page 20 Story of 永遠 



       ザッ…

白く花を開いた桜が煙るように夜空に揺れる。

「家まで車で送るから」と言った表情を隠すように奏多の眼鏡に夜の闇が映ってる。


奏多「青井旬が撮った写真は数々の賞を受賞する程魅力的で、出版した写真集だけで物凄い数が有ってさ、」

       …チャッ


シートベルトを装着しながら奏多は話し始めた。
乗り込んだ助手席はひんやりと冷たい。


奏多「写真家って聞くと長年のキャリアを積んだ年長者ってイメージが何となく有るんだけど…」


オープンカーの頭上から夜風が吹き、
桜並木から降り注ぐ花びらが夜空を幻想的にハラハラと舞い落ちる。


走り出した車は狭い坂道をどんどん降りて、
桜と夜景のコントラストが次々に後方へ早送りして行く。


奏多「青井旬は二十代の若者だったんじゃないかって、ネット上で噂になってた」


  慎重に前を見ながら奏多は話を続けた。


奏多「何故ネット上で話題になったかというと、
青井旬がメディアに顔を出したがらなかった事がかえって詮索の対象になってしまったって事と…
過去の恋愛沙汰が関係してるんじゃないかっていう憶測が拍車をかけてたよ」


      永遠「恋愛…沙汰?」


奏多「青井旬は高校生の時に、教育実習に来ていた女性との恋愛関係が理由?で学校を退学した」


      嫌な予感がする。

      桜の雪が闇に舞う。


奏多「その当時音大生だった女性が・・・」

    永遠「美月先生…なのか?」


奏多は沈黙したまま赤信号でブレーキをかけた。
ウインカーの音が車内にカチカチと響く。 



奏多「美月さんは誹謗中傷が酷くて社会的に追われる立場になってしまったんだと思う。
永遠から住所を聞いた時、青井旬の自宅に近いなって思ったんだけど…まさかって思った。
けど、“青井美月”って名前聞いて全て繋がってさ…」



  桜の嵐は、ふいに風向きを変えた。



奏多「既に“写真家青井旬”として活躍していた旬さんは暫くしてから空の写真集に詩を載せて発売したんだけど、その詩は美月さんが書いた物で、
何ていうのかな…
“本当の自由とは” を問いかけるような内容だった」



永遠「奏多… キャラがブレブレだ」


奏多「は?、
お前さ、こんだけ話して返しがそれ?笑」

永遠「お前は一体何者だよ笑」


  いつの間にか車は自宅に到着していた。


案外その眼鏡は本来の自分を隠す為だったりしないのかよ。

ギアをパーキングに入れて無邪気に笑ういつもの奏多の笑顔を見ながらそんなふうに思った。


奏多「おっと、大事な事を忘れてた」

永遠 「ん?」

奏多「お前のピアノの先生は段違いだったよ。
可愛いとか綺麗とか段違いでカテゴリー分け不可能。すげぇわ」



取って付けたように奏多はそう言って笑った。


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