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地歌 新娘道成寺 5 能「三井寺」にみる鐘を恨む理由

4では、歌舞伎「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」第一段の白拍子花子のセリフをみました。
砂浜の景色の中を歩きながら、鐘に対する恨みを主人公が語っていました。


5では、能「三井寺」のセリフの中から、鐘に恨は数々ござる、の理由が語られている所をさがします。

地歌の歌詞の冒頭にある「鐘に恨みは数々ござる〜」の理由が、地歌の歌詞だけではわかリませんでした。なので、地歌がつくられた元になった歌舞伎「京鹿子娘道成寺」の説明をみました。

そうしたら、「鐘に恨みは数々ござる〜」のところについては、歌舞伎をつくる時に、能「三井寺」からもってきたものであるとされていました。

それで、能「三井寺」のセリフをみてみることにしました。

その能「三井寺」のセリフの中には、和歌が潜んでいるところがありました。

その和歌の歌の意味が、「鐘に恨みが数々ござる」の理由を語っているものでもありました。

その和歌はこちらになります。

待つ宵(よい)に 
更(ふ)けゆく 鐘の声聞けば
飽(あ)かぬ別れの 鳥はものかは


(新古今集)

(訳)
来るあてもないのに、あの人が訪れてくれはしないかと、待ちながら夜が更けていく。
時間が過ぎるにともない、
鐘の音が聞こえてくる。
そんな鐘の音ほど、さびしくさせるものはない。
それにくらべれば、
あの人が訪れてくれて、朝になり、
別れを惜しみながらきく鶏の声など、
なんのこともないのだ。

という内容です。

ああ、また鐘がなった、あの人は今夜もやっぱり来てくれないな、と更けゆく夜を一人で過ごすので、鐘の音が恨めしいのですね。


この和歌が以下の能「三井寺」のセリフのなかに織り込まれています。

和歌にでてきたような男女関係に関する単語もいくつかピックアップしました。

シテ「名所多き。鐘の音。
地「盡(つ)きぬや法の声ならん。
クセ「山寺の。春の夕暮れきてみれば入相の鐘に。花ぞ散りける。
実に惜めどもなど夢の春と暮れぬらん。そのほかの暁の。妹背(いもせ)を惜むきぬぎぬのを添ふる行方にも枕の鐘や響くらん。また待つ宵に。更け行く鐘の声聞けば。明かぬ別の鳥は。物かはと詠ぜしも。恋路の便の音信の声と聞くものを。又は老いらくの。寝覚程ふる古を。今思ひ寝の夢だにも。涙心のさびしさに。此鐘のつくづくと。思ひを盡(つく)す暁をいつの時にかくらべまし

● 妹背(いもせ) … 親しい間柄の男女。

● きぬぎぬの … 共寝(ともね)した男女が朝になってわかれること。その時刻。

● 恨 … 自分の思い通りにならないことを憎んだり、くやしく思うこと

● 待つ宵〜 … 待つ宵(よい)に 更(ふ)けゆく 鐘の声聞けば 飽(あ)かぬ別れの 鳥はものかは、の和歌。

● 明かぬ別(あかぬわかれ) … 名残惜しい別れ。

● 鳥 … にわとり

● 物かは(ものかは) … いやそうではない。ものともしない。なんでもない。

● 思ひ寝 … 恋しい人を思いながら眠ること。

● つくづくと … 1.しみじみと。しんみりと。 2.ぼんやりと。 3.よくよく。じっくりと。

● くらべまし … くらぶ、は1.比べる 2.競う 3.心を通わせ合う。付き合って親しくする、の意。
ここは1.の意味なのか?



成り立ち5は、能「三井寺」のセリフの中から、鐘に恨は数々ござるとなる理由が語られているとおもわれるところを探しました。

成り立ち6は、引き続き、能「三井寺」のセリフをみます。
こちらにも地歌「新娘道成寺」の歌詞を訳す際に、見ておいてよかったと思える所がありました。


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