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ウルトラ警備隊35年の歩み<1967~2002>

はじめに

昨年から今年にかけて、平成ウルトラマンシリーズにおける防衛チーム(怪獣やっつけ隊)の変遷について綴った記事を3本ほど投稿しました。

とりあえず、現行のウルトラマンシリーズに対しての所感と、防衛チームについての私の考えをまとめられたと一息ついていたのですが・・・
「いや待てよ?平成の世に活躍した防衛チームはまだあったな」
と、ふと思い当たりました。
それは昭和から平成にかけて、足掛け35年間メンバーを変えながら地球防衛の前線に立ち続けた、あのチーム・・・そう、ウルトラ警備隊です。
というわけで、昭和のウルトラセブン(1967)から平成ウルトラセブン(1994~2002)までのウルトラ警備隊の軌跡を追っていきたいと思います。

地球を守る警備隊

「地球は狙われている。宇宙に漂う幾千の星から・・・今、侵略の恐るべき魔の手が・・・」
ウルトラセブン第1話ナレーションより

諸説ありと前置きしつつ、ウルトラセブンの舞台設定は、放送当時の1967年からおおよそ20年ほど先の未来を意識していたそうだ。
その近未来における地球は、大宇宙で頻発する惑星間戦争に巻き込まれつつある非常に危険な状態にあった。
そんな激化する他惑星の侵略から地球を防衛する組織が、その名もずばり地球防衛軍(Terrestrial Defense Forces)である。
そして地球防衛軍極東本部にて、防衛軍の中でもさらに選別されたエリートが所属する部隊がウルトラ警備隊というわけだ。

第1期ウルトラ警備隊のメンバー

キリヤマ隊長、フルハシ、ソガ、アマギ、アンヌ、そしてモロボシ・ダン隊員からなる6人の面々に加え、ウルトラ警備隊7番目の隊員ことウルトラセブン※1を迎えた面々が地球防衛に奮闘する、という筋立てである。
前作ウルトラマン(1966)の科学特捜隊から、人員はもちろん一段と物量の増した装備類等々、陸海空、宇宙を跨いだ大組織として設定・描写された地球防衛軍とウルトラ警備隊は、警察的な雰囲気を残していた科特隊よりも明確に軍事組織としての趣が増している。

これだけメカニックが設定された作品は、現行の体制ではもう出てこないかもしれない。

これらのメカニック描写の強化は、成田亨氏の手がけたウルトラホークをはじめとした魅力的なデザインの数々もあって好意的に受け止められた。
令和の今日になっても新商品が発表されている事実からも、その人気とデザイン性の高さがうかがえるだろう。

TVスペシャル

さて、そんなウルトラセブン放送終了からおよそ30年弱。
TVシリーズとしての新作ウルトラマンが途絶えて久しかった1994年に、セブンは平成の世に復活を果たす。
各省庁が太陽電池利用の推進を意図したタイアップ番組として、日本テレビにて放送されたウルトラセブン太陽エネルギー作戦である。

94年3月21日放送。後にカットシーンを再編集した完全版がソフト発売。

太陽エネルギーを地球上での活動に必要とするウルトラセブンはPRキャラクターにぴったりだったというわけだ。
しかし、当時の状況(バブル崩壊による制作予算の削減etc)を鑑みれば、無理に予算のかさむ特撮ドラマとして制作せずとも、セブンを単なるマスコットキャラとして迎えた、太陽光発電をアピールする1時間枠のバラエティ番組として制作するという選択肢もあったはずである。
だが、そこはウルトラセブンという作品の持つ力であろうか、当時のパブリックイメージとしての帰ってきたウルトラマン(1971)以降のウルトラ兄弟・ウルトラファミリーの一員であるウルトラセブンではなく、独立した一作品としてのウルトラセブンの純粋な続編として制作された。※2

左からリサ、トーゴー、フルハシ隊長、カジからなる第2期ウルトラ警備隊

それが何を意味するかといえば、この番組のためにウルトラ警備隊が新たに描かれる、ということである。
これによってウルトラ警備隊は、メンバーを入れ替えながら現在(平成)進行形で活躍する防衛チームとなった。
オリジナルメンバーであるフルハシは隊長として残っているとはいえ、これは非常に稀有な例である。というか、彼ら以外に例がない。
もちろん、限られた予算内で放送当時(1967年)のウルトラ警備隊の装備、セット等をすべて再現することは不可能であり、新造されたものはウルトラホーク1号(分離機能なし)のプロップぐらいで、67年当時から人気だった特捜車ポインター等もモデルチェンジされた。

30年間改良しつついまだに現役という燃える設定。
新ポインター(三菱GTO)

さて、ここからは一ファンの推測と妄想でしかないのだが・・・
そもそもなぜ、当時からしてもレトロな懐かしの特撮ヒーロー番組の新作1時間SPが成立したのだろうか?
令和の現在に比べれば、まだまだTV業界が豊かだった時代とはいえ、ウルトラマンの新作TVシリーズや映画企画が浮上しては白紙になる程度には、円谷プロは国内における新作の制作には慎重だったはずだ。
その理由を端的に言ってしまえば「お膳立てがある程度整っていたから」ではないだろうか。

お膳立てその1 私が愛したウルトラセブン

1993年2月13日、2月20日放送

遡ること前年の93年に、NHKにて放送されたとあるスペシャルドラマがあった。
私が愛したウルトラセブン。
ウルトラセブンの舞台裏を虚実ない交ぜに、当時脚本で参加していたオリジネイターの一人である市川森一氏により書き下ろされた作品である。
当時としてもかなり力の入ったドラマであり、1967年当時の雰囲気を再現する為に、隊員服、小道具類、司令室にポインター、怪獣・・・と、かなりの数がこの作品のために再現された。
関連書籍等で言及されてはいないのだが、この作品で新造した衣装や小道具が、一部太陽エネルギー作戦へ流用されたのではないか?と私は考えている。※3
ありものを流用するというのは、映像作品ではお馴染みの予算削減法だが、衣装・小道具類が揃っていたというのは、僥倖であったのではないか。
もちろん確証はないのだが。

お膳立てその2 SFCウルトラセブン

同じく93年に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたウルトラセブンのゲームがあった。
新作の映像作品に飢えていた当時は、CMとはいえ新撮された特撮シーンが見られるのは嬉しかった記憶がある。
さて、上記のCMに登場するエレキングだが、実はこのスーツはこのCMの為に新造されたもの。なんとも贅沢な話である。
そう、太陽エネルギー作戦に出てくるエレキングは実はこのスーツなのだ。初代エレキングをよく再現したスーツなので、CMだけで終わらせるのは惜しいという意識が働いたのかは定かではないが、予算的ネックである怪獣スーツも既存のものが流用出来るとなると、いよいよ条件が揃った感がある。

驚くべき尻尾の長さだ。

お膳立てその3 電光超人グリッドマン

94年当時のTVドラマは、一部の作品を除いてほぼすべてビデオ撮影に切り替わっていた。
専門的な解説はややこしいので割愛するが、平たく言えばフィルムよりビデオテープのほうが安価であり、編集作業や合成が容易であり、なにより重ね撮りができるという点から急速に普及したようだ。
ただ、このビデオと特撮の相性は悪く(当時の感覚として)鮮明に写り過ぎてしまうビデオ画質では巨大特撮は不可能とさえ言われていた。

ビデオにフィルムルックの処理をした映像。

そんな中、同じく93年に円谷プロが久々に挑んだ特撮ヒーロー番組電光超人グリッドマンでは、予算削減の一環としてフィルムではなくビデオ撮影が採用された。
しかし、特撮監督はフィルム時代の昭和ウルトラマンで辣腕を振るった佐川和夫氏。
やはりビデオは特撮に不向きと考えた氏は、ビデオ画質をどうフィルム調の画質に近づけるか、いかにハイスピード撮影と同様の効果が得られるかという試行錯誤を繰り返した。
そういったグリッドマンで培われたビデオ特撮のノウハウが、翌年の太陽エネルギー作戦に生かされたのは言うまでもない。

こうした数々のお膳立てがうまく重なった結果、太陽エネルギー作戦は94年3月に放送され、年内に2作目である地球星人の大地が放送されるという快挙を成し遂げた。

94年10月10日放送

もちろんウルトラ警備隊も前回のメンバーが続投している。
加えて、前作ではナレーションのみの担当だった森次晃嗣氏がモロボシ・ダンを再演し、ミニチュアセットと特撮シーンの増加や、新造のメトロン星人、細かいところで言えばウルトラセブンのプロテクターがオリジナル準拠の分厚いものに変更される等々・・・
各所に前作からのスケールアップが見られる作品であった。
内容を話すと、ラストでセブンが行方不明になるという展開が見られるのだが、これはTVSP3作目を見越した言わば次回への引き(クリフハンガー)であったらしいのだが、各省庁と日本テレビとの付き合いはここまでで、後味の悪い形で一連のTVSPシリーズは幕を閉じてしまう。

ウルトラセブン誕生30周年記念3部作

さて、前作ラストでウルトラセブンが行方不明のまま終わったことはスタッフにとっても忸怩たる思いがあったらしく、潰えた3作目制作の機会をうかがっていたようである。
そこで、前2作のソフト販売やTVドラマムーンスパイラル(1996)等で円谷プロと繋がりが深まったバップと組むことによって、オリジナルビデオ作品としてウルトラセブンが再び帰ってきた。

1998年6月~8月の3ヶ月連続リリース

もちろんウルトラ警備隊も登場するわけだが、前作から4年経過しているということでメンバーはまたも一新された。

左からシラガネ隊長、シマ、ミズノ、(フルハシ参謀)、カザモリ、サトミ、ルミからなる第3期ウルトラ警備隊

前2作で隊長を務めたフルハシは参謀に昇進し、ついにウルトラ警備隊は完全に世代交代がなされた。
後述する1999年、2002年の作品でも活躍する彼らは実働期間がかなり長い防衛チームで、ファンの中でも平成セブンのウルトラ警備隊といえば彼らだという印象もあるのではないだろうか。
メンバー以外の設定面でもさまざまな刷新※4があり、例えば前作まではウルトラ警備隊が居を置く地球防衛軍極東基地が富士山麓地下から、都内某所に移設されたり・・・

新極東基地

そして、TVスペシャルでは設定されていなかったウルトラ警備隊司令室が新たに設定された。

セットではなく既存のロケ地を飾りこんだ新司令室。それにしても暗すぎないだろうか。
今回のみの登板が残念なホンダNSXのポインター。

そして、ウルトラセブンのスーツも前作の型を利用して新造された。
こうして、セブンの帰還と新生ウルトラ警備隊の活躍を描いた本シリーズは様々な反響を呼び、翌年にシリーズが継続されることになる。

ウルトラセブン1999最終章6部作

前作、前々作を経た制作陣はさらにウルトラセブンの可能性を追求しようと、実写オリジナルビデオとしては破格の予算規模と、前シリーズの倍の話数である全6話構成で新たな物語を紡ぐ。

TVスペシャルから昇進したカジ参謀と第3期ウルトラ警備隊

特に予算面の増加による地球防衛軍、そしてウルトラ警備隊の描写の強化は眼を見張るものがあった。

ホーク1号以外はすべて新造されたメカである。

特筆すべきは、ウルトラホーク3号が新造された点だろう。
やはりTVシリーズで印象深い機体でもあるし、ホーク1号と2機ペアで活躍するだけでも絵的な密度が違う。
これはクランクイン前のある日に美術の井口昭彦氏が「ホーク3号作ったから」と持ち込んだものだというから驚きだ。
他にもミニチュアとセットで表現されたTDFムーンベース等は、当時のビデオ作品としては大掛かりな作り物に驚かされる。
加えて探査機やムーンベース付きのシャトル、ワープ航法ミサイルなど往年のシリーズばりのメカの物量が見られるのも嬉しい。
94年のTVスペシャルから足掛け5年、平成のウルトラ警備隊はここにピークを迎えたと言ってもいいだろう。

98年版よりも装飾の増えた司令室。照明も明るくなった。
今回のポインターのベースはいすゞ・ビークロス。
アイスラッガー正面の溝や目の電飾などが再現されているスーツ

加えて、現在でもショーなどでおなじみのこのウルトラセブンも、本作に合わせて、展示されていたオリジナルのマスクを手本に粘土原型から新造されたスーツである点も本シリーズの豊かさを象徴するものではないだろうか。

ウルトラセブン誕生35周年EVOLUTION5部作

さて、最終章と銘打って、賛否は分かれるもののとりあえずの完結を見せた前作から3年後・・・ウルトラセブンは新世紀の地球に帰ってきた。
それは当然、ウルトラ警備隊の新たな活躍が描かれるということでもあった。

除隊したカザモリ、サトミ隊員と入れ替わり本作から登場のキサラギ・ユキ隊員(右)
サトミ隊員は後に復隊する。

平成のウルトラ警備隊に関して特に興味深いのは、防衛チームの描き方にも新たな試みがなされている点だ。
ひとつのチームが世代交代を重ねて継続されているという部分もそうだが、例えば最終章6部作の1話や本シリーズでは警備隊そのものの活動停止・解体といった展開が描かれる。
これまでも上官に解散をチラつかせられ、プレッシャーをかけられる展開はあったが、実際にチームが解体されてしまうのはオリジナルビデオ作品ならではといえるだろう。
隊を離れた隊員達の姿や、中途入隊の新隊員との軋轢などを縦軸に据えたストーリーテリングは、マーチャンダイズを基本とするTVシリーズでやるには難しいかもしれない。

しかし、本作のウルトラ警備隊のこの窮地は、展開的な事情というよりも外的な、平たく言えば予算的な事情が大きいのだろう。
特撮の質や物量的なピークを迎えた最終章から3年、2002年といえばTVシリーズのウルトラマンコスモス(2001)もそうだったが、所謂ウルトラマンティガ(1996)から始まるTDG3部作からの無理がたたり、円谷プロ自体が作品制作予算を縮小傾向へと舵を切り始めた時期でもあるからだ。
その為、本作も当初は特撮シーン削減の意図もあって、ウルトラセブンを出さずウルトラ警備隊のみの活躍を描くシリーズにするという案もあったようだ。
しかし、セールス的な保険が必要ということで、全5話中2話のみだが、ウルトラセブンの活躍も描かれた。

前2作とはガラリと変わった司令室(メイキング映像より)
派手な色味の新ポインターは三菱・パジェロ

ここまで駆け足ではあるが平成のウルトラ警備隊を振り返って、改めて感じたことがある。
それは、ファンにとっても円谷プロにとってもウルトラセブンという作品が非常に特別な作品なのだということだ。

実は、90年代初頭にバルタン星人の生みの親である飯島敏宏氏の監督・脚本で初代ウルトラマンの数十年後が舞台である続編的な劇場版が企画されていた時期があったという。
かつての科学特捜隊のメンバーも出演し、初代ウルトラマンから世代交代したウルトラマンジュニアとバルタン星人の戦いを描く、というその企画は、まさに初代ウルトラマン版の平成セブン的な色合いを持った作品になったに違いない。
しかし、その企画は諸事情があって実現しなかった。
そして宙に浮いた完成脚本の要素は後に製作されるウルトラマンコスモスTHE FIRST CONTACT(2001)ウルトラマンマックス(2005)の33、34話等に部分的に反映されている。

それらに比べて、平成ウルトラセブンのスムーズなシリーズ化の歴史は、タイミングや幸運が重なったなどの要素もあるが、初代ウルトラマンほどの触れ辛さはないが、人気は勝るとも劣らないセブンのいい意味でのフットワークの軽さ※5が成した結果ではないかと思うのだ。

そして、2002年のOVから5年後のウルトラセブン誕生40周年に当たる2007年には、平成セブンとは別のアプローチでセブンを再解釈したULTRASEVEN Xが制作されることになる。

オリジナルのセブンとの関係は本編をぜひ見ていただきたい。

時は流れ、現在ではセブン誕生55周年記念となる2022年から続く企画として、バーチャルヒューマン技術を用いて67年当時のモロボシ・ダンとアンヌを登場させたショートストーリーの制作など、ウルトラセブンは現在進行形で広がりを見せ続けている。

フルCGで描かれるウルトラホーク1号など、ウルトラ警備隊の要素も多分に含まれる新作にはやはり心踊るものがある。
今後、新たにウルトラ警備隊が描かれる機会があるかはわからないが、彼らの持つ魅力は今後も輝き続けるのだろう。
まさしく、栄光と伝説である。



注釈

※1
実は劇中でウルトラセブンという名を本人が名乗ったり、隊員が名付けるシーンはない。このウルトラ警備隊7番目の隊員というくだりは、脚本中には存在したが実際の1話ではカットされたもの。

桑田次郎氏の漫画版では描写されている。

※2
とはいいつつ、まだこの作品ではそのあたりは徹底されず、初代ウルトラマンやセブン以降に登場した怪獣を紹介するくだりがあり、ウルトラマンシリーズそのものを振り返るスペシャル番組という趣もあった。

※3
少なくとも実は予算のかかる小道具であるヘルメットは、バイザーの色味的にも流用しているのではないだろうか。
一方で、このドラマに使われた再現版ポインターは関連書籍でも詳細な言及がなく、後のシリーズで流用されなかったのが残念である。

※4
OV以降の平成セブンでは、どうもスタッフは地球防衛軍とウルトラ警備隊のマークを厳密に区別しようとしていた節がある。

ウルトラ警備隊のバックルについていたマークが平成セブンではTDFのマークとして設定されたようだ。

しかし、オリジナル作品を見ていると劇中登場する頻度が高いマークは、やはり圧倒的にこの記事のタイトルにも使った地球を囲む赤い矢印のマークであり、この再設定にはやや疑問も残る。

色使いといいUGの文字といい、これはウルトラ警備隊のマークとして考案されたものではないかとも思える。
しかしこういう例もあるので、1967年当時としても使い分けは曖昧であったようだ。

※5
昭和のころから初代ウルトラマンはある種聖典扱いで、スタッフも単独の客演は自重していたという。
それに比べウルトラセブンは帰ってきたウルトラマン~ウルトラマン80まで、ウルトラ兄弟の一人としても、単独の客演としても皆勤賞である。


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