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給与明細チェッカーが出力する税金が明らかに多いので調べてみた

給与明細チェッカー なるサービスが公開されたので、早速試してみた。
これは、月収を入力すると、税金や社会保険料の額、そしてそれらが何にいくら使われたかを表示するサービスである。

試してみると、実際の給与明細と比べて表示される社会保険料の金額はだいたい合っていたが、所得税と住民税は実際の金額の数倍と、明らかに多い金額が表示された。
いくら概算だとはいっても、さすがにこれはひどいだろう。
そこで、色々な金額を入力し、どうしてこんな大ハズレな結果が出るのかを調べてみることにした。


住民税

住民税は、定額の「均等割」と所得に比例する「所得割」からなる。
所得税・住民税の計算方法 | 所得税・住民税簡易計算機
によれば、(都道府県民税と市町村民税を合わせて) 基本的に均等割は 5,000円、所得割は 10% のようである。
さらに、社会保険料控除や、430,000 円の基礎控除がある。

一方、このサービスは、入力した値にかかわらず、入力した値 (月収) の10%の値を住民税として表示するようであった。
すなわち、控除や均等割を無視し、所得割のみを考慮して計算しているようである。

なお、住民税は過去 (去年~一昨年) の所得などによって決まった金額を天引きされるため、昇給やふるさと納税などの影響により現在の収入から計算した値と違ってくる可能性がある。

所得税

所得税の税率は、所得に応じて以下のようになっている。

$$
\begin{array}{|r|r|} \hline
所得 (月額) & 税率 \\ \hline
83円~ & 5\% \\ \hline
162,500円~ & 10\% \\ \hline
275,000円~ & 20\% \\ \hline
579,167円~ & 23\% \\ \hline
750,000円~ & 33\% \\ \hline
1,500,000円~ & 40\% \\ \hline
3,333,333円~ & 45\% \\ \hline
\end{array}
$$

なお、この表は
No.2260 所得税の税率|国税庁
の「平成27年分以後」に基づき、所得金額を 12 で割ることにより月額に換算したものである。

所得は、収入 (≒総支給額) から控除の金額を引くことで求めることができる。
控除には、基礎控除、給与所得控除、社会保険料控除などがある。

基礎控除は、所得が2,400万円以下の場合は48万円である。
No.1199 基礎控除|国税庁

給与所得控除は、給与等の収入の金額から求まる。
No.1410 給与所得控除|国税庁

給与の支給時に源泉徴収する金額 (所得税 + 復興特別所得税) は、支給額から社会保険料の金額を引いた値に基づいて表を引くことで求めることができる。
令和6年分 源泉徴収税額表|国税庁
この表を用いて求めた源泉徴収税額と、給与明細チェッカーが出力する所得税の金額を比べてみた。
なお、給与明細チェッカーが出力する社会保険料 (個人負担) は合わせて月収の 14.5% のようなので、表により源泉徴収税額を求めるために控除する社会保険料はこの額を用いた。

各条件での所得税の計算結果
各条件での所得税の計算結果 (グラフの最初の部分を拡大)

ほとんどの部分において、給与明細チェッカーが出力する所得税の金額は、甲欄 (扶養親族等の数 0人) の金額よりは大きいが、乙欄の金額よりは小さい値になっていた。
ただし、月給が約20万円を下回る部分においては、給与明細チェッカーが出力する金額が乙欄の金額を上回った。

さらに、月収の増加量に対する所得税の増加量の割合も計算してみた。

各条件での所得税の増加量の割合
各条件での所得税の増加量の割合 (グラフの最初の部分を拡大)

すると、給与明細チェッカーが出力する所得税の増加率は、だいたい「収入」をそのまま「所得」とみなしたときの所得税の税率に一致していることがわかった。
ただし、収入が340万円以上になっても、増加率は45%にはならず40%のままであった。

すなわち、給与明細チェッカーは住民税だけでなく所得税に関しても一切の控除を無視して計算しているらしいことがわかった。

提案手法 (所得税)

税額を厳密に計算するには、様々な控除の情報が必要であり、月収 (総支給額) だけの入力では不可能である。
そこで、月収 (総支給額) だけに基づき、ある程度の労力で現状よりも高い精度 (明らかに大ハズレという印象を受けない程度の精度) で税額を概算したい。

所得税については、以下の方法で概算できるだろう。

  1. 入力された月収 (総支給額) を12倍した値を、1年分の収入とする

  2. 1年分の収入に基づき、社会保険料の金額 (個人負担分) を計算する

  3. 1年分の収入に基づき、給与所得控除額を計算する

  4. 1年分の収入から社会保険料の金額 (個人負担分)・給与所得控除額・48万円 (基礎控除) を減算し、1年分の所得とする

  5. 1年分の所得に基づき、1年分の所得税の税額を計算する

  6. 1年分の所得税の税額を12で割り、1ヶ月分の所得税の税額とする

社会保険料の金額 (個人負担分) は、1年分の収入の 14.5% とする。

給与所得控除額の計算は
No.1410 給与所得控除|国税庁
の「令和2年分以降」に従う。
(この表の上の指示は無視し、収入金額が660万円未満でも他の表は参照しない)

所得税の税額の計算は
No.2260 所得税の税率|国税庁
の「平成27年分以後」に従う。

基礎控除について、所得が2,400万円を超えるケースは面倒なので無視する。

この提案手法と、源泉徴収税額表によって求めた源泉徴収税額 (甲欄 扶養親族等の数 0人) を比較してみた。

$$
\begin{array}{|r|r|r|} \hline
月収 (総支給額) & 源泉徴収税額表 & 提案手法 \\ \hline
15万円 & 2,150円 & 1,829円 \\ \hline
20万円 & 3,770円 & 3,216円 \\ \hline
30万円 & 6,750円 & 5,991円 \\ \hline
50万円 & 18,710円 & 16,958円 \\ \hline
100万円 & 99,172円 & 97,075円 \\ \hline
150万円 & 233,509円 & 228,400円 \\ \hline
200万円 & 378,264円 & 370,000円 \\ \hline
300万円 & 743,766円 & 712,000円 \\ \hline
\end{array}
$$

提案手法の計算結果の割合 (縦軸が0から始まっていないので注意)

全体的に実際の源泉徴収税額よりは少ない計算結果になっており、特に月給80万円程度以下の部分において比較的ズレが大きくなっている。
とはいえ、もとの「何倍も違った値が出る」という状態よりはマシだろう。
また、年末調整で還付があることを考えると、提案手法のほうが源泉徴収税額表を用いた算出よりもより正確な税額を見積もれている可能性もある。

なお、割合が最大でも 98% 程度となったのは、源泉徴収税額表の税額には復興特別所得税が含まれるのに対し、提案手法による計算結果は所得税だけで復興特別所得税 (所得税の 2.1%) を考慮していなかったためである可能性がある。

結論

現在の給与明細チェッカー (ver 0.2.1) は、一切の控除を無視し、収入をそのまま所得として税額 (所得税・住民税) の算出を行っているようである。
その結果、実際の税額の数倍という大きく外れた結果が出ることがある。
月収のみから概算することができる

  • 基礎控除

  • 社会保険料控除

  • 給与所得控除

を考慮に入れて計算を行うようにすることで、より実際の値に近づけることができると考えられる。
また、所得税の値に復興特別所得税を加算すると、さらに給与明細上の実際の値に近づけることができそうである。


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