診断メーカーのお題でショートストーリー

主人公紹介
美亜 天才的な技術を持つメカニック。
その腕前に見合わない小さな町工場で働いているが、軍需企業から引き抜きされそうになるところから物語は始まる…。
口癖は「大丈夫だ。問題ない」
#shindanmaker
https://t.co/55dlrSfP2I

[大丈夫だ。問題ない、僕は貴方を信じてる]

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僕はしがないメカニック。構造と規格さえ分かれば大体コピー出来る。
友人にはもっと高給な大手で雇ってもらえと言われたけれど、
まぁ融通の利くこの職場が気に入ってる。

ある日社長に呼び出されて、(クビになるような事したかな)と考えを巡らせてみたが
見当がつかない。そうこうしてるうちに、社長室の扉の前まで来ていた。

トントントン。

[椎名です。お呼びでしょうか]
[ああ、入ってくれ]

ガチャ

少し白髪混じりで50代くらいの男性。あごひげにラフなシャツ姿。
歳の割には、筋肉質で、飛行艇を造る人に似ているなと思った事もあった。

[社長、僕、何か呼ばれるような事しましたっけ?]と開けながら
社長に問いかけて
視線を上げると、誰か居る。

[あー、えーっと?すいません。取り込み中でした?]
僕はシンとした部屋の空気が悪いなぁと思い、ドアを閉めようとしたが、

[良いんだ、椎名君、君にお客さんなんだよ]

(はあ…僕に?一体何なんだ?)

[こちら銃火器メーカーで名高いイーグル・アイ・インダストリー社の
鷹瀬くんだよ。さ、席に着いて]

(鷹の目に鷹瀬…そのまんまか…)

僕はローテーブルを挟んで向かい合わせに鷹瀬さん、右側に社長という
配置でソファーに腰掛ける。
それにしても、ピリピリと肌を刺す空気、鷹瀬さんって人は何者なんだ?
圧が凄い。
スーツはパリッとしているし、オールバック気味で左前髪だけ
下ろした髪型、眼鏡、シワの無いシャツ、形のいいネクタイ。

[初めまして。私、イーグル・アイ・インダストリーの鷹瀬です。
椎名さんの事は人づてに聞き、今日は挨拶に伺いました。]

低くて丁寧な声。悪い人ではなさそうだけど、
僕を訪ねてくるなんて、さっぱり理由が分からん…

[初めまして。椎名 美亜です。
えーっと…僕の事はどこまで知ってらっしゃるんですか?
誰に僕の事聞いたんですか?これでも交友関係狭くて。]

[ああ すいません。あなたのご友人と仕事の繋がりで、
一般技師には直せないほど壊れた時計をそっくりそのまま直してくれたと
凄い手を持ってるから、何かあったら頼んでみれば、と
それはそれは何度も時計を見せていただいて。]

あの野郎…たまたま部品が揃っていたし、コンディションも良かっただけなのに
こういうの苦手なんだよなぁ僕…

[そうだったんですか…たまたま上手くいった日だったんで
僕はそんなに凄くないですよ…]

そうだ。僕は本当にただの人なんだ。
人体の構造を知っている医師が居るように、基盤、部品、配線がどのように繋がって
どうしてあげれば1番良いパフォーマンスをしてくれるか
視えるだけのただの人だ。

[折り入って、あなたに頼みたい事があります。いや、あなたを、
あなたの腕を買いたい。
私どもの社で、魅せてくれないだろうか。]

…は?何言ってんだ、この人は…
そもそも僕の専門は、機械工学だし、銃火器は畑が違う。
人の絶望を引き出す武器は触りたくないんだ。

[ごめんなさい。僕は行けません。
此処が好きだし、何より専門外です。]

僕の故郷は、一度無くなった。
くだらない争いで、取り返しのつかないその先へ。

今では口癖になっている、この[大丈夫だ]も
数えるのが面倒になるくらい人間と機械を治療して
安らかに逝けるように、いつの間にか口から出ていた言葉だ。

過去は過去として、受け止め、未来に希望を求めて
僕は技術者になったし、この人たちも生きる為の仕事だと認識してる。
だけど、僕はこの手をそっち側に使いたくない。

[分かりました。今回は挨拶だけと思っていたので諦めます。
それにしても、あなたの目は輝いてる。今度は私用で来ます。それでは。]

社長との短い挨拶で帰っていったあの人、
僕が苦手にしている部類の人種か…

[どうして断ったんだ、椎名くん。
イーグル・アイは世界中に子会社を持っていて、給料も申し分ない
此処で働くより良い暮らしが出来るのに。]

まぁ、普通はそうだよな。生きる為に働くし、良い暮らしの為に高給な所で働きたいもんだよな。

[社長、僕は此処で働きたいから断ったんですよ。
給料の問題じゃないです。それに、僕はどうやらあの人が苦手みたいで。]

[ん〜、全く君って奴は。
俺を持ち上げるのが上手い。今日は飯奢ってやるから、好きなもん食えよ。]

[本心ですよ。ありがたくご相伴に預かります。]

[おう。じゃあ後でな。]

ガチャ バタン

[さ、さっさと直してやらないと…]

そのまま僕は作業中のテーブルに戻るのであった。

この後、どんな展開が待ち受けているか知る由もなく。

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