四葉美亜

もの書き。 『神奈』同人。 百合好き。 なんかいろいろ模索してるひと。 Twitter…

四葉美亜

もの書き。 『神奈』同人。 百合好き。 なんかいろいろ模索してるひと。 Twitter https://twitter.com/miahclover28 カクヨム https://kakuyomu.jp/users/miah_blacklily

マガジン

  • 昭和90年に生きる

    とある日本の片隅に生きるものかきのエッセイじみたもの

  • 「夢みる」-文芸同人誌『神奈』寄稿作品集/四葉美亜

    文芸同人誌『神奈』寄稿作品集/四葉美亜

最近の記事

  • 固定された記事

 蒸し暑いベッドの上で、カッターナイフが手首を撫でる。さしたる痛みも伴わずに、私の皮膚が裂ける。血の赤が滲む。  そこには無数の傷があった。  五年間の、傷の累積。  傷つくのはほんの一瞬、ほんのちょっとしたことが原因だけれど、傷跡はしつこく残り続ける。  傷跡は私に押し付けられたみっともない烙印。わかっているからやめられない。鋭い冷たさは心地よかった。それがどうしても忘れられなくて、私は私を後戻りできないくらいに傷つけたくて、薄く剃刀を走らせる。その割に、五年前につけられた

    • /閑話-夏至と蝉と、

       少し。  庭でユウスゲの花が咲いた。蝉が梅雨明けを告げはじめた。傾き始めたころあいの夏の入りの陽はどうしてこんなにもあざやかなのだろうか、と考えて、草木の緑がより深いコントラストをもつからだと気づかされる。あかい陽と深緑に落ちた黒々とした影が、それも暑さでひとの気配を失わせてくれるから、とても私好みの景色になってくれている。 さんざ動き回ってFGOにもログインし忘れるくらい、ぼく(――ここではあえてこの一人称を使わせてもらうのだけれども、――)の日々は忙しなくなっている。

      • 昭和90年に生きる/2.新聞小説から学んでみた -『星屑』-(1)

         とある薦めがあって、新聞小説を読むことになった。  わがやで取り寄せている新聞には、村山由佳の『星屑』が載っている。作者名を検索してみると、ふむ、寡聞にして読んだことがないだけで、たくさんの作品をかかれている方のようです。代表的な作品のあらすじを少し見ると、「女性」についてよくかいていることがわかる。『星屑』も、女性が中心だ。  そして私事ではあるがもうひとつ。  私には新聞を読む習慣がない。新聞を読むのはもっぱら祖父母であり、私なんぞはテレビ欄も見ない。いまどきの若者とし

        • 昭和90年に生きる/1.散兵線の華と散れ-日本男児と令和、それから『堕落論』-(2)

           もの書きの端くれとして作家の技術的な読み方をしても、やはり面白い。武士道と戦陣訓を比較しながら、突然、こんなふうに書き出したりしている。 『小林秀雄は政治家のタイプを独創をもたずただ管理し支配する人種と称しているが、必ずしもそうではないようだ。政治家の大多数は常にそうであるけれども、少数の天才は管理や支配の方法に独創をもち、それが凡庸な政治家の規範となって個々の時代、個々の政治を貫く一つの歴史の形で巨大な生き物の意志を示している。政治の場合於て、歴史は個をつなぎ合わせたもの

        • 固定された記事

        マガジン

        • 昭和90年に生きる
          4本
        • 「夢みる」-文芸同人誌『神奈』寄稿作品集/四葉美亜
          3本

        記事

          昭和90年に生きる/1.散兵線の華と散れ-日本男児と令和、それから『堕落論』-(1)

          「歩兵の本領」という歌がある。帝国時代の日本でつくられた、有名な軍歌のひとつだ。NHKの連続テレビ小説『エール』で、帝国軍歌の「第一人者」たちが取り上げられたことについては記憶に新しいが、この歌はさて、かのプリンスが歌ったかどうか。  私はこの歌にちょっとした縁があり、かれこれ10年くらい聴いているので、最近思い切って出勤時間のアラームにしてみた。これがなかなかどうして、士気の上がるものである。(ちなみに目覚ましにはスッペの「軽騎兵」を設定している。)  先ず断っておくのだけ

          昭和90年に生きる/1.散兵線の華と散れ-日本男児と令和、それから『堕落論』-(1)

          昭和90年に生きる/序

           学生時代にものした文章を読み返した。  ギリギリ3年前と主張できる時期のもので、名目としてはレポート・論文だったが、中身は故郷の紀行文である。とある歌人と歌枕について述べようとしたものではあったが、いつしか講義内で示された課題から逸脱して、歌枕の方に軸足を置いて書いてしまったのだった。然し、主題のズレはともかくとして、出来じたいは悪くはない。  以下、引用。  ……午前の陽射しは暖かいくらい。風もそこそこに、兼ねてから好い日和を狙っていた私は今日この日と定めて「歌碑さ

          昭和90年に生きる/序

          月下美人

           今夜月下美人が咲くよ。朝、祖母が言った。一輪だけではなく三輪も、同時に。今晩ばかりは鉢植えを玄関から上がり框に入れて、その一夜限りの花を楽しむことにした。  私が高校から帰って来た時には、まだそれは蕾は膨らんでいるだけだった。ちょうど、紡錘形の白いランプのようなかたちをしていた。これが咲くのだろうか、と疑問を抱くくらいにそれは未熟に見えた。けれど、祖母が言うのだから、今夜咲くので間違いないんだろう。  果たして、月下美人は咲いた。三輪同時に。  お風呂から上がった私が玄関の

          月下美人

          手紙  今はなきあなたに、送るもの

           拝啓――、あなたはどうして、その道を選んでしまったのですか。  一月。  あなたの歩いた道を、歩きました。その道には、通行止の標識が置いてありました。道は、途中で、変わってしまっていました。もう、あの道は、ありません。新しくなりますから。  けれどそこまでの道を、私は歩きました。あなたの歩いた道を、私は歩きました。  七年ぶりだったのかしら。思えば、……思えば、随分と遠くを歩いたものです。かの沿線を離れられない私は、それでもこの道だけは、意識的に、遠ざけていました。六年前は

          手紙  今はなきあなたに、送るもの