見出し画像

カモシカ

時間が積み重なったものを求めて古道具屋へ行きます。目が合ったなと思ったものは連れ帰るようにしていて、写真のカモシカの番もそのうちの一つ。
中野ブロードウェイで出会いました。

出品者ごとに分けられたショーウィンドウの一区画、寄り添ってこちらを見ていたのを覚えています。
雌のおなかに貼られたシールには【カモシカ 番】と書かれていました。

夫婦で店先に並ぶカモシカたち。雌は少し疲れた様子で四肢を折り、雄はその傍らで守るように凛々しく立っています。きっとここに辿り着くまでに様々な苦労があったに違いありません。
陶器専門の工房で最初から番としてこの世に生まれ、カモシカに目がない貴婦人のお宅の玄関で花瓶の傍らに安住の地を見つけたかと思えば、突然の一家離散で近所の女の子の元へ譲られ、その子が遠方へ嫁ぐ際には嫁入り道具とともに旅立ったものの何かの手違いで別の荷物に紛れ込み、見知らぬ土地へ…。
雄の右の角が欠けているのは、外敵から雌を守った際の名誉ある負傷かもしれません。

カモシカはシカと名が入っているものの、シカ科ではなくウシやヤギと同じウシ科に属しており、角が生え変わらないそうです。
私は雄の欠けた角を誇らしく思います。
いつか金継ぎ等で角の修繕ができたらと思っているのですが、「私には必要ありません。お構いなく」といった表情をしている気もします。

いつか私の元からも旅立つ日がくるのかもしれませんが、ひとまずは我が家の机の上で安心して暮らしてもらえたら嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?