【本と食べものと私】豚のしっぽに呼び覚まされた記憶 ー 大きな森の小さな家 ローラインガルスワイルダー著 ー
某スーパーで買い物中、冷凍肉のケースの中にふと、豚のしっぽがあるのが目に入った。豚のしっぽ。
その瞬間、私の頭の中にぱーーっと、ある光景があざやかによみがえった。
よみがえった、というのはおかしいかもしれない。それは私が実際に見たわけではなく本の場面なのだから。
でも、よみがえった、というのがその時の私にとって一番的確だったのだ。
一軒の小さなログハウス、その前には二人の小さな女の子。二人ともクラシカルなかわいらしい花柄ワンピースのようなものを着ている。庭では焚火にかけられた大きい鍋にお湯が煮えたぎり、大人たちが丸ごと一頭の豚をさばいている。
姉妹は、豚をさばく日だけのお楽しみである、1本だけのしっぽを木の枝に刺し、かわるがわる火にかざしてあぶる。じりじり焼けるしっぽからは脂がしたたり落ち、そのたびにジュっと火の粉が飛んで姉妹が楽しげな悲鳴をあげる ───
アメリカ開拓時代の生活が、実体験に基づいて書かれた『大きな森の小さな家』の中のワンシーン。
でも。
どうして日曜日の昼間のスーパーで、私はまるで自分もその場にいたかのようにありありと、こんな光景を思い起こしているのか。
この本はたぶん、小学校の低学年ごろに図書館の児童書で読んだのが初めてだったと思う。その後にももしかしたらシリーズ二冊目の『大草原の小さな家』を読んだと思う。最後に目にしたのは遅くても中学生のころ。
正直、それほどお気に入りの本というわけでもなく、子どものころにありがちな、何度も読み返すようなことをした記憶もない。
それなのに。
なぜこんなにも記憶に鮮明なのか、と言えばそれはもう理由はだだ一つ、おいしそうなシーンだったから。それに尽きる。
こういうのは今回だけのことではない。
よく、と言うほどではないけどちょくちょく身に覚えがある、「食べもののことだけはよく覚えている」現象。
まったく何て言うか、困ったことだ。私の脳みその少ないメモリの中に、もう少し有用な何かを入れておけないのか。
自分のムダな記憶力に驚き呆れつつ、その冷凍豚のしっぽを1パック、買って帰った。
そのパックにはしっぽばかり短いものは10センチ弱、長いのでも15センチくらいのが、6、7本は入っていたと思う。
その中から3本を取り出して軽く塩をふり、魚焼きグリルで焼いてみた。
脂が落ちてじゅうと音をたて、キッチン中に香ばしい匂い。こんがりと焼けたそれをお皿に取り、あちちとかじる。細い骨のまわりに少しの肉と皮。コラーゲン感。脂が熱い。それにしてもなんであのお店は豚のしっぽとか売っているのか。好きすぎる...
お皿に残った、しっぽ3本分の骨。
ローラとメアリーは、二人で1本のしっぽをかじったのに。
遠い昔のアメリカ開拓時代。森の中のログハウスの生活に思いをはせる。
もちろん本を読みたくなって、ネットで探して購入した。
シリーズものなので1冊目を読んだら続きも読みたくなる。
なんだか思ったよりもたくさんあるみたいで、しばらく読み続けることになりそう。