往復書簡-出さない手紙-「由美ちゃん、ごめんね。」
私は間違っていたのかも知れない。
私の思っていた事があなたを縛りつけていたのかも知れない。
もっと自由にもっと好きなように、あなたが自分の人生を歩んでいれば、今とは違う未来があったのかもしれない。
私は兄妹が多くて、高校を上がるころには奉公にでて医学の勉強をさせてもらっていたの。
お父さんとは大学病院で知り合ってね、お医者さんって言っても研修医のお給料じゃなかなか生活が出来なくてね。良くおコメを借りに行ってたのよ。
あなたが生まれて、転勤が続いて、お友達が出来る頃には引越しで…
なにか手に職をつけさせたいと思ってピアノや習い事をさせていたけど。それもあなたにとっては窮屈な時間になっていのかな。
お父さんとお母さんが夜勤の時にはお隣の叔父さんの家に泊めてもらったり、急患の時は家に居なかったり、寂しい思いをさせていたのかな。
覚えているかな…。あなたが小学校の頃、私がヤカンをひっくり返して、あなたの太ももに熱湯がかかった時、お父さんとお母さんで応急処置をして傷が残らないように、ってあの時は心臓が止まるかと思った。あなたが高熱を出した時はお父さんが抱っこして救急に走ったこと。
あなたには、苦労して欲しくなかった。可愛い服を着て、良い学校に行って、良い所にお嫁さんに行ってもらえたらそれが、『幸せ』だと思ってた。
それが、いけなかったね。私の希望ばかりを押し付けて。
あなたが大学を辞めたい。って言った時に。私の教育が間違った。あなたがおかしくなってしまったのは私の育て方が悪かった。なんて落ち込んだわ、
そもそも…そんな考えだったから、あなたを追い詰めてしまったのね。
大学に行って、あなたの楽しそうな話を聞いて。心配だったけど、これで良いんだ。って自分に言い聞かせて、でも、まだ、あなたを思うようにいかしたくて。
顔を合わせたら、ケンカばかりだったね。
もっと素直にあなたの事を見てあげたらよかったのにね。
あなたが就職して、社長さんになったって聞いた時は、本当に嬉しかった。当時、女性が社長になるなんて凄く少なかったし、なにより、あなた自身の努力でそうなったんですもの…。あなたがベンツを買ってきた時はお父さん悔しそうだったわ。父の威厳みたいなものね。
でもね、
みるみるうちに、あなたが痩せていくのが見えてこのままだと、あなたが死んでしまう。本気でそう思ったの。『絶対に死なせない』是が非でも、引っ張ってでも連れて帰るつもりだった。
あなたから泣いて電話してくるなんて、
本当に母親失格だね、
娘が私の大切な娘がこんなに痩せ細って頑張っているのに、私はなにもしてあげられなかった。
今でも。ずっと後悔しているの。
あなたが会社を辞めておばあちゃんの介護に来てくれて、沖縄に住むようになって…
お父さんの転勤もあって、また一緒に住むようになって。
私はね。
あなたが羨ましく思うの、
男性の社会で働いて社長さんになって、たくさんオシャレをして、たくさんお酒を飲んで、私にはしたくても出来なかったから。
由美ちゃん…
お母さんね、今が1番幸せだよ。
たくさんお話しして、
一緒に朝ごはんを食べて。
一緒にお買い物して。
一緒に海に行って…
由美ちゃん。
ごめんね、
ずっと寂しい思いをさせてきたね。
ママのワガママばかり押し付けて
ごめんね。
由美ちゃんの「幸せ」が
わたしの「幸せ」だから
たとえ子供がいなくたって私はいいの。
私はあなたが世界で1番大切で
世界で1番由美ちゃんを愛してます。
あなたのお母さんにしてくれて、
ありがとう。
まだ、直接言うには恥ずかしいから
この手紙に書いておきます。
ママより。
たとえなにがあっても、私はあなたのお母さんです。ママです。
世界がひっくり返っても、あなたの味方です。
ママはあなたの事を愛しています。
大好きだらこそ、ぶつかって。
愛してるからこそ、憎しみも生まれます
だって、自分の分身なんだもの
思い通りには行かない事もあるけど
いつか必ず、分かり合える時がきます。
10年、20年時間がかかっても、
愛してるは続きます。
たとえ、離れてしまっても。
金城美衣子