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スミフ製オフィスの素晴らしさを、つらつらと。②

 物件個別のネタに入りたいのですが、その前にスミフさんの基本プランと根底に流れる思想のまとめ。
 あ、あくまで同業として外から見ていた立場での推察ですこと、ご承知おきを。

 何故ここまでスミフさんのオフィスビルを称賛するかというと、基本形と飛び道具の組み合わせが上手いなと常々感じていたためです。
守破離がしっかりしてる感じ。守:基本形 / 破:物件個別施策 / 離:り?、、、離職者数?
 で、本記事は前者の「守」のまとめ。

スミフの基本形① 執務室形状

 まず、オフィスビルの形状。
 彼らは奥行深い執務室形状に執念を燃やしています。
 大体、奥行き20~25mを目途に長方形とし、容積率消化が困難なときは長方形を組み合わせたL字型に発展します。だいたい、こんな感じ。(住友不動産汐留芝離宮ビルより)

汐留芝離宮ビル

 長方形は座席レイアウトしやすく、均一な奥行&柱スパンにより組織改編時の机移動も簡素にすみます。なのでテナントもコスト含めて使いやすい。
 逆に外壁側が斜めや湾曲の場合は、デッドスペースができて期待するほどは座席を取れなかったり。まぁ、長方形でつくると面白みのない外観になりがちですが。その点で対局にいるのが森ビルかな。

 また、必然的に片側コアとなるため、廊下等の共用部面積を最小限に抑えられ、床面積全体に対するオフィス貸床面積の割合(レンタブル比、レンタ比)を高めやすいのも特徴です。
 一般的に多い奥行は、構造や小割貸し時の室形状を考慮して18m前後。が、スミフさんは20m超が当たり前なのでちょっと異質です。上図もさらっと450坪と書かれてますが、片側コアではフツーにありえないです。
 多分、デメリット承知で極限までレンタ比を高めてるのだと推察します。

 ちなみに、このスミフ方式を採用すると驚くほどレンタ比があがります。で、収支OKです!って喜び勇んで報告して、リーシングチームの偉い人から、小割貸し対応しづらいんじゃボケェ!ってボコボコにされます。されました。

スミフの基本形② 空調方式

 次に働く人の環境に直結する空調設備。
 オフィス空調って個別空調(通称ビルマルチ)とセントラル空調っていう2つの方式に大きく分かれます。

 前者は家庭用エアコンのお化けみたいなやつ。屋上に室外機、各フロアに室内機を設置するシンプル構成。ゾーン別のON/OFFが容易でテナントも使いやすい。工事費も安くて、屋上室外機は容積率対象外なので床面積効率も高く、良いこと尽くめ。

 後者はビル内の設備室に熱源・冷凍機設備を配置して冷熱を一か所で作り各フロアに届ける方式。環境性能は高いけど、ビルマルチに比べて細かい対応をしづらいのが難点。あと、工事費が高かったり、設備室に無駄な面積食われたり、更新が大変だったり、細かい原価管理がしづらかったり。

 下図が設備構成のイメージ(日本管材センターさんのWebより拝借・加筆)

空調方式比較

 で、スミフさんは言わずもがなビルマルチ一択です。環境よりもお客様。環境よりも床効率。環境よりもイニシャルコスト。
 他社も中規模まではビルマルチなのですが、大規模ではセントラル空調が多いです。これには理由があるのですが、追ってご説明。

 ちなみに、建築の教科書ではセントラル空調は称賛されてます。が、実務上でコレをそこまで褒めている人には滅多にお会いしません。熱源設備が飯のタネの東京ガスの人くらい。

スミフの基本形③ 豪著なエントランスとかシャトルエレベーターとか

 これはイメージしやすいのですが、スミフさんのエントランスは空間の使い方が豪著です。足を踏み入れた瞬間のバーン!って感じ。
こういうやつ。(住友不動産新宿グランドタワー)

西新宿グランドタワー_エントランス

 あと、エレベーター(ELV)もシャトル式を頻繁に導入してます。エントランスから大型ELVに乗ってスカイロビーに行くアレ。

 意匠デザインの好みは人それぞれなのでコメントする気はありませんが、まぁ、なんか分らんけど、エリートな感覚に浸れるあの無駄さ。まさに光景(シーン)となる象徴(シンボル)。

実際に計画してみると

 スミフさんのオフィスの基本骨格は上記の3点がベースになってます。細かい設備仕様・スペックも凄く練られているのですが、これらは初期企画の次のフェーズの話なので、ちょっとパス。

 で、これだけだと、へぇ~スミフさんっコダワてるねぇ。って話で終わります。が、実はこれらの基本形を大規模・高層オフィスに導入するのって結構難しいんです。というか慣れてない人が作るとプランが破綻します。

 何故かというと、大規模・高層オフィスでは
① コアが肥大化して奥行が取りずらくなる = 片側コアは難しい
② ビルマルチは配管長制限から導入が困難 = 中央熱源とせざるを得ない
③ 高さ制限や床効率から、思うほどエントランス空間を確保できない
ってのが大きな理由です。

まず①の理由。通常では高層化によってELV台数が増加し、片側コアでは裁けなくなります。で、執務室の奥行を調整して凹型もしくはロ型でEVを配置する形になっちゃいます。こんな感じ。(天下の地所さまの新丸ビル)

新丸ビル_フロアプラン

 ②はビルマルチの室外機 ⇔ 室内機の配管長に限界があるため、高層タワーだと屋上から配管が届かなくなります。そもそも物理的に難しい。なので、高層大規模ビルでは自然とセントラル空調となっていきます。

 ③は、できなくはないのですが容積消化の兼ね合いから、あまり無駄な床を取りたくないのが本音です。最近は容積率がバブっていることもあって、高さ制限や空地確保の関係から効率的な容積率消化が難しかったり。

 ということで、「スミフって長方形でビルマルチでエントランス豪華のパターン好きだよね~」というお話、ネタとする前に通常、高層タワーでは成り立たせ辛い組み合わせを実現していることに気づくべきなのです。

スミフの導き出した答え

 じゃあ、スミフさんがどうやって業者ネタにまで昇華された基本形を実現しているかというと。。。

 まず、彼らは「極限までレンタブル比を高めた収益性の高いオフィス」を実現するために基本形をつくりだしたと推察しています。
 そのためには「奥行の深い長方形執務室」が最優先であり、高層タワーでコレを実現するために試行錯誤していったのかなと。

① 高層オフィスで奥行20m超の執務室をつくりたい。
② ELV台数が増えてコアが肥大化するので、片側コアが困難。
③ じゃあ、シャトルELVを採用してコア面積を圧縮しちゃえ!

多分、こんな順番。
ビルマルチ空調についても、、、

① レンタ比を高めるためには中央熱源による設備室設置は避けたい。
② でも屋上にビルマルチ室外機を置いたら、冷媒管が執務室まで届かない。
③ ならば片側コアに出来たし、その外側にバルコニー作って屋外機を置いてしまえ!

恐らく、こんな感じ。
 豪著なエントランス空間は執務室を広げた結果、1階にも出来てしまった奥行深いスペースを上手く活用しているのかなと。あと、天井高に余裕をとりながらも、広いスペースの一部をメザニンフロアにして必要な共用部を設けることで、高さや床効率への影響を最小限に抑えてるようです。(下図、汚くてスンマセンm(__)m)

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 つまり、レンタ比を極限まで高めるために片側コアとした結果、シャトルELVや1階に広い空間を設けざるを得なくなった。で、逆にコレらを上手く利用して価値を付ける相性の良いデザインとして、あの、バーン!な感じに至ったのではないかと考えています。
 また、片側コア実現により、室外機バルコニーが配置可能となり、高層タワーでもビルマルチ空調が導入を実現できたと。
 長方形の執務室もテナントの使い勝手ではなくレンタ比を突き詰めた結果の副産物を上手くアピールしてるのかなと思っています。

まとめ

 ということで、長々と書きましたが一見特異に見えるスミフさんのオフィス、実は収益最大化を最優先にプランニングした結果と受け取めています。
 テナントさんが使いやすい、、、等はあくまで副産物。確実に収支ファースト、カスタマーセカンドです。

 もちろん、彼らがテナントさんを軽んじている訳ではなく、この先に検討していく設備スペックや顧客リレーションも他社より十二分に優れていると思っています。
 ただ、事業の方向性が固まる最初期の構造と基幹設備の検討に関しては、事業性を最優先として、付帯発生する制約をアイディアで上手く補う企画をしているなと感じています。

 不動産は物件の個別性が強いので、全てが全て上記の基本形に収まっている訳ではありません。ただ、これらの各ビルのプランニングのベースには上記基本形があり、物件ごとの収益最大化を図るために、個別のカスタマイズとして突飛な手法を使っているようです。

※ちなみに2010年くらいから、ビルマルチや片コアの高層オフィスも徐々に増えてきました。これは上記のスミフメソッドが認知され、広まったためだと考えています。流石スミフ、業界標準を変えやがったぜ!

プランの判断基準について

 あと、ありがたいことに多様な立場の方が読んでくださっているので、プラン良し悪しに関する私の基準について。
 自身は一級建築士でもありますが、建築やデザインには驚くほど、情熱もコダワリもありません。

 「お金を生み出す仕組みを作ることが好き」でして、その手段として開発企画をやり続けてきました。なので、デザインや運営管理について熱く語られると若干引きます(笑
 自分の得意な所を突き詰めていこうってスタンスでして、得意分野以外はそちらに情熱をもって取り組める方に任すが吉かなと。

 で、これだけスミフのオフィスが好きなのも、私が突き詰めていた「効率的にお金を生み出す装置としてのプランニング」が徹底されてるからです。本記事も以降の記事も、私の評価基準はそこにあるという前提で読んで頂けるとありがたいです。

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