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拝啓、あの頃「天才的にかわいかった」あなたへ

モーニング娘。を定期的に好きになる。世代なのもあるだろうか。

ASAYANから飛び出したこの「老舗アイドル」は、私の世代にとって正真正銘、国民的スターのアイドルだった。
小中学校の頃は、テレビで見ない日は無かった。歌番組にバラエティ、24時間テレビにテレビドラマ。
モーニング娘。は私たちの生活の一部だったのだ。
 
今、35歳の私にとって「モーニング娘。」。かつての言い方をするならば「モー娘。」は、みんなで盛り上がったポップミュージックの原風景。
小学校の総合学習の時間で歌って踊ったプッチモニ。にミニモニ。
遠足に行くバスの中で誰かが流したハッピーサマーウェディング、恋のダンスサイト。
初めて買ってもらったケータイには、もちろんハロープロジェクトの着メロを設定して、放課後友達と「私もこの歌、好き!」と共感し合ったものだった。

家に帰れば、「うたばん」でジョンソン、ケメコと弄られる「かおりん」(飯田圭織さん)や「圭ちゃん」(保田圭さん)がいて、ドラマを見れば「なっち」(安倍なつみさん)や「ゴマキ」(後藤真希さん)が出てくる。
週末の朝は、ハロモニでチャーミー石川(石川梨華さん)が空回りしているし、特番では「加護ちゃん」(加護亜依さん)や「辻ちゃん」(辻希美さん)が大暴れしていた。

だけど、同世代ならきっと共感してくれると思うのだが、モー娘。は気が付くと「まだモー娘。なんて聞いているの?」「新メンバーが多くて、今、誰がいるのか知らない」と話題にされるアイドルとなり、そして私たちは「モー娘。」を忘れていった……

そんなモーニング娘。も昨年で結成25周年を迎えた。そして、モーニング娘。をはじめとしたアイドル集団「ハロープロジェクト」も今年25周年を迎えた。
あの頃、私たちの生活の一部を占めていたアイドルは、その後もメンバーの加入と卒業を繰り返し、なんと四半世紀も存続し続けているのだ。
 
あの頃、私の好きだったものが、今も進化を続けながら残り続けている。
私の好きだったものが、形を変えながら、それでも私が好きだった魅力を輝かせて今も存在している。
この尊さと有難さは大人になればなるほど感じるもので、私は数年置きにモーニング娘。を好きになっては離れてを繰り返している。

人生にはモーニング娘。を必要とする時期もあれば、少し距離ができる時期もある。

だけど、いつだって、私が彼女たちを好きでいようが、私の人生が彼女たちからちょっと離れていようが、モーニング娘。は何も変わることなく、今日も進化を続けている。
この距離感が堪らなくありがたい。
常に人生を並走してくれるアイドルグループ、それがモーニング娘。なのだ。
 
そんな私、社会人になった2012年からしばらくの間、結構がっつりとモーニング娘。とハロプロのヲタクをやっていたのだが、この5年間くらいこのアイドルたちと少し距離を取っていた。
それが、今年、ハロープロジェクトが今年25周年を迎えたこともあり、なんとはなしに25周年記念コンサートをスカパーで視聴したのだった。
 
きっかけはツイッターで見かけたこのポスターの写真。なんといっても一発目の「中澤裕子」である。

https://x.com/tvasahi_cs/status/1698576697078272284?s=46&t=sUz90W6j-XanPWR0qqPHjA

え、他でもないあの中澤さんが出演するの…!? 中澤さんが歌うの…!?
そんな機会、めったにない。
ドリムス。が終わった後の2012年にヲタクをやっていた身からもってしても、相当レアである。
 
中澤裕子見たさにスカパー契約をし、そしてテレビの前にリアルタイムで居座って見届けた、久しぶりのコンサート。
 
いやぁ……冗談抜きに、泣きそうになってしまった。
現役のハロプロメンバーは、ほとんど名前も分からなかったけど、真剣に歌って踊る姿は、かわいいを通り越してもはや格好良い。
そして何よりも、あの頃好きだったアイドル達が、何も変わらずキラキラと輝いているのである。
今やママタレ、そしてブロガーとして知らない人はいない辻希美さんに、一時はバラエティの女王として君臨していた矢口真里さん。
数年前に立憲民主党から立候補した市井紗耶香さんが何事も無かったようにアイドルをやっていたのが妙に面白かったし、それを受け入れるハロープロジェクトに器の大きさや温かさすら感じた。
卒業後、テレ東のアナウンサーをしていた紺野あさみさんは相変わらずかわいらしく、黄金期メンバーが去ったあと、モーニング娘。を支え続けた高橋愛さんは抜群の安定感だった。
そして、道重さゆみさん、田中れいなさんの、現役時代からの変わらなさよ!

母になったメンバーも、今も単身芸能活動を続けているメンバーも、あの頃から変わらず楽しそうに歌い踊っていた。
一番の目当てだった中澤裕子さんが歌う時には、ステージから火柱が上がり、なんだかちょっと面白い。
でも、ああ、この日を楽しみにしていたのはファンだけではないのだ、ハロープロジェクトというグループが、そしてその裏を支えるスタッフにとっても、今日はお祭りなのだと感じさせられた。

その中でも、一番私が涙が出そうになってしまったのは、石川梨華さんがキラキラとセンターで踊り歌っている姿だった。

実は、2012年~2018年の春あたりまで、現役のモーニング娘。とともに追いかけていたのが、OGの石川梨華さんだった。
歌にも踊りにもMCにも常に一生懸命で、常にファンを楽しませようと全力。
そんな彼女が大好きで、私は定期的に彼女のライブやコンサート、ステージに足を運んでいた。
そして、もっと言えば。当時彼女は、彼女の同期とステージに立つことが多かった。吉澤ひとみさんである。私はこの二人が大好きだった。

吉澤ひとみさんに関しては、今更言うまでもないのだけど、2018年9月に酒気帯び運転から人身事故を起こし、拘留期間を経て芸能界を引退した。
あの日から、私は吉澤さんのことはもう会えないのだと、それは仕方がないことなのだと自分に言い聞かせてきたし、自然と石川さんのことも追いかけないようにしてきたつもりだった。

それが25周年コンサートでキラキラと輝く石川さんを見て、それがあまりに楽しそうで幸せそうで、心から本当に良かったと胸がいっぱいになってしまった。
あの頃、何度もコンサートで聞いた「恋するエンジェルハート」も「ザ☆ピ~ス!」も。
中学の頃、友達と何度もカラオケで歌った「恋しちゃいました」を歌う、大人になった「梨華ちゃん」に涙が出そうになった。

その一方で、ずっと蓋をしていたその気持ちも、それがきっかけになって溢れてしまった。
今、吉澤さんはどうしているのだろう。もし、この場に吉澤さんがいたら、彼女はどんな風に歌い踊っていたのだろうか。

私は、すっごく吉澤さんを追いかけていた、ずっとずっと彼女のことを応援していたファンではないわけで、自分が彼女のことを語るのは到底おこがましいと思う。
だけど、9月の25周年コンサートを見て以来、モヤモヤした気持ちは収まることを知らず、日々自分のなかで大きくなっていく一方なので、このnoteに書き残したいと思う。
これは、あの頃「天才的にかわいい」と言われた、吉澤ひとみさんへの想いを書き残すnoteだ。


忘れもしない2018年9月6日。ツイッターに駆け巡ったニュース。
それを見た第一声は、「なにやってんの吉澤さん……」としか言えなかった。
それは、ハロープロジェクトが20周年を迎えたタイミングだった。
その少し前に、やっぱり記念コンサートを開き、同期の辻希美さんと一緒に歌って踊る、加護亜依さんの姿が話題になった。
ようやく、4期メンバーが全員揃うのかもしれないという期待に包まれていた、そんな矢先。

人身事故で、それは言い訳できないほど許されないことだと分かっていた。
それでもファンとしては、吉澤さんとさよならを言うこともなくお別れしないといけないこと、何よりも(許されないことをした、彼女が加害者だということは前提としても)吉澤さん自身がこの事故でどれだけ傷付いたのだろうと思うと、胸が苦しくて溜まらなかった。
 
彼女は2007年に弟さんを車両との人身事故で亡くしており、ネットや報道では「人身事故の悲惨さを誰よりも分かっていた彼女がなぜ」という書き方をされた。
そんなの、彼女自身が一番思っていたし、自分のことを責めたに決まっている。なぜ、こんなことになってしまったのか、こんなことをしてしまったのかと、誰よりも悩んだに違いない。
だから、こんな報道のされ方をすることが、本当につらかった。自分の家族の死に結び付けるなんて。そんなつらいことを、彼女の耳には絶対に入れないで欲しかった。
私たちのような無責任で興味本位の野次馬が責めなくなって、彼女は十分彼女自身を責めたはずだよ。吉澤さんはそういう人だ。
 
当時の吉澤さんは、出身の埼玉県三芳町をはじめとした行政関係の仕事をたくさん任せられていた。
それは、他でもなく、彼女がそれまで積み重ねてきた実績や活動に対する信頼が、そうした仕事を作ってきたのだ。
行政は、自らの事業に起用しているイメージキャラクター等に何かあると、当然市民からたくさんのご意見をいただく。おそらく、事件が起きた後に、該当の役所にはさまざまな意見が寄せられたに違いない。
これも考えるだけで、本当につらかった。それだけの信頼と実績を作ってきた彼女への社会の目が、一日にしてガラッと変わってしまった。仕方がないことだと思っていても、心のどこかで受け止めきれなかった。
 
そして、何よりも、この事件の影響がいつまで残るのだろうか。そう考えるだけで苦しくなった。
彼女のお子さん、今まで一緒に活動してきた仲間たち、その家族。
そうした人たちが、これから晒される心無い視線や声を思うと、本当につらかった。

確かに許されないことをした。そこに言い訳の余地はない。
でも吉澤さんの本質はそれだけじゃない。
モーニング娘。の最後の黄金期として、グループを支えてきた彼女。
突然脱退した矢口さんの後任としてリーダーとなり、黄金期の看板を背負いグループを守ってきた。
結婚と妊娠が判明した同期が舞台を降板したとき、卒業してすぐだったのに代役として舞台に立ったこと。
結婚報道が出るまで一切スキャンダルを出さなかった責任感の強さ。
吉澤さんは、黄金期のモーニング娘。でも一位二位を争う「優等生なメンバー」だったと思う。
 
何よりも、吉澤さんはメンバーからの人望が厚い人だったと思う。
喧嘩をした同期に手紙を書いて想いを伝えるような、繊細で丁寧な一面。
同期の誕生日に、「おめでとう」のメッセージとともに、一緒に過ごした日々の写真をたくさん添付してお祝いするような温かい人柄。
フットサルチームガッタスでのキャプテンとして苦悩しながらもチームをまとめる姿。
彼女がセンターを取った「Mr.Moolight~愛のビッグバンド~」に象徴されるように「かっこいい、女の子の王子様のようなよっすぃー」の中に見え隠れする、女性らしさ、人としてのかわいらしさ、何よりも優しさとあたたかさ。
 
でも、そういうすべては、あの事件で消えてなくなってしまったのだろうか。
私たちは、もう吉澤ひとみさんの良いところ語ってはいけないのだろうか。
 
そう言いたい気持ちはあったけれど、事故とその後の対応が許されない行為だったことは弁解の余地がなく、口を噤むしかなかった。
それが苦しくて、苦しくて……とにかく苦しかった。

かつてファンから彼女が「芸能人をやっていてくれてありがとう」と言われていたことがあるのが印象的だった。
アイドルはOGもブログ、インスタ、X、YouTubeなどのアカウントを持っていることは珍しくない。
2012年当時もその流れはあったのだけど、その中で吉澤さんはモーニング娘。OGの中で最も遅くブログを開設した人だった。

それまで、OG仲間や後輩たちのブログでしか彼女の動向は知ることができず、何をしているのかまったく分からない期間というのも珍しくなかった。
吉澤さんは、ファンによっては「かっこいいよっすぃー」だったし、また別のファンにとっては「実はかわいくて女の子らしいひーちゃん」だったし、また別のファンには「お調子者のよっちゃん」だった。
本人からの発信が著しくなかったので、こんなに解釈が分かれるアイドルもそうそういなかったと思う。

また、私が遠くから見ている限り、だけど――彼女は周りに合わせるのが物凄く上手で、空気を物凄く読む人だ、と感じていた。
ステージに立っていても、隣にいるメンバーとの関係性を見極めたうえで、自分の立ち位置や振る舞いを決めている、そんな印象。
例えば表だって司会として回していくべきか、それは相手に任せつつ笑いを取りに行くべきか。あるいは笑わせながらもどこで相手に話を振って進行を促すか、自分で落とすか相手で落とすか、とか。
そうやって周りとの関係性のなかで「アイドルよっすぃー」を作っている。
だけど、そうやって作っているから、本音のところ、いまいち何を考えているのか分からない。

いつも相手に合わせてくれる優しさ。それは、ファンに対しても感じる。
とあるバラエティ番組で「私はファンの人たちから、同期の石川梨華ちゃんと付き合っていると思われていた」と発言していたことがある。
確かに、石川さんと吉澤さんは、その対照的なビジュアルやキャラクター設定、グループ時代から卒業したあとまでのドラマチックな関係性(ファンの解釈が、だけど)など、さまざまあって「いしよし」なんて呼ばれていたりもした。
でも、きっと彼女はそうやって「ファンから求められるいしよし」を作ってくれていたのだろう。

明日にでも、もしかしたらふらっと芸能人を辞めてしまうのではないか。そう思わせるのが吉澤さんだった。
だから、2018年9月に芸能界へ執着することなく引退したのは「吉澤さんだったらそれを選ぶに決まっている」と思った。でも、それを危惧していたからこそ、「ファンとしては絶対に選んでほしくない選択肢」だった。

今、吉澤さんはどうしているのだろう。
できることなら、どこかで家族と幸せに暮らしていて欲しいし、私たちには一切知らせなくて良いけど、OGの仲間たちと連絡が取れていたら良いなと思う。

でも、矛盾するようだけど、もう一度彼女が歌って踊る姿が見たいし、モーニング娘。のOGとして仲間たちとワイワイする吉澤さんの姿が見たい、という気持ちも拭いきれない。

モーニング娘。というグループに限った話ではなく、人間誰だってそうだけど、吉澤さんに代わる存在はいない。
また、黄金期に活躍した吉澤さんに触れず、彼女の不在を無かったことにしようとすればするほど、より一層、彼女の不在を感じてしまう。
OGのザ☆ピ~ス!を聞けば、未だに彼女の掛け声を探してしまうように。

でも、復活して欲しいとははっきり言えないのは、復活したら彼女が傷付くことが分かっているからだ。
もう十分、自分で自分のことを責めたと思うから、これ以上、他人からの心無い声に傷付いて欲しくない。
私たちが知らないところでいいから、「アイドルの吉澤ひとみ」でなくていいから、幸せに暮らしてくれていたらそれでいいのだ。

でもきっと、私なんかよりももっと、吉澤さんともう一回会いたいと思っているファンはいると思う。
吉澤さんのファンはみんな優しいから、あれ以来、何も言わない。私のように気持ちを文章にあらわしたりしない。だって、それを万が一でも吉澤さんが見てしまったら、きっと心配させてしまうし、悲しませてしまうかもしれないから。
でも、私は自分がファンとは言えないと、どこかで思っているからかもしれない。だからこういう文章を書いてしまうのだろう。情けない。

ファンの人たちが、ファンだった人たちだけでも、もう一度吉澤さんに会える機会があったら、吉澤さんが今、幸せに生きているんだと知ることができる機会があったら良いのに。そう思う。
本当に本当に、限られたファンの人だけで良いのだ。吉澤さんが傷付かないように、でも吉澤さんが「モーニング娘。のOGで良かった」って思ってくれたらそれで良い。
だから、不特定多数が視聴して無責任なコメントができてしまうYouTubeのアカウント開設とか、インスタ開設なんて形でなくて決して良い。
太陽とシスコムーンの稲葉貴子さんのように、OG現場でこっそりチケットのもぎりをやっている、それくらいで良いから。
OGがパシフィックヘヴンで歌う時に、こっそりゲスト参加してくれたら十分だから。

いつか、何かの形で、幸せに生きてるよって知らせてくれたら。
矛盾する気持ちの中でただひとつ、それだけを願っている。

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