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読む🍋 正木ゆう子句集『玉響』

俳句初学の頃から(まぁ、いまだに初学者ですが)正木ゆう子さんの大ファンで、初めて購入したいわゆる「新刊句集」も正木さんの『羽羽』でした。その後、句集を始め、エッセイ集、鑑賞本など、正木さんの著書を買い集めました。

装幀はご主人の笠原正孝氏

『羽羽』以来、7年ぶりの第六句集です。
集名になった句は、<玉響のはるのつゆなり凛凛と

「露」は命のはかなさを喩えるものですが、「春の露」には、ほのかな明るさがあり、どこか軽やかな生命の輝き、煌めきを連想させます。自然や生き物を詠んだ句の抒情性は深い写生に基づくものだと感じました。

わが見れば吾の痕跡初蝶に
片陰の犬の狼歩きかな
しんかんと真昼や蚊帳の片外し
蟷螂のあし繊繊と草を踏み
秋風に攫はれし炎(ほ)のすぐ戻る
夫婦長し酢に赤蕪の色の出て
微笑んでくちびるを切る冬木立
印画紙にみな濡れて立つ春着かな
荼毘までのつめたき頬よ春の月
古墳の口開きしままに豊の秋
はるかなれば白濁として鷹柱
身を庇ふこと冬蝶を飼ふごとく
甘酒を醸すにかまけらいてう忌
傾眠のゆめ継ぐからすうりのはな
うしろにも音して胡桃落ちにけり
息を吐くかたちに冬の欅かな
なみなみと湛ふるものを去年今年
ちらちらと木伝(こづた)ふひかり初雀
ドライアイスのやうに消えたら春の空
ゆらめいてこの星もひとつぶの露

リフレインが印象的な句も。
末黒野にこれは何かの何処かの骨
蚊帳の環(かん)たんすの環の音はるか


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