆さまな世界
もう戻せない カケラを集めても
この声は 冷めきった 体には届かない

ゼロの瞳を僕はそっと閉じた

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 一曲目と二曲目の繋ぎが自然すぎてアンビエントなパートに入るまで二曲目が始まっていることに気付きませんでした。プログレメタルのPart1,2構成そのものですね。気付いたら二曲とも終わってて、気付いたら二曲ともリピートしちゃってる。って感じです。かっこええ。Dream Theaterかな。
 二曲で違うクリーンボーカルなのに違和感がないあたり二人の歌唱とMixの技量の高さを感じます。そういえばこの曲コミケが始まってから(つまり完成3日前に)歌唱依頼が出されたらしいですね。製作期間ヤバすぎでは?

 以下、独断と偏見に基づく歌詞解説です。

〇純狐と玄妻

 一曲目のアレンジ元楽曲「ピュアヒューリーズ ~ 心の在処」は東方Projectのキャラクター純狐の戦闘曲です。純狐とは古代中国「夏王朝」の伝説に登場する人物の名前ですが、純狐は実在した夏王朝の人物「玄妻(げんさい)」との共通点が多く同一人物とされています。
 同じく夏王朝に登場する英雄に「大羿(読み不明。たいげい?)」がおり、純子と同じく歴史上に「后羿(こうげい)」という名前で実在します。后羿は純狐 = 玄妻の夫です。
(ややこしいですが、【夏王朝の伝説】大羿と純狐、【史実で実在】后羿と玄妻 というわけです)。

 【史実で実在】の話を書くと、玄妻はある家に嫁いで息子を設けていたのですが、突然現れた后羿に政治上の事情で息子含め嫁ぎ先一族を殺され、后羿に嫁ぐことになります。それを玄妻は酷く恨んでおり、后羿の部下とともに后羿の首を取ることになります。その後はその部下と子供をもうけ平和に暮らしましたとさ。ちゃんちゃん。

 【夏王朝の伝説】の方は未解明の部分が多く、東方Projectでは上記の史実なども取り入れながら独自の解釈をしてキャラクターにしています。
 超ざっくり言うと、月の女神「嫦娥(じょうが)」の夫の妻(一夫多妻制!)である純狐は、その夫に息子を殺された恨みを抱き続け神に匹敵する力を持つようになった……という感じです。作中で夫が誰であるかは明確にされていませんが、元ネタの史実や伝説から后羿と見てほぼ間違いなさそう、とのことです。

 要約すると、一曲目の元ネタは「息子を殺した夫を恨みに恨み続けた結果とんでもない力を持つに至った女性」です。中国のお話には「傾国の美女」なんて言葉もあるくらいですし、とにかく女性関連の恨みつらみや悲劇が多いイメージがあります。

〇牛崎潤美と牛鬼、「赤子」の存在

 二曲目のアレンジ元楽曲「石の赤子と水中の牛」は東方Projectのキャラクター牛崎潤美との戦闘で流れる楽曲ですが、このキャラクターは「牛鬼」「濡女」と呼ばれる妖怪変化の類をモチーフにしています。

 牛鬼は人を喰らう妖怪ですがその襲い方には地方によって様々な伝承があり、東方Projectで採用している山陰地方の伝承では、「赤子の石像を腕に抱いており」、その石像を誰かに渡すと、石像はたちまち重くなり渡された者は石のように動けなくなる。その間に牛鬼は相手を食べてしまう。という概要です。濡女は牛鬼の使いだとか化けた姿だとか諸説ある様子です。

 この妖怪変化をモチーフにした牛崎潤美も赤子の石像を抱いています。CDジャケットはこのキャラクターが描かれており、胸元に赤子が描かれていることも確認できます。

〇unrequited loveなのに歌詞はrequited love

 unrequited loveは「片思い」「報われない愛」という訳になります。
 上記で解説した元ネタは「夫」「子供」をかなり想起させる内容で、既婚の男女に関するunrequited loveというわけで内容重めの歌詞です。

 ところでrequited loveというフレーズが二曲でそれぞれ出てきます。これは接頭辞un-(否定の意)がなくなっているため「両想い」「報われた愛」という全く対局の意味になるのですが、相変わらず曲名や元ネタは明らかに報われてない愛情の内容に思えます。僕の考えに過ぎないんですが、このrequited loveという歌詞が出てくるフレーズには「歌い手の願い、妄想」が入っているように思います。
 以下、それについて長くなりますが説明をば。

(Unseen Lettersより)
requited love
It doesn't matter what you think of me

 報われない片思いなんかじゃない
 あなたが私をどう思っていたって関係ない

 単語でrequited loveとだけあるので色々妄想した和訳になっていますが、二段目の歌詞から「あなたが私をどう思っていようと(= あなたが私を想っていなくても)関係ない(= 私はあなたを想っている or 想っていたのに)」という内容であるように類推されます。というわけで、単に「両思いだ」「恋が報われた」という訳ではなく、「報われない片思いなんかじゃない(願い)」としています。
 ですがUnseen Lettersの他の箇所の歌詞は現実には報われない片思いをしているような内容で、愛情を仇で返す行為にとうとう「君がくれたもの 何一ついらないわ」と開き直るというか見限っています。

(Unseen Lettersより)
You can't stop the changes
Live with your own eyes

 無理にでも起こしてやる
 一生涯忘れられない光景を

 the changes(変化)はいろんなものを指しているように思えますが、大意は「unrequited loveをrequited loveに無理矢理変える」ということで、細かく見ると「そのために必要な色々」が含まれた意味に思えます。その色々が碌でもないものであることはLive with your own eyes(直訳:君の瞳と共に生きろ ≒ 瞳に映るものと生きろ = お前の瞳に一生忘れられない光景を刻んでやる)という歌詞から伺えます。一体何をする気なんだよ。

 この歌詞を最後にagainst reverse fate...と呟いて、Part2のReverse Fateが始まります。

(Reverse Fateより)
look at her face in this reverse fate
requited love in my hand

 逆巻いた運命の中で、彼女の顔を見つめる
 思い合っている気持ちが、この腕に残っている

 で、Reverse Fateのこの歌詞……なんですけども。

〇requited loveがin my handとは……

 上記歌詞に出てくるフレーズin my handも二曲にそれぞれ一回ずつ登場します。

(Unseen Lettersより)
imitation imitation
this is what I wanted to hold in my hand

 真似事をしているの
 ずっとほしかったものを、この手に抱いているっていう想像を
(Reverse Fateより)
look at her face in this reverse fate
requited love in my hand

 逆巻いた運命の中で、彼女の顔を見つめる
 思い合っている気持ちが、この腕に残っている

 こうやって歌詞を並べてみると、
 Unseen Lettersで出てくる"what I wanted"と、
 Reverse Fateで出てくる"requited love"は同じ意味に思えてなりません。
 とはいえ、歌詞中ではそれが具体的に何なのかは出てきません。ただ一つ言えるのは、Unseen Lettersの流れを汲むとrequited loveの内容は「歌い手の願い、妄想」であるということ。

 CDのジャケットが東方Projectのキャラクター牛崎潤美であり、そして牛崎潤美の元ネタが牛鬼であるという情報があればその中身を類推することができます。
 単刀直入に言って、requited loveとは「子供」「赤子」のことだと思うんですよね。

 純狐の史実からは「子供を夫に殺された」「子供さえ残っていたなら」「私が欲しかったのはあの子だった」という言葉が想像に難くないですし、牛鬼は人を化かしに女の姿に化け赤子を相手に預けます。妖怪や幽霊の類が元は人間である、というセオリー的なオチが日本のホラーではありがちですが、そう考えると牛鬼が化けているのも「赤子に関して特別に思い入れのある女性」や、あるいは牛鬼そのものがその女性の変化かもしれません。

〇全てを燃やす逆縁の理

 一曲目のモチーフである純狐はただ純粋なまでに「子供が戻ってきてほしい」と切望する思いを訴え、二曲目のモチーフである牛崎潤美は「実在しない赤ん坊を抱いている姿」を想起させます。させませんか?僕はすごくイメージできました。

この手は 冷めきった 心には届かない
灯りがついた 逆縁の理

 特にこの歌詞「灯りがついた 逆縁の理」は、つまり歌い手の願い、妄想の世界が始まったことを表していて、この直後に静かになるアンビエントなパートがきます。
 僕はここで、ノイズが入った映像と共に赤ん坊を抱く虚ろな表情の牛崎潤美と純子のシルエットが入れ替わって頭の中が忙しくなります。浮遊感とともにエラーみたいな描写が妄想されます。誰か映像化してくれないかな。ものすごく怖くて僕一人の頭の中に留めておくには気が狂いそうなので……

 「彩られた黒い枠」「逆縁の理」の歌詞は現実にはあり得ない真逆の光景、或いは今ある現実を無理やり捻じ曲げた理想の世界を想起させます。

灯りが消えていく 逆さまな世界
もう戻せない カケラを集めても
この声は 冷めきった 体には届かない

 そして逆縁の理の世界はゆっくりと灯りが消えていき、赤ん坊も、返される愛情もない世界が戻ってきます。それから「ゼロの瞳をそっと閉じた」。(何も映らない光景、何も理想的でない光景、何も変わらない現実、を終了する)


 ……という感じの二曲だと僕は解釈しました。Part1のタイトルUnseen Lettersは「見られることのない手紙 = 知られることのない思い = 現実には叶いやしない、言えもしない、変わりもしないこと」という意味で、Part2のタイトルReverse Fateは「逆の運命 = 理想の世界 =現実にはあり得ない光景」のことだと思います。
 純狐の視点からするとunrequited loveとは「夫」に対するものではなく「子供」に対するもので、切望し願い妄想したrequited loveの世界とは「子供が生きている世界線」のことなのでしょう。暴力的だけど儚いな。

 叙情ハードコアに分類されるジャンルの楽曲だと思いますが、すごく映像的で、またあまりに攻撃的で感情的で恐ろしいパワーを感じる楽曲でした。純狐というキャラクターの持つ果てしない憎悪を牛崎潤美というキャラクターの元ネタを糸口に描き切るこの二曲、ものすごく面白い二次創作だと思います。めちゃくちゃ陳腐に言うと和ホラー×昼ドラ的内容でちょー怖かった。ゾっとした。納涼。



*おまけ(英語の個人的勉強メモ)*

※room for ~で「~の入る余地」
※sentimentは英英辞典で"exaggerated and self-indulgent tenderness, sadness, or nostalgia"(感情をある種我儘に誇張すること)とあるので、単に「感情」というより「強い感情」とか「大袈裟な感情」とかそういう感じ

※with your own eyesは違う用法"see with your own eyes"でたくさん使われている、のでちょっと一般的じゃないかも……seeが省略されていると考える?かなり文法的かつ説明的に書くならlive that seeing with your own eyesってところか。
※live with your sorrowで「悲しみと共に生きる」「悲しみに耐えて生きる」なので、your own eyes = your ***(感情、出来事)とか、そういうもののメタファーなのかも)

※the same oneって何に対して「全く同じもの」なんだ……?「過去のあなた」「以前のあなた」なのかな?oldが省略されてるとみるべきか

※repeatは「最初から最後まで同じように繰り返す」で、単にもう一度やるってだけならagain。この場合は「頭の中で「あなたが私をどう思っていようと関係ない」と何度も反芻(repeat)してReverse Fateを生み出す」という流れなので間違ってない。
※social discourseの訳。「世論」かと思ったけどpublic opinionの方が常套句っぽい。直訳で「社会的言説」で、言説とは「言うこと」そのものなので、世論みたいな大きいものや既に形成されているものとは違い、個人が言い放つことっぽい。大意としては「社会に対してモノ申す」?まあ「自流の言説」とかでいいのかも。