page 39 Story of 了 8/19
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一瞬で静寂する時間がスタジオの空気の色を変え、周りの撮影に関わったスタッフ達は心を捕われたように呆然としている。
気持ちを捕らえる演奏っていうのはこういう事を言うんだろうな。
周囲の空気の色も人の気持ちも全て一瞬にして持って行く…そんな演奏。
ザワザワと騒ぎ出すスタジオで、美月先生のホッとした表情だけが柔らかに存在している。
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コソッ…
「ここまで演奏力が有るとは思わなかった」
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演奏力?いやそれは違うだろ、
永遠の想いと役柄の気持ちがリンクした演奏だったんだと思う。
あんな演奏…
例えテクニックで頑張ったからって出来るような物じゃない。
自分の涙に驚いてる永遠の様子に気がついた美月先生は、戸惑いを隠せない表情で見つめている。
了「演者は気持ちが入ってナンボなので心配しなくて大丈夫ですよ。
俺はそろそろ休憩終わるんで、永遠の事宜しくお願いしますね」
これ以上俺がここにいるより彼女に任せた方がいいと思った。
了「あ、ご褒美の件、忘れないであげて。
それじゃ、永遠に宜しく」
困惑したままの彼女を置いて俺は歩き出した。
永遠が役にリンクさせた想いって、どっち側なんだろう。
もう想いが届かない相手に向けた音楽教師の役柄の悲しみだったのか、
それとも亡くなった青井旬に向けた美月先生の悲しみを想ったのか…
それにしても、涙が出るくらい感情を抑えてられない気持ちって一体どんななんだろう?
ギッ…
スタジオの扉は重々しく開かれた。
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