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page 77 Story of 美月 9/14




 青井「美月ちゃんにお客様が見えてるよ」


今日はあいにくの曇り空で、星空カフェの天窓から見える満月は、雲にぼんやりと姿を隠している。

満月のイベントのピアノBGM演奏。
今夜最後の演奏を終えた後、私にお客様が来ていると、マスターが言った。


       誰だろう。


2階の奥の席に行くように言われたので、ドレスにカーディガンを羽織って階段を一段ずつ登って行くと奥の席に、ついたてが置いてあるのが見えた。
いつもは置かない“ついたて”が配置されている。
向こうに誰が来ているのか、全く想像がつかない。
永遠くんだったら予め連絡をくれると思うし…そう考えると、誰なのか検討も付かなかった。


     美月「こんばんは…」


私は小さく呟きながらパーテーションを覗いた。


          ・


  「あ!、美月さん 初めまして〜♡」



          ・

      ま・・・、眩しい。

パーテーションの影には、サングラスをかけた着物の女性が座っていた。

満面の笑のその女性は、見た事もないような柄のお着物を着ていて、合わせている帯の煌びやかな模様がテーブルキャンドルに反射して眩しさを一層際立たせている。それに何と言っても初めに目が行くのが、高く盛られた髪だった‼︎


     美月「はじ…めまして…」

こんな浮世離れなお方が、私に一体どんなご用が…?

晃 「驚かせちゃってごめんなさいね。私、ムジカプロダクションの代表取締役の、前田 晃と申します♡
うちのanswerの榊のピアノ指導や、ブライダルの伴奏に…美月さんには本当にお世話になっています♡」

      社長さん…answerの


美月「あ…え!、はい。
そうでしたか。こちらこそご挨拶が遅くなりまして…わたくし青井美月と申します。宜しくお願い致します」


晃 「…っていう堅苦しいご挨拶って、私、超〜苦手なの。なので単刀直入に言うわ♡」


ああ肩が凝るわと言いたげな表情を浮かべて、女社長さんはサングラスを素早く外して唐突「あなた、answerに入る気ない?」と早口で言った。


美月「え、」


晃「話が唐突すぎたわね…これ、私の悪い癖なの。answerの子達にも、指摘されて…特に凪が、と〜っても厳しく言って来…、って、話が逸れまくっているわ。ごめんなさい」


  晃社長は気持ちを落ちつかせるように

     コーヒーを一口飲んで、

    ちょっと待ってねと言った。


晃「あのね美月さん、あの日の結婚式の動画、勝手に広まってしまっているってご存知?」
まずは順を追って話さなきゃよね、と晃社長は小声で言った。

美月「あ…、はい。驚いた姉から連絡が来たので確認してみたら凄く反響があって…」


晃 「そのTwitterで呟いている人の中に美月さんの事を“5人目のメンバーになる人”って、メッセージ書き込んでいるのって見た?」


美月「あ…見ましたよ。けど、面白がってるだけだから…」

晃 「それ、私に原因が有るのよ。ごめんなさい」

美月「え?、どういう事ですか?」


晃社長は言おうとした言葉を一回辞めて、ちょっと考えるように斜め上を見上げた。


晃「ええっと…ねぇ、」


美月「あ、私、大丈夫なので何でもおっしゃって下さい。本当の事が知りたいです」

旬くんとの事で色々な事が有ったから、ネット上でのイザコザには免疫が有る。


晃 「わ…分かった。ちょっと待ってね」
晃社長は、キラキラ光る眩し過ぎるスマホを手に取った。



晃 「いい?、気にしないって約束してね。あなたって、超気にするタイプでしょ…きっと。だから…」


美月「大丈夫です!」
私はもう逃げないで生きていきたいって決めて、歩き始めたばかりだもの。


          ・

晃 「わ…わかった。
じゃ、これ見て。あなた達、撮られたのよ」


      美月「…!!」

          ・

私はスマホ画面に映る永遠君と私の写真を見て、一瞬で世界が止まった。



“破滅” とか“終わり”とか、なんかそんな言葉がコンクリートみたいな硬さで、ガン、と頭上に落ちて来るような衝撃を受けた。


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