研師ヒデの嘆き『立ち飲み屋〇(マル)の話』
開店前のマルの店、まだ半分閉まっているシャッターをガラガラと開けてヒデは中に入ってきた。
「マルさん、久しぶり」
ヒデはいつもの笑顔で餃子を包むマルの前に立った。
「あれ、ヒデちゃん、今回早くない、まだひと月たってないわよ」
マルは毎日包丁を研ぐが、どうもこの包丁研ぎだけは苦手で、月に一度だけ研師を生業とするヒデの手で大切な包丁の面倒をみてもらっていた。
「何言ってんだよマルさん、今日は武士の命日だろ、あいつの事を思い出してマルさんがめそめそしてんじゃないかと思って