「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring songの感想

はじめまして、わんこそばです。

本記事は2020年8月15日に公開された「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring songの感想記事です。
独自の略称やゲーム映画共にネタバレを含むため注意。

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概評

<悪かった・気になった点>
・諸々の説明不足
・イリヤが言峰をビンタするシーンがなかった
・士郎VS言峰でEMIYA#LEGACYが流れなかった
・hollowアニメ化の告知がなかった

<良かった点>
・それ以外全部!!!(特にライダー、イリヤ関連の補完)

悪かった点・気になった点

・説明不足について

1章、2章の時点で分かっていたことではあるが限られた尺の関係上どうしても削らなければいけない場面が多く、初見お断りの雰囲気が強い。
顕著なのは型月作品の醍醐味である重厚な世界観への説明不足だろう。

例えば魔法について。
型月世界における魔法がどのようなものかは最初にプレイする凛視点のプロローグにて説明され、その後もしばしば話題に上がるワードだ。
型月世界で現在魔法に該当するものは6つ。
そのうち第二魔法「平行世界の運営」と第三魔法「天の杯(ヘヴンズ・フィール)」。この2つがHFの内容に関わってくるのだが、映画HFではその辺りの説明がかなりバッサリカットされていた。
聖杯についても同様だ。小聖杯、大聖杯、孔、アンリマユなどキーになるワードはいくつも登場したがどれも詳しく言及されることはなかった。
これらの要素は原作をやっていても理解するのが難しく、ましてや映画でペラペラとかいつまんで語られても正直訳がわからない。
実際私は原作を復習してから鑑賞したためなんとか理解できたが、一緒に行った原作未プレイ勢の友人は首を傾げていた。
これらはHF、ひいてはFateを紐解く上で重要なワードのため事前に理解しているかしていないかで映画HFの評価は分かれるだろう。

もう1つ説明不足が目立ったのが言峰の動機について。
HF3章内でも言峰他人の不幸に愉悦を感じる性質であると言及はされているものの、それがこの世全ての悪の誕生の祝福という手段に繋がるのかはかなり端折られている上に音声で説明されるため理解へのハードルは高い。(原作未プレイ勢でもZeroを見てれば多少マシだが)
森での攻防戦で臓硯を狙った理由についてもバッサリカットされており、
ラストの士郎VS言峰も安っぽく映った。

・イリヤが言峰をビンタするシーンがなかった

見出し通り。超見たかったのに...

・士郎VS言峰でEMIYA#LEGACYが流れなかった

これもそのまま。
この曲を聴きたいがために劇場に足を運んだと言っても過言ではないくらい好きなBGMなので非常にショック。

・hollowアニメ化告知がなかった

一番の謎。
おそらく私は異聞帯のHF3章を観たと思われる。
編纂事象ではエンドロール後に「さぁ、聖杯戦争を続けよう」というアンリのセリフの後予告が出て劇場が大歓声に包まれていたはずだ。

良かった点

ビンタ、LEGACY、hollowアニメ化に関しては、完全に筆者個人の趣味嗜好だが、説明不足に関しては3章に限らず映画HF全体に言える共通の弱点である。
しかしそれ以外の弱点は全くないと言ってもいいほどの完成度を誇る本作。
その魅力をキャラ毎に掘り下げていこうと思う。

・ライダー

個人的に映画HFで株を上げた人物NO.1。
注目すべきは最終決戦前の士郎との語らいから「桜は私のような怪物にしたくない」というセリフ(記憶が正しければアニオリのはず)。
HF3章が延期しなければ同時期にアニメFGOバビロニアが放映されていた。
アニメバビロニアでは怪物になったライダー=ゴルゴーンが登場するため原作勢・未プレイ勢問わずイメージしやすかったのではないだろうか。
他にも衛宮邸の庭で桜に優しく語りかける姿、アインツベルンの城に向かう士郎と言峰を血が滲むほどに腕を握りながら見つめる歯がゆそうな姿など桜への親愛の情が原作よりもかなり分かりやすく表現されている。
これによりライダーをかなり身近に感じられたのはかなりポイントが高い。

あとはなんと言ってもVSセイバーオルタ戦だろう。
HF一番の見せ場とも言えるシーンであり私もとても好きなシーンのため事前の期待は過度なまでに高かったが、その期待を見事に裏切った。
勿論いい意味である。
敏捷Aらしく鎖と足場を利用し縦横無尽に飛び回る戦闘スタイルも、マトモに映像化されるのはDEEN版以来だったりする騎英の手綱もめちゃくちゃかっこよかった。
どうでもいいがツタンカーメンみたいな体勢で足からセイバーに突っ込んで行ったのは真面目なシーンなのにクスッと笑ってしまった。

・イリヤ

私は自身のtwitterにて2章初見時から再三「イリヤの出番少なすぎ!出番減らすならノーマルエンドにしろ!」とネガキャンを重ねてきましたが撤回してお詫びします。大変申し訳ありませんでした。

何故怒っていたかというとHFは大人の事情でカットされたイリヤルートの要素が多分に盛り込まれており、Trueエンドに辿り着くには桜だけでなくイリヤの好感度も挙げなければいけない関係上イリヤの出番がおかしいだろ!ということと(まぁイリヤの好感度は14日目=HF3章の内容から稼いでも間に合うが)単純に私がロリコンだからである。はい。
その中でも特にブチギレたのが原作の「12日目・商店街/ローレライ」のエピソードが削られていたこと。
共通で興味本位でマスターの権利を捨てたらバーサーカーにミンチにされ、そのときに流れていたローレライがトラウマになった方も多いと思われる
かくいう私もそのクチだが、この「12日目・商店街/ローレライ」によって大好きな曲にになった。
トラウマBGMという印象自体は完全に払拭できていないものの、とても落ち着くような、それでいて悲しいような。
まさに少女性と残虐性両方を持ち合わせるイリヤにピッタリのBGMといえるだろう。
型月展に行った時は物販コーナー入口前に設置されているオルゴールの見本を気に入りすぎて10分以上聴いていたほど。
そんなエピソードを一枚絵で流されたらそりゃブチ切れるなという方が無理だ。

これらの事情がありHF3章は期待半分・疑念半分で観に行ったが、いやぁ最高だったな...
表情豊かになってるし、レアルタのときよりずっと演技良くなってるし(2006年発売作の演技と比べるのもアレだが)、何より2章ですっ飛ばされたローレライでの問答が最終決戦前の会話に採用されたのが嬉しすぎる。
原作では互いにもう長くないからと聖杯戦争後一緒に暮らす申し出を拒んでいたが、HF3章では士郎の唇にソッと人差し指を当てるのに変更する辺り映画HFスタッフあまりにも優秀すぎる。
また森の攻防戦にも手が加えられており、言峰に抱きかかえられているだけだったイリヤがHF3章では真アサシンに魔術で応戦し一緒に戦っており、庇護対象・妹枠のイメージが強かった原作から一気にヒロインらしくなっていて非常に素晴らしい。

そしてラストシーンだよ...
こんな感想記事を書くくらいには感情がクソでかなオタクなので涙が止まらなかった。
1席感覚を開けての入場で助かった、通常通りだったら危うく両隣の人二ドン引きされていただろう。
心残りがあるとすればBGMにローレライが使われなかったことくらいか。
ただ前述の通り聖杯や魔法関連の説明がされていないため未プレイ勢は折角の名シーンでさぞ???を浮かべたと思うと可哀想になってくる。

・臓硯

1章2章での気持ち悪さや外道感は素晴らしかったが、3章では小物っぽくなったり、ラストのモノローグなど原作より劣化したように思える部分が目立つ。
尺が足りないので嘆いても仕方ないことではあるが。
またイリヤや言峰同様設定、動機を知っているかいないかで理解度がぜんぜん違うキャラのため、未プレイ勢にとってはただただ不快なキャラとして映ったかもしれない。
とはいえ200年前の臓硯イケメンすぎるし大聖杯の魔法陣作成時の葛藤の表情により一気に人間らしく見えてよかったし概ね満足であるといえる。

・真アサシン

3章はなんかいいとこなしだった気がするな...
臓硯同様1章2章は良かったのになぁ。
これまた臓硯同様説明不足による被害者...ではあるが真アサシンの願いはfgoで簡単に知れるのでイリヤ臓硯言峰の3人よりかは理解しやすい点はグッド。
影の支援ありとはいえ作中最多サーヴァント討伐数を誇る凄いお方なのは忘れないであげてほしい。

・アーチャー

直接出番があったわけではないのに株を上げた男。
例のペンダントを「最後まで持っていなくちゃいけない気がする」と士郎が言っていたがこれはアーチャーの左腕の影響による発言である。だからこそ肉体を失った士郎に手を差し伸べたのがペンダントの元の持ち主である凛ではなくペンダントを生涯持ち続けたアーチャーなのだと思う。

・バーサーカー

Fate→UBW→HFとプレイする毎に株を上げてきたが映画でまたまた株を上げてきた。
原作との相違点は「お前が守れ」の前に息子を失って発狂するカットが追加されただけだが、fgoでイアソンなどが語るのではなくヘラクレス本人の記憶がでるのは割と珍しかったりするので嬉しい。(アルケイデスはまた別だが)
シンプルにかっこいいし強いし流石ギリシャ最強格の英霊なだけある。

・言峰

悪かった点に書いたとおり説明不足による被害者筆頭。
ただ原作を知っていればそれほど気にならないので、憎たらしくて仰々しくて鬱陶しいのに何故かかっこいいみんな大好き麻婆神父でした。

・凛

Fate・UBWが表のFateだとすればHFは裏のFateと言われるように凛の魅力もFate・UBWとHFでのものはかなり違ってくる。
HFでの、凛の裏の魅力は冷たさにある。
UBWとHFの演技を比べてみると分かるが、HFの凛はほとんどの場面で冷たい声を発している。(インタビューによると意図的にやっているそう)
だからこそあのシーンが映えるんだ......(泣)
黒化した桜を正気に戻すキッカケを作ったのは士郎ではなく凛なのが素晴らしい。
士郎が桜の罪を一緒に背負い共に歩む存在だとすれば、凛は桜の前を歩き道を示す存在なのだろう。

宝石剣ゼルレッチはvita版レアルタのOP以来の映像化、改めて見るとぶっ壊れていて笑った。
ゼルレッチに関しては第二魔法知らなくても画面が派手だからあまり気にならないのではないかと思う。
アレがfgoだと桜の弁当や慎二の人形と同じレアリティなのヤバいでしょ。

・セイバー

ライダー戦後の表情が至高。詳しくは士郎の時に。
スパークスライナーハイ、BD特典で映像化してくれたりしない?

・桜

やはり設定の説明不足感はあるものの3章かけてじっくり描かれたため、桜というキャラクターの心情や魅力について今更語る必要はないだろう。

印象に残っているのは凛が倒れた後の叫び声。
レアルタだと絶叫や発狂という表現が似合う叫び方をするが、HF3章だと絞り出すような叫び声だったのが素晴らしい...
ここに限らず細部の拘りから伝わってくる制作陣の熱意が映画HFを神作たらしめている一因だろう。

・士郎

慎二の死体を見つけたときの力の抜けた声、ついてきやがれなど安定の叫び声、そんなヤツとは縁を切れの優しい声、今までの士郎の演技の中で間違いなく最高で凄い人間味を感じた。
15日目・森の工房・後半/Nine Bullet Revolverも最高だった。
believe(UBW前半ED)のアレンジが流れたのだけでも嬉しいファンサだし、そこから梶浦サウンドエミヤに繋いてついてきやがれ───!で映画館内はクーラー効いてたはずなのに汗が出たのを覚えている。
是、射殺す百頭は思ったよりもアッサリしてたけど八点の急所を神速で斬り伏せる技だしあんなもんかなとも思う。
vita版レアルタのOPのイメージが強すぎて引っ張られているのもあるだろうし、2周目以降に落ち着いて観たいところ第1位。

セイバーVSライダー戦後の止めを刺すシーン...アレは、ヤバい。
HF単体で見るとセイバーとは仲良くなる前に別れたのでそこまで辛くないけど、原作だと50時間くらいプレイしセイバーの魅力を知り尽くした上であのシーンを迎えるわけだから、本当に辛い...
それを思い出していたところでセイバーの呆然とした表情と士郎の必死に泣くのを堪えるようなあの表情を見せられて泣くなと言う方が無理がある。

左腕による剣の侵食は原作でもかなりエグかったのに、更にエグくなってた。
他ルートは多少の怪我こそあれど割と無事に戦いを終えるのに対して、左腕に侵食され記憶がなくなり体中から剣が生えてきて果てには魂だけの存在になっている辺りHFが如何に過酷な運命だったのかがよく分かる。

VS言峰は前述の通り残念な部分もあるけど文字通り死闘って感じがして良かった...まぁアレは原作が強すぎるから見劣りするのは仕方ないだろう。

ラストシーンで失くしたはずのイリヤの名前を何度も呼ぶの切なくてまた泣くし、言峰の言う通り自己に帰る願いを持たなかった士郎が心の底から「生きたい」と言えるようになったことがもう...もう、ね...?

何よりHFはアーチャーの腕を使い、ゼルレッチの秘宝を持ち出して、苦しめられてきたライダーや破戒すべき全ての符を頼り、味方だったセイバーを破り、ほんの一瞬の時間の差で言峰を下し、イリヤに助けられて、凛のペンダントに手を伸ばして、HFだけでなく全ルートで経験した全てを使って掴み取った結果って感じが最高なんだよ...

エピローグはBGMのせいか原作よりかなり暗く感じたが、原作が桜の背負う罪を考えると明るすぎるのでアレくらいでいいのではないだろうか。
ライダーにビビるみっちゃんとか一成とか蒔寺も見れて満足だけど、あんなの見せられると余計hollowをアニメ化してほしくなるわ。
そして士郎と桜、2人で一歩踏み出す演出。
こういうのをサラッとやるHFスタッフはやはり最強。
そしてEDの春はゆくがこれまたいい曲。
その日々は夢のように、私にとってもFateを応援してきた6年間は夢のようにあっという間だったが胸を張って楽しかったと言えることを思い出してまた泣いた。
ローレライで泣いて君を忘れるで泣いて遠坂姉妹で泣いて士郎の生きたいで泣いて門を閉じるイリヤで泣いてEDで泣いて、HF3章を見てこれだけ泣いた人間はおそらく私以外にいないだろう。

総評

HF3章は間違いなく原作勢も未プレイ勢も全員が楽しめる最高の一本だった。
しかし原作をプレイしていた方が100倍面白いため、もしこの記事を読んでいて原作をプレイしていない方がいれば原作をプレイした上でもう一度鑑賞することを強く推奨する。
オススメは勿論PC版(特にHFは表現が過激)...と言いたいが現在入手難易度が高いためセイバールートが無料のスマホ版レアルタがオススメである。

終わりに

ほぼ同じ内容のものをツイートしていたがまた別の媒体で形に残したいと思い、今回はnoteに投稿させていただいた。
鑑賞後の感動が少しでも伝わったのなら幸いだ。
ここまで約6200文字綴ってきておいてなんだが、私がsnで一番好きなルートはUBWだし何ならFateで一番好きな作品はhollowだったりするのは秘密である。

2020,8,16

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