『白磁のアイアンメイデン』外伝 「相応しき贈り物を、聖夜に」
紅い光が、闇の中を駆けていく。
北欧、白夜の国――フィンランド。常ならば国土全てを包み込む静寂が、今宵は瀑布のような音に妨げられていた。
轟音の主は、追われる一頭の獣と、追う十数匹の獣である。
逃げる獣はトナカイ。追うは群れをなす十数匹のムース。深い闇夜に白銀の煙を巻き上げながらの、一対多、命がけのチェイス。
トナカイの息は荒い。当然であろう。なにせ彼女はこの五日五晩、不眠不休、飲まず食わずで走り続けていたのだから。
尋常の生き物には不可能な、超長時間の逃走劇。だ