見出し画像

心の通い合う大学病院「内分泌内科」の診察室、そして自然入眠を取り戻した話

ちょうど2年前に副甲状腺の手術をしました。今は3ヶ月ごとに大学病院の内分泌内科に経過観察に通っています。

地方病院から紹介で訪れた後、手術に踏み切るまでに1年かかったので、もう4年目に入ったのですね。

大学病院というところは先生方の異動がよくあり、初診時専門の先生を除けば今の先生で3人目。(手術とその前後は内分泌外科の先生にもお世話になりました。)

どの先生が主治医になるかはほんの偶然にすぎないのだろうけれど、私はその度に恵まれた出会いをしており、ありがたいなあ、と思わずにはいられません。

手術する決心がつかない私と毎月一緒に悩んでくださり術後1年間を寄り添ってくださった2人目の先生とのお別れは、突然やってきました。

次の順番で診察室前のベンチに待っていて、そろそろかな?という時に、中からかすかに患者のおじいさんらしき声が。

「本当にお世話になって、、、先生もお元気で、、、」


え?先生、異動なの?

、、、、心臓が早鐘を打つ。


ドアが開き、おじいさんが出てきました。首を力なく振り振り、後ろ手でそうっとドアを閉めると、小さな声が漏れます。
「、、、いやぁ、さびしくなっちまうなぁ、、、」

とぼとぼと、急なお別れを否応なしに受け止めつつ歩いていく後ろ姿を見送りながら私は、

わかるよ!
わかるよ、おじいさん。
先生はおじいさんにも今までどんなにか優しくて、どんなにか丁寧に向き合ってくださったんでしょうね。
そして診察室を出たらその日は1日心が温かくて、それで1週間くらいは頑張れましたよね!


しばらくして今度は私の番です。
ぐっとお腹に力を入れ、覚悟を決めました。

、、、、、、
その先生のこともいつか書きたいなと思っていますが、今日は現在の3人目の主治医のお話を。


主治医はヴァイオリン弾き

昨年の5月に初めてお会いした瞬間、安心感に包まれるのを感じました。なぜかはわかりません。前の先生が、後任はあなたと合いそうな気がする、と言ってくれたこともあるでしょう。


「体調はいかがでしたか?」

パソコンに向かいながらではなく、優しい目でまっすぐに身体をこちらに向け、話に耳を傾けてくれます。
そして検査結果の説明や指導、次回の相談などを終え、

「私はヴァイオリンを弾きます。」

「まあ!そうなんですね!」


私のカルテの職業欄を見てのことだと思います。時間にしてほんの1~2分、音楽のお話を交わしました。
トータル10分くらいの診察で、心の中に温かい新しい風が流れました。


帰宅してヴァイオリンが聴きたくなりました。私はヴァイオリンのことはあまりよく知らないし、CDも持っていません。
オーケストラ好きな知り合いに聞いたら、ギル・シャハムというヴァイオリニストのフォーレのCDを1枚貸してくれました。

フォーレなら、好きなピアノ曲がいくつかあるし、合唱をしていた若い頃、レクイエムが好きでどれだけ聴いたことか。
馴染めそうで聴く前からわくわくしました。

「ギル・シャハム・プレイズ・フォーレ」

画像1

ピアノは江口玲(あきら)、チェロはブリントン・スミス。
1曲目から惹き込まれました。
シャハムが好きな方ならば、そうそう!と手を打って頷いてくださるでしょう。

特に好きなのは5曲目の「ロマンスOp.28」優しいメロディーが天の高みにほろほろと掬い上げられていくようです。江口さんのピアノも素晴らしいです。

その晩、手術以降どうしても手離せなかった入眠剤に頼らずに眠れたのでした。
たまたまかもしれませんが、嬉しかった。その後もたまに眠れる日がありました。

次の、8月の診察でそのお話をすると、

「それは良かったです!シャハムいいですね。来日公演見に行きましたよ。」

なんと。


内分泌内科は特に患者の生活を丸ごと診る科であると、何かで読んだことがありました。

症状や検査数値などダイレクトな話だけではなく、患者の人生に寄り添ってくださることで心を開きやすくなり、患者自ら積極的に自分と向き合おう、という気持ちになります。

もちろん次の患者さんをお待たせしないように、私はちょうど目に入る壁掛け時計を確認しながらお話するようにしています。


「アバド&ベルリンフィル  ヨーロッパ・コンサート2002」輸入版Blu-ray Disc

画像2

次の11月の診察で、他にシャハムのお薦めの作品を尋ねると、アバド指揮ベルリンフィルと共演したブラームスのバイオリンコンチェルトを教えて頂きました。

さっそく検索してブルーレイディスクを購入。
恥ずかしながらこの世界的に有名な指揮者クラウディオ・アバドのことも初めて知りました。

なんて素晴らしい指揮者でしょうか。一言で言うと「温かい」
もう亡くなられたのだと知り悲しくてなりません。
シャハムとのブラームスも、ドヴォルザークの「新世界より」も、心が震えました。そして何回も何回でも見たくなります。

心が沈む時、不安でざわつく時会いに行き、心から安堵し、また頑張ろうと思えるから不思議です。


ついに薬なしで眠る感覚をからだが取り戻す   

11月の終わりに、YouTubeでよく見ていたある整体師さんの公式LINEから、500円ワンコインで受けられる睡眠セミナー(動画)の情報が入りました。

たまに自力で眠れる日があるものの、半錠だけでも入眠剤に頼る日の方が圧倒的に多かったので、なんとか抜け出したいと思い受講しました。

いろいろ勉強になりましたが、中でも睡眠の一番の敵は「副腎疲労」で、10項目の副腎疲労度チェックにたくさん当てはまる人はしっかり対策をしなければということでした。

私の場合はほとんど当てはまらず、ひとつだけそんな時もあるなあ、という感じで、
そんなに深刻な状況ではないのだ、ということがわかったのが一番の収穫でした。

その夜シャハムのフォーレを薄く遠くに聴きながら、なんといつの間にか眠りについていました。
そして次の日も、また次の日も。
12月6日からずっと、入眠剤を手にしていません。
からだが自然に眠る感覚を取り戻したのでしょう。私が自分のからだへの信頼を取り戻したとも言えます。


人が相手のお仕事の手本に

診察室を後にする時、感謝とともにいつも思うのは、私もこのように生徒さんと向き合っているだろうか?という問いです。

音楽を一緒にする中で、
目の前のどの生徒さんの存在もまるごと尊敬する前提に立てているだろうか。
安心してなんでも言えたり間違えたりできる場を提供できているだろうか。

「心より出で、願わくば、再び心に至らんことを」

ベートーヴェンがミサ・ソレムニスの楽譜の冒頭に記した言葉のように、心から心に伝わる、心が通い合うお仕事ができるように、いつかヴァイオリン弾きの主治医と語り合った事でもありますが、大事にしていきたいと思います。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?