『霊能サークル』第2話

小学校は電気も壊れていて真っ暗だ。そこかしこに蜘蛛の巣があり、床をネズミやゴキブリが走り回っている。
茜はリュックから懐中電灯を出して、前を照らした。

「太一、彩人、加奈子」

茜と一緒に3人の名前を呼ぶが返事はない。
低級霊を祓いながら1階を全て回ったけど、強い悪霊の気配を感じる事はなかった。階段を上って2階に行く。

「茜、強い霊力を感じる、気をつけろ」
2階を少し歩くと、さっきまでは感じなかった強い霊力を感じた。そして、その霊力が強い悪霊以外に、禍々しいものがいる気配がする。だが、その禍々しい気配は現れたり消えたりしている。
やはり、2階のどこかが異空間と繋がっていて、禍々しい気配をもつ何かが出たり入ったりしているのかもしれない。

そんな事を考えていると、突然、巨大な悪霊が現れた。
何体もの恨みを持った悪霊が合体して、巨大な悪霊となっているようだ。
このくらいの悪霊なら祓える。

「茜、離れろ」
俺が茜に指示すると、茜は俺の後ろ3mくらいのところまで逃げた。
茜は霊の声は聞こえないが、気配を感じる事が出来るので、こういう時に助かる。

俺は巨大な悪霊に手のひらを向け霊力を解放しながら、祓詞を唱える。
悪霊は「ゴブッ」とか「グヘッ」と言う声を出しながら、一体ずつ剥がれて消えていく。
俺はよし、と思い、さらに強い霊力を悪霊に向けた。
すると、悪霊は力を振り絞って、俺の方に近づいて来た。
俺が下がれば、茜に危険が及ぶ。
俺は下がることなく、祓詞を唱え続ける。
悪霊が俺の前まで迫って来た。それでも、俺は悪霊から目を離さず、睨みつけた。
悪霊の頭部分から「グワッ」という声が響き、悪霊は空中分解して消えていく。
俺は最後の一体が消えるまで、悪霊に霊力を放ち続けた。

「勇気、無事で良かった!」
巨大な悪霊が消えると、涙目の茜が俺に抱きついてきた。

「もう大丈夫だから。茜、ヒーリングをしてよ」

俺が茜に頼むと、茜は「うん」と言って俺の身体から離れて、両手で俺の右手を握った。
茜の手から俺の右手に癒しの力が流れてくる。
5分程、俺は茜の力に癒されていた。

「ありがとう、もう大丈夫! 茜、禍々しい力をあの音楽室から感じるんだ」
俺は音楽室を指さした。茜は俺の右手から手を離して頷いた。
俺達は音楽室の前まで行った。

そして、バンと思い切り音楽室のドアを開けると、中に加奈子が倒れているのが見えた。

俺が音楽室の中に入ろうとすると、「勇気、入ってくるな」という太一の叫び声が聞こる。
俺は驚いて中を見た。太一の声が聞こえるけど、太一はどこにもいない。

「加奈子と太一をこのままに出来ない」

俺は太一に聞こえるように大声を出した。

「この音楽室は悪魔の空間と繋がっているんだ。勇気が中に入れば勇気も悪魔の空間に取り込まれてしまう」

太一の声がピアノの後ろから聞こえてくる。あそこが悪魔の空間と繋がっているのか。
俺は今までこの世界にいる悪霊を退治してきた。異空間と繋がっている穴の話は聞いた事があったけど、今まで見た事がなかった。
俺がどうしたら良いのか思案していると、俺の後ろにいた茜が、

「悪魔の空間に引っ張られたら出られないんだよね? 引っ張られそうになったら、この入り口からロープで引っ張れば良いんじゃないかな? 太一と加奈子も助けられるかも」と言った。
そうか、その手があった。

「体育館の用具置き場になら綱引き用のロープがあるんじゃないか?」
「そうだね。すぐに取ってこよう。太一、加奈子、待っていて」

俺と茜は音楽室のドアを閉めて、体育館に向かって走った。

小学校を出ると、山岡刑事と池谷刑事が僕達に気づいて、近づいてきた。
「行方不明になっている子達は見つかったのか?」
山岡刑事が不安そうな表情で俺に聞いた。

「音楽室が悪魔の空間と繋がっていて、太一はそこにいます。加奈子は音楽室に倒れていました。中に入ると俺達も悪魔の空間に連れて行かれるので、ロープを使って2人を救出します」

俺は早歩きで体育館の用具置き場に向かいながら、山岡刑事に説明した。

「はぁっ! 悪魔の空間? ラノベの世界じゃないんだぞ!」
池谷刑事が俺を馬鹿にするような目で見た。今は池谷刑事に説明している場合じゃない。
俺は池谷刑事の事は無視した。

体育館に着くと、すぐにドアを引っ張った。鍵がかかっていて、ドアはびくともしない。
「職員室に鍵があるはずだ。池谷、鍵を取って来てくれ」
山岡刑事が池谷刑事に頼むと、池谷刑事は一瞬不機嫌そうな顔になったけど、すぐに「わかりました」と言って、職員室に向かって走って行った。

山岡刑事は俺の顔を見て、首を傾けた。
「行方不明になったのは3人だと聞いたが?」
「彩人はまだ見つけていません。でも、太一が知っているはずです、まず太一と加奈子を助けようと思います」
僕は山岡刑事ならわかってくれると思った。

「なるほど。音楽室は2階か、勇気君、私も一緒に音楽室に行くよ。見張りは池谷だけで十分だ。綱引き用のロープは重い。君一人では運べないからね」

山岡刑事が俺の目を見ている。俺はコクリと頷いた。
池谷刑事がこちらに向かって走っている。山岡刑事の前まで来ると、「ありました」と言って、体育館の鍵を渡した。

山岡刑事が体育館の鍵を開けると、俺はすぐに用具置き場に走った。
山岡刑事が懐中電灯で用具置き場の中を照らしてくれたので、綱引き用のロープはすぐにわかった。俺と山岡刑事でロープを音楽室まで運ぶ。
その後ろを茜がついて来た。

池谷刑事も一緒に来たそうにしていたけど、山岡刑事が「池谷はここで見張りをしていてくれ」と言ったので、しぶしぶ「わかりました」と答えたのだ。

音楽室の前に付いた。僕は「太一、大丈夫か?」と呼びかける。太一は小さな声で「ああ、大丈夫だ」と答えた。
僕は太一に、僕がロープを持って中に入って、太一と加奈子を救出すると伝えた。

「ロープは責任を持って私が握っているから」
山岡刑事はそう言って、ロープを持ちながら俺の肩をポンと叩いた。
僕はロープの先を持って、ゆっくりと音楽室に足をふみ入れる。
今は禍々しい気配は感じない。倒れている加奈子の前まで行き、加奈子の手首をさわり、脈を確かめる。

「加奈子は生きてる!」
僕は音楽室のドアの外にいる茜と山岡刑事に大きな声で言った。そして、加奈子に「大丈夫か?」と声をかけた。

「あ、勇気…」加奈子が薄っすらと目を開き、弱々しい声を出した。
「加奈子、立てるか? 音楽室から出よう」
加奈子は立ち上がろうとするが、力が入らないようだ。
俺は加奈子を抱えて、ロープを持った。

「太一、加奈子を外に出したら、次は太一を助けるから」
太一に声をかけると、「わかった」という太一の声が聞こえた。

片手で加奈子を支え、片手でロープを持ちながら、ゆっくりと歩く。
悪魔が邪魔をしてくるかと思ったけど、何事もなく加奈子を音楽室の外に出す事が出来た。
「加奈子、良かった」茜が加奈子を抱きしめる。
加奈子は「うん」と答え、そのまま目を閉じてしまった。

俺は太一を助ける為に、またロープを持って音楽室の中に入った。
加奈子の時に何の妨害もなかったので、きっと太一の時も大丈夫だろうと思って、油断した。
ピアノの側まで行くと、急に強い禍々しい気配を感じたのだ。

「勇気、ロープから手を離すな!」という太一の叫び声が聞こえ、俺は慌ててロープを強く握った。

ピアノの奥には黒い穴が開いていて、まるで銀河系のブラックホールのように穴に向かってすごい風が吹き、穴の中に吸い込まれていく。
「勇気!」
茜の声が聞こえる。音楽室の入り口から山岡刑事が思い切りロープを引っ張っている。
俺はロープをギュッと握りながら、太一が穴の前に大きな結界を作っている。
俺を吸い込もうとする力は強いけど、なんとか結界が俺を守ってくれている。

「勇気、このままでは吸い込まれてしまう。逃げろ!」

穴の中から太一が叫んだ。俺は結界に小さな穴をあけて太一に向かって手を伸ばした。吸い込む力に負けて、結界が破れていく。

俺の手がもう少しで太一に届きそうになった時、穴の中の太一が中に吸い込まれて行った。

「勇気君、戻るんだ!」
山岡刑事がものすごい力でロープを引っ張った。俺はあっと言う間に、外に出た。
「勇気、大丈夫?」
茜が俺の顔を覗き込んだ。

「太一がいなくなった」
俺の手はもう少しで太一に届くところだったのに。
太一を助ける事が出来なかった。
「もう一度、中に入って太一を助けます!」
俺が中に入ろうとすると、山岡刑事が俺の頬をひっぱたいた。

「今度中に入れば吸い込まれるぞ! 太一君はいなくなったんだろ?
今はここにいなさい」
山岡刑事がキツイ口調で俺に言った。

「太一!」
俺は大声で太一を呼んだ。だけど、太一の声は聞こえなかった。








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