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稲葉浩志10年ぶり6枚目ソロアルバム『只者』#2

(約2600字)
 稲葉さんのTV出演がつづいて喜んでいます。with MUSIC、CDTV ライブ! ライブ!の次がFNS歌謡祭でした。この番組へのソロでの出演ははじめてとか。
 そこで披露された曲は、このアルバムの3曲目に収められたStray Heartsでした。 昨年のフジテレビ系ドラマ「あなたがしてくれなくても」の主題歌だったので、そりゃあもう、FNS歌謡祭にもってこいですよね。

 せっかくなのでその録画を2回見ての感想を交えて書きます。
 Stray Heartsをあえて訳せば「さまよう心」。検索してもそれほど用例はないので、オリジナルの表現に近いのかもしれません。検索結果上位のほとんどがこの曲にたどり着くなか、海外の犬猫保護団体の固有名詞としても使われています。主題歌が使われたドラマのテーマはちょっと難しいものでしたが、迷い犬迷い猫と登場人物の心とを重ねてイメージすると親しみがわきます。そういえば、Stray Catsというアメリカのロカビリーバンドもありましたね。
 ドラマは3回目くらいまで見て、奈緒ちゃんかわいい、岩田くんもかわいい、と愛でていましたが、挫折してあとは若者にまかせました(笑)

 で、FNS歌謡祭に登場されたときの衣装は黒のスーツに白のインナー。シンプルな衣装だけどきっとお高いにちがいありません。後ろのバンドの皆さんの出で立ちも素敵です。もうすぐライブで会えるかと思うとワクワクです。
 不穏な弦の響きから始まり、どことなくずっと不穏。ギター、ベースのほかに背後でストリングスの調べも聞こえます。
 全体的に切迫感と不安に導かれドラマチック。これは何かに似ている、何かに……と自分の脳内の古いデータベースを検索したところ――ラブストーリーは突然にっぽいような気がしてきました。表面的には似ていないけど。あくまで個人の感想です。
 
 稲葉さんによる歌詞は、日本語と英語を交えて韻を踏んだ表現が絶妙で、いつも感心することしきりですが、ここではこの部分に注目です。

教えてあとどのくらい
あなたにたどり着くまで
My baby don't you
My baby don't you cry

『只者』M3「Stray Hearts 」

 最初は「くらい」とcryだけと思ったのですが、「どの」とdon'tの音も踏んでいますね。しかも、1番の歌詞ではcryではなくsigh(ため息をつく)であり、2番ではじめて明確な韻に気付かせるのもなんだか粋です。ちなみに3番ではsmile。どれも[ai]の音で終わり、「くらい」との脚韻となっています。お見事です。

 サビの直前、1番でいうと「その背中遠く」の後にWow~という切ない叫び(これもcry)が入り、一瞬、明るい曲調に転じるかと思わせます。わたしの古い脳内データベースはこの部分で、つづけて「君のひとみは10000ボルト~」と歌い始めますが、そうではなく、サビは一段と混迷を深めた切ない調べとなるのです……。

 この日のパフォーマンスを見た結果、ドラマでは挫折したのに、今更ながら登場人物の切なさがわかるような気がしてきました。オンエア後1年を経て。B'zの曲もそうですが、稲葉さんの歌詞と歌声と歌い方には説得力があるのです。演じ切っているというか。
 非常に細かいところですが、稲葉さんが歌の合間に小さくコク コク コクッと、素早くうなずくような振りをすることがあり、この日もそうでした。もしかしてそこにも説得力の魔法がしこまれているのかもしれません。稲葉さんがうなずくなら間違いないと(笑)。たぶん海外アーティストもよくする振りだと思いますが、具体的にはわかりません。

 とはいえ、稲葉さんもドラマのキャラたちとは年齢的には離れていて、with MUSICのインタビューでも有働アナから、どうやって恋愛の詞を書くのか、みたいなことを聞かれていました。それとは別に、たぶんコンセプトアルバムFRIENDS IIIリリースの頃の会報インタビューには「恋愛ってどんなんだったっけ、と思い出しながら制作しました」みたいな話がのっていて面白かったです。

 稲葉さんの歌をTVで見慣れていない方には、マイクスタンドさばきにも注目していただきたいです。かなり前の発言だと思いますが、ご自身でもマイクさばきは知り尽くしている、みたいなことを言われていました。MY脳データベースは、世良公則やエルビスプレスリーをひきあいに出してきます。鮮やかに、まるで武術かなにかのようにさばきます。特に、2019年のB'z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE- で披露したある曲では、孫悟空かなと思うほどの華麗なマイクさばき具合でした。下の映像はこの曲を含まないダイジェスト版ですが、このライブもとても良いのでご参考までに。

 いろいろ脇道にそれましたが、FNS歌謡祭でのパフォーマンスが終わった直後にも注目です。あんなに激しく歌ったのに、全然息がきれていない。「わたし何か歌いました? もう終わりですか?」みたいな平然とした面持ちでオフ状態に移行されています。驚異の肺活量がもたらす賜物(たまもの)と言えるでしょう。

 ふたたび2000字を超えて1曲だけ紹介できました。次は何曲かをまとめて書く予定です。


【補足】
 昨日、書きながらうっすら思っていたのですが、気になるので追記します。
「どのくらい」が少なくとも歌詞カードの中で6回繰り返されますが、繰り返し聞くうちに don't know crying に変換されてきます。
 あえて日本語にすれば「泣いているのを知らない」または「泣くことを知らない」でしょうか。主語は明確ではありませんが、このドラマの、そしてこの曲の設定に合いそうです。泣くのは自分かもしれないし、相手かもしれない。それを知らないのも、自分かもしれないし相手かもしれない――と考えると深いですね。

 ひとつ前のアルバム Highway X の中の Hard Rain Love という曲の中に、「炎上 Love」という一節があるのですが、enjoy love または enjoy your love に聞こえて仕方なかったです。

 これはバイリンガルでの同音意義語ということでしょうか。
 このような手法は昔からあったのかもしれないし、他のアーティストもしているかもしれませんが、大好きです。



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