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ポール・モラン 『シャネル 人生を語る』 を読む

シャネルが60歳前後に、自身の半生を、友人ポール・モランに語ったものを書き起こしたもの。
孤児院育ちを隠し続けたシャネル、というのは聞いていたけど、具体的にどういう嘘でシャネルが少女時代の物語を作り上げたのかということは知らなかった。
アメリカに移民したお父さんが、軍隊のための馬を飼育していた叔母の、ブルターニュの農家に彼女を預けたこと、裾を引きずるようなレースのドレスを仕立ててもらったりしながら、たまに馬を試しにくる軍隊の若い男と喋ったりしたこと。そのドレスへの不満と、そして軍のダンディな男たちとのやり取りから、後々の彼女を思わせる、常に何かに怒っているかのような、不遜な彼女の自我が確立し、それがパリのファッションを覆っていったのだということ。
実際は、姉と一緒に孤児院に預けられていた、それを知りながら、モランは彼女の作り上げた、この「物語」を書き起こしたのだと、後書きにあった。
全部、彼女の作り上げた「嘘」と言ってしまえばそれまでなんだけれど、架空の叔母とのお茶会がどんなだったか、叔母があてがってくれた屋根裏部屋にどんな宝物を見つけたのか、その嘘のディティールの細かさを思うと、もうこれはこれで、彼女の創造した作品の一つである、と考えた方が適切なんじゃないかと思う。
シャネルは宝石の価値を転倒させ、イミテーションアクセサリーをドレスに合わせることで、装いの真価を問うたけど、宝石、が現実のヒストリーなのだとしたら、イミテーションアクセサリーは、彼女が作った嘘で、でもシャネルの場合はその嘘の方に本当がある。
そんな意味でも、とっても面白い人。
ちなみに、樋口一葉より11年後に生まれたんだよね。

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