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気候変動に関する政府間パネルIPCC第6次評価報告書

法学部ブログ2021年08月10日より転載

気候変動に関する政府間パネルIPCC第6次評価報告書

暑いですね。今日8月10日東京では、都内でも36.8度、八王子市で39度を記録したと報道されています。

さて、昨日、国連から気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の8月7日付けの文書として、第六次評価報告書のSummary for Policymakers:SPMが公開されました。
日本の報道機関でも今日付の記事で報道しており、新聞各紙のネット記事などで目にされた人も多いでしょう。

多くの記事では、同報告書が人間活動が気候変動とその極端事象としての山火事、豪雨・洪水、干ばつなどに影響をもたらしていることが疑いの余地のない事実であることを明言したことや、新たな将来予測では国際的な現在の目標である「産業革命前より1.5℃」に押さえたとしても極端事象の多発は押さえられないこと、具体的な地域や立地でどのようなリスクがあるかについて最近のギリシアでの大規模山火事やヨーロッパでの洪水を引きながら紹介しています。

気候変動法政策の観点から見ると、今回の報告書は、2014年の第五次報告書との比較において、私たちにより多くの大事な情報を提供してくれています。

先ず、気候変動の人為的影響と自然的影響を明確に解析し、人の影響がどれだけあるのかを分かりやすく示したことです。この背景には気象物理学の発展があります。以下の記事が大変参考になりました。

(なお、この記事の書き手の小坂先生は、第六次評価報告書のContributing Authorとして名前を連ねています)

次に、大変重要なことなのですが、蓄積二酸化炭素一定量(1000GtCO2)あたりの地球の平均気温上昇値をかなり狭い幅(0.27-0.63℃ 最善試算値0.45℃)で示したことです(transient climate response to cumulative CO2 emissions:TCRE)。不確実性を伴う数字ですが、その幅が+−0.18℃に押さえられており、これを使うことで今後人類が目標達成のために超えてはいけない二酸化炭素排出量を試算することが可能となります。

実際に、報告書はこの試算をおこなっており、国際目標である1.5℃上昇に押さえるためにはすでに1.07℃上昇しているため0.43℃の余裕しかなくこれを実現するためには、人類全体で300〜900Gtの幅、上記の最善試算値を使うと500Gtしか今後排出できないことになります。これまで人類が産業革命後大気中に蓄積させてきたCO2の量が2390Gt(±10%の推計値)であることを考えると我々に残されている量は限られていることが分かります。

担当してる気候変動法のゼミでは、2017年に書かれた,Daniel Farber & Cinnamon Carlarne著CLIMATE CHANGE LAW (Foundation Press)を使って、気候変動の仕組みや経済学的な分析を学んだ上で気候変動にどう取り組むべきをなのかを国際的な枠組みや気候変動政策に特有の問題点を検討しています。

気候科学の部分は,2014年のIPCC第5次報告書に基づいて書かれており、ゼミでは報告者に節ごとの内容を報告してもらい、分からない点を質疑応答で明らかにしていますが、今回の報告書で、ゼミで疑問として残った部分のいくつかが明確になったと思います。

これまでCO2の排出削減についての政策について、定量的な手法の手がかりとして「炭素の社会的費用」(=CO2による気候変動のもたらす損害及びその防止費用の総額をCO2の排出単位量で割った額)が重視されてきましたが、今回の報告書で示された残された炭素排出許容量も重要な数値として今後の国際的取り組みの指標、各国の政策立案・議論の参考とされるのではないかと推測されます。
11月にイギリス・グラスゴーで開催される締約国会議COP26での議論が注目されます。

なお、第六次評価報告書は、次のページからダウンロード出来ます。

また日本の気象庁が同報告書の仮訳を公開しています。(PDF)

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WG1_SPM_JP_20210901.pdf


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