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2023/24シーズンにバイエルンへ加入した選手の個人的総評

前書き

 2023/24シーズンのブンデスリーガが終了した。12連覇目を目指したバイエルンはレヴァークーゼンとシュツットガルトに次ぐ3位であった。
 スーパーカップではライプツィヒに敗北し、DFBポカール、チャンピオンズリーグでも敗退し、タイトルを獲得できずにシーズンを終えたバイエルン。
 本テキストでは無冠のシーズンとなった2023/24シーズンのバイエルンの選手補強を振り返り、来シーズン以降の補強について考えたい。なおドイツのサッカー雑誌『kicker』に倣い、最高を1、最低を6とする6段階で選手を評価する。

2023/24 夏

ダニエル・ペレツ 6

移籍金:5m€
リーグ戦出場:2試合(途中出場:1)0得点


 ノイアーが欠場している間はウルライヒが出場し続け、穴を埋められず。決して小さくない期待のもとマッカビ・テルアビブから加入した23歳は、残念ながらその期待を裏切る形となった。

ラファエル・ゲレイロ 5

移籍金:フリー
リーグ戦出場:20試合(途中出場:7試合)3得点


 トーマス・トゥヘルが率いるチームにゲレイロが加入したことで、良い化学反応が起きることを期待したバイエルンファンは非常に多かっただろう。しかしその希望が実現することはなかった。
 左サイドバックや中盤、ときには右サイドバックとしても起用されたゲレイロは器用にプレーしてみせたが、期待を上回るほどではなかった。年明けまでにリーグ戦で5試合しか出場しておらず、稼働率もよかったとはいえない。
 ウニオン・ベルリン戦やケルン戦、ハイデンハイム戦のゴールは見事だったが、間違いなく彼の今シーズンハイライトはその3ゴールであり、彼が今シーズンのチームにおいてどれだけ影響力があったかといわれれば、ほとんどなかったと評価せざるを得ないだろう。

キム・ミンジェ 4

移籍金:50m€
リーグ戦出場:25試合(途中出場:3試合)1得点


 今シーズンのバイエルンで過大評価された選手の1人。前半戦のブンデスリーガベストイレブンに彼を選んでいるデータサイトがあったが、バイエルンの試合を全く見ないままつけた評価としか思えない。
 たしかにミンジェは今シーズンの前半戦、何度かバイエルンを危機から救った。しかしそのうち何回かは彼のミスから生まれた窮地だった。
 デ・リフトが負傷もあって出遅れた前半戦はウパメカノとミンジェのセンターバックコンビで活躍したが、後半戦はデ・リフトとダイアーのコンビに取って代わられた。この事実がミンジェが今シーズン受けるべき評価を物語っている。

コンラッド・ライマー 3

移籍金:フリー
リーグ戦出場:29試合(途中出場:11試合)0得点


 異様なほどに過小評価されている選手。右サイドバックとしても、守備的な中盤としても優れた能力を発揮した。
 ザビッツァーと取って代わる形でバイエルンに加入したライマーは、優れた運動量とポジション適正で攻守両面でバイエルンを支えた。フィジカルがあり、守備時の位置どりもよく、飛び出すタイミングも適切だった。
 2022/23シーズンの第33節で、バイエルン相手にライマーが見せた輝きは素晴らしかったが、その彼がバイエルンに加入してくれたことほど、心強いことはない。
 キミッヒが安定しない時期もあった今シーズンのバイエルンにとって、ライマーは非常に重要な存在だった。

ハリー・ケイン 1

移籍金:95m€
リーグ戦出場:32試合(途中出場:0試合)36得点


 バイエルンが未だ来シーズン以降に大きな希望を残せているのはケインがチームにいるからだ。レヴァンドフスキと並ぶ理不尽なまでの得点力は、今シーズンのバイエルンに欠かせないものだった。
 正直にいって、シーズン開幕前の私はケイン獲得に反対だった。理由は大きく2つある。1つ目の理由は年齢面である。30歳のストライカーに1億ユーロをかけるという選択は、適応面でも、将来性でもリスクを伴う。
 2つ目の理由はホーム・グロウン制度である。イングランドのクラブは一定以上の人数のイングランド人選手を在籍させなければいけないというルールがあり、それに伴ってイングランド代表選手は市場価値以上の移籍金が必要になることが多くある。
 交渉相手がダニエル・レヴィーということもあり、そこに費用と時間を割くくらいなら別のストライカーを狙うべきだと考えた。
 しかし今思えば、ケインほどのスター選手を1億ユーロほどで獲得できたことは素晴らしい出来事だった。ブンデスリーガで対戦した17クラブすべてから得点を挙げ、最終的に積み上げた得点数は36。2位のギラシの28得点も素晴らしい数字だけに、圧倒して見せたケインがいかに恐ろしいストライカーとしてリーグで君臨しているか知ることができる。

フランス・クレツィヒ 評価不能

移籍金:昇格
リーグ戦出場:0試合(途中出場:0試合)0得点

タリク・ブッフマン 評価不能

移籍金:昇格
リーグ戦出場:0試合(途中出場:0試合)0得点


2023/24 冬

サシャ・ボエイ 6

移籍金:35m€
リーグ戦出場:2試合(途中出場:1試合)0得点


 不足する右サイドバックの人材として獲得されるも、負傷して長く離脱した。来シーズン以降はマズラウィと主戦場を争うかもしれないが、個人的にはマズラウィのプレーの方が好み。
 端的にいって、今シーズン最も悪い補強の一つ。

ブライアン・サラゴサ 6

移籍金:ローン
リーグ戦出場:7試合(途中出場:6試合)0得点


 今シーズンのバイエルンで最も奇妙な選手獲得のひとつ。正直にいって、なぜバイエルンが彼を獲得したか理解できない。
 すでにコマンやニャブリ、ザネ、ムシアラ、テルを抱えるバイエルンのサイドアタッカーの陣容は欧州屈指で、30代を迎える選手が誰もいない以上、22歳のアタッカーを補強する必要性は皆無だった。
 たしかにグラナダでブレイクし、移籍金も比較的抑えて獲得できるスペイン人アタッカーと考えれば、多くのスカウトから引きがあっただろう。しかしバイエルンは彼の獲得を考慮に入れるべきではなかった。
 誰が主導して、どういう経緯で彼を獲得したのかはわからないが、現時点では完全な「悪手」である。これまでの試合で活躍する姿はなく、充実した既存のスカッドを考慮しても、来シーズン以降のバイエルンでサラゴサが活躍する姿は想像しようがない。

エリック・ダイアー 2

移籍金:ローン
リーグ戦出場:15試合(途中出場:2試合)0得点


 今シーズンのバイエルン最高の補強選手がハリー・ケインなら、次点はおそらくダイアーだ。
 彼のバイエルン加入は多くのサッカーファンにとって懐疑的に映ったことだろう。トッテナムで先発出場できない選手がバイエルンでスタメン争いをできるのだろうかと。
 実際、私は獲得を心から歓迎したが、中盤と守備ラインの控えの選択肢が増える程度にしか考えていなかった。しかし彼は大方の予想を大きく裏切った。
 2016年のユーロでロシア代表相手に決めたフリーキックを見て以来、私は彼のファンであったが、その彼が2024年にバイエルンへ加入し、活躍している事実が非常に嬉しい。

アレクサンドル・パヴロヴィッチ 2

移籍金:昇格
リーグ戦出場:19試合(途中出場:5試合)2得点


 今シーズンのバイエルンの救世主の一人。キミッヒとゴレツカが安定しないなかで、良い動き出しを見せる場面があった。客観的に評価すれば、まだブンデスリーガでプレーするレベルには達していないようには思う。守備面に不安があるうえ、ビルドアップでも安定しているとはいえない。
 最終局面での思い切りの良さを活かして、成長を続けていってほしい。

来シーズンの補強への展望

 今シーズンのリーグ戦を3位で終えたバイエルンの課題はどこにあっただろうか。ビルドアップが安定しないセンターバック、埋まらない右サイドバックの「穴」と「心ここにあらず」のアルフォンソ・デイビス、負傷しがちで復帰後は不調のノイアー、負傷続きのニャブリとコマン、不調に陥ったゴレツカとキミッヒ、さまざまな問題をバイエルンは抱えた。
 しかしここで着目したいことは2023/24シーズンのバイエルンのスカッドはあまりにも充実していたという点だ。センターバックには素晴らしい選手が3人いるし、ダイアーもいる。枚数だけでいえば、ウイングは過剰にいるとも言えるくらいだ。
 総じていえば、来シーズンのバイエルンはほとんど補強の必要性がない。右サイドバックこそ完璧な適任者が不在だが、レヴァークーゼンから復帰するスタニシッチに十分任せられるし、マズラウィもいる。
 おそらく去るであろうアルフォンソ・デイビスの後釜にはテオ・エルナンデスの補強が騒がれるが、個人的にはフランス・クレツィヒを起用すべきと感じる。テオの補強は、金額面でも能力面でもいい選択肢とは思えない。
 2024/25シーズン限りで引退するのではと言われるミュラーのポジションを埋める存在にはヴァナーに期待したい。左足での展開力、打開力は魅力的だ。
 中盤はシャルケからウエオドラゴを獲得できる可能性が高い。彼がいきなり起用されることはあまりないと思われるので、キミッヒ、ライマー、ゴレツカの3人の奮起に期待したい。総じてスカッドは十分である。では2023/24シーズンのバイエルンの最大の問題は何だったか。それは前フロント陣が招聘した監督にあったとしか思えない。
 シーズン終わりにチームが安定したことでトーマス・トゥヘルの残留がささやかれたが、とんでもないことだ。トゥヘルの消極的で、かつ運任せのスタイルはドルトムントやシュツットガルトなどメンバーを固定して速い攻撃を展開するチームの格好の餌食になった。
 リーグ優勝はともかく、シーズン最終戦で敗れて3位になったという結果は話にならない。ポルシェ社からのサポートがあったとはいえ、シュツットガルトの補強予算はバイエルンと比較してどれほどだろうか。
 来シーズンは昨シーズンまでバーンリーで監督を務めたヴァンサン・コンパに監督がバイエルンを率いることとなった。ムシアラやデ・リフトを中心に「若返り」を図りつつあるバイエルンにとっては、似た状況にあったバーンリーを率いていたコンパニを連れてくるという選択肢は非常に理解できる。来シーズン、コンパニ監督率いるバイエルンがどんなサッカーを見せてくれるのか、楽しみでならない。

後書きに代えて

 バイエルンはクラブの方針を模索中だと聞いたことがある。なぜ「シティユース」の選手をうまく起用するコンパニを新監督に据えたのか、それぞれグラードバッハ、ザルツブルクでの若手発掘のシステム作りを評価されたエバ―ルとフロイントをフロント陣営に呼んだのか、様々な考えに頭を巡らせる。
 ブンデスリーガが「バイエルン一強状態」かといえば、まったくそんなことはない。むしろ移籍市場ではドルトムントやライプツィヒの方が注目を集めるときすらある。それぞれベリンガムとグヴァルディオルを1億ユーロほどで売却してみせたのは見事としかいいようがない。
 何が正解で、何が間違いなのか。イングランドはシティとチェルシーの下部組織出身者が多くのクラブでプレーし、パリ・サンジェルマンの下部組織出身者はヨーロッパ中で高い評価を受ける。
 バイエルンはどうだろうか。売るクラブにはなってほしいと思わないが、それも「賢い選択肢」といえるのではないか。何が正解で、何が間違いなのか。一つだけはっきりしているのは、バイエルンがどのようになろうと、私はバイエルンを応援し続けるということだ。

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