2023年ゴアグラインド名盤20選

本年もたくさんのゴアグラインドに出会うことができました。例年の如く、20作品ほど振り返っていきたいと思います。相も変わらず雑なレビューなのであくまで参考程度に、そして真相は是非音源を聴いて確かめていただけたらと思います。

本年は初頭に拙著『ゴアグラインド・ガイドブック』が発売されたり、私としては初の試みであるゴアグラインドオンリーのライブイベントを企画したりとわりかし活動的な一年でした。どちらもたくさんの反響をいただきまして嬉しい限りです。しかし実生活ではSNS離れが急加速したり、メンヘラになったりならなかったりなど色々ありまして昨年と比べると音源の方はあまりチェックできませんでした (Bandcampの"goregrind"タグは一応定期的に見てました)。そんな中、ゴアグラインドインフルエンサー最大手の一つであるYouTubeの"Gore Grinder"チャンネルには非常にお世話になりました。

前まではたまにチェックする程度でしたが、手っ取り早く良質なゴアグラインドを摂取する際には最も有益なコンテンツです。最新のゴアグラインド情報をどうやって手に入れたらいいかわからないという方は、正直これだけチェックしていれば問題ないと思います。今回載せている音源も大体ここで聴けます。

それでは以下本編です。


・Vomi Noir "L'innommable Remugle & La Mélopée Cavernuleuse Des Râles Agoniques"

フランス出身、ゴア系イラストレーターとしてもお馴染みPierre氏擁する3人組バンド。初期Regurgitate、Haemorrhage等のCarcass影響下ゴア第一世代直系のオールドスクールな楽曲を収録。デスメタル調の不穏なギターソロも多く挿入されるが、楽曲はショートカットでひたすら突き抜けるスタイルで後腐れなくスパっと終わる点も素晴らしい。初心者から玄人、そしてデスメタル好きからグラインドコア好きまで幅広く刺さるであろうザ・ゴアグラインドな一枚。

・Sulfuric Cautery "Suffocating Feats Of Dehumanization"

2023年初頭には奇跡の来日を遂げ、各地で日本人の度肝を抜いたオハイオ出身の2人組バンド。現代において超高速ブラストビートと下水道ヴォーカルによるゴアグラインドを追求し尽くしたバンドの一つでもあり、もはや職人技とも言えるドラムと頭から爪先まで響き渡るようなヴォーカルが容赦無く鳴り続ける一枚。平和ボケした日常に致死量寸前の高速ゴボゴボゴアをキメたい方にはもってこいの作品である。

・Lipoma "Odes To Suffering"

2021年始動だがすでにお馴染み、ニューヨーク出身のワンマンゴア。ゴアグラインド meets ピロピロサウンドという確固たる作風を持ち、特に人気を博した前作はもはやネオクラとも言える楽曲群が印象的だったが、今作はどちらかと言えばメロデス風ともいえる楽曲が収録された作品になっている。しかしピロピロギターは健在なためクサメロ好きはもちろん、最近のエクストリームメタル、果てはメタルコア好きの諸兄ももしかしたらハマってしまうかもしれない一枚である。

・Torsofuck "Postpartum Exstasy"

90年代から活動し、ゴアグラインドにおいて「異常性癖」的な要素を持ち込んだ張本人とも言えるTorsofuck。数回の活動休止を経て2022年に復活、そしてついに今年新音源がリリースされた。不気味で倒錯的な (長い) SEに無機質なマシンドラム、そして水っぽいヴォーカルというまさに「復活」を思わせるファン大歓喜の一枚になっている。ブルータルな激重パートも挟まれるがブラストや同じスタイルのLymphatic Phlegmにも通ずるようなパートも増えたため、個人的には過去作と比べてもよりゴアらしくなった作品という印象がある。

・Putricine "Putricine"

ボルチモア出身の4人組バンド。個人的には2023年のベストリリース。パーティ感、ポルノ感は皆無だがC.B.T.っぽさを感じる重くゆったりしたパートを基調にしたゴアグラインド。そこにデスメタルなフレーズ、ブラスト、ブルデスっぽい落としなどを組み込み、緩急の付け具合や代わる代わる表れる多様なフレーズで楽曲を彩っている。こういった言わばぽっと出のバンドは1作のみで消息不明になりがちなので、是非とも根気強く活動を続けてほしいものである。

・Orthopedic Cranial Encavement "Plow Hazard"

ブルックリン出身、Immortal Sufferingのメンバーを擁する2人組バンド。ジャケの様なサタニックなギターフレーズを導入しつつも、ロウな雰囲気とカンカンスネアが心地よいゴアグラインド。スネアの音が気になりがちだが生ドラムであることを考えるとブラストではなかなかのスピードが出ており、なおかつ終始安定して叩けているので実は結構な実力派であることが窺えたりもする。ヴォーカルはピッチシフターとシャウトの掛け合いスタイルで、やはりどこかデスメタルっぽさを感じさせるスタイル。

・Fulminate "Agony Resonates Pleasantly"

US出身ワンマンバンド。腐臭漂うようなズルズルのデスメタルサウンドを導入したオールドスクールゴア。こちらもRegurgitate等のCarcass影響下バンドからの影響が感じられるサウンドで、わかりやすくも洗練された楽曲が目白押しである。音作りから想定されるような重たさはあまりなく、転調を挟みつつも体感速度はわりと速めに進んでいくのでグラインドコアなど速い音楽ファンにも刺さりそうな1枚。

・FesterDecay "Reality Rotten To The Core"

日本から瞬く間に世界へとまさに大躍進を遂げた九州出身4人組バンドによる1stアルバム。数多く存在するオールドスクールゴア影響下バンドよりも一層プリミティブな側面まで踏み込んだ楽曲が特徴的。またメンバーの影響でもあるデスメタルやハードコアの要素なども組み込まれ、ゴアグラインドでありつつ新たなクロスオーヴァーの可能性も感じさせるような作品となっている。個人的には「ゴアグラインド要素の強いCaustic Wound」といった印象を受けた作品でもある。

・Delayed Ejaculation "Semen Stuffed Human Brain Souffle"

名門BLPよりデビューしたポーランド出身のバンド。ポルノ要素多めのグルーヴィゴアではあるがパーティ感はあまりなく、しかしノリは良い。曲尺は短くブラストも比較的多いので“遅めのパートが多いグラインドコア”といった感じだろうか。おそらくGutやMucupurulentあたりからは影響を受けているのだろうが、以降に派生した“ポルノゴア”をやろうという気概はあまりなくあくまでGut原理主義的なグルーヴィゴアをやるという、どちらかといえば玄人向けの趣が感じられるバンドであると言える。

・Anal Birth "Top 28 Chapters Of Infant Atrocities"

近年ライブ活動を再開し一部のゴアマニアを騒然とさせた"元祖ゴアノイズ"ことAnal Birthがまさかの新作を発表。Adam氏のソロプロジェクトとして知られているが、復活ライブ以降は1stアルバムにもゲスト参加していたWill氏 (Buckshot Facelift等に在籍)をベーシストに迎えた2人体制になっている。現代におけるまでさまざまな進化を遂げたゴアノイズだが、元祖はより即興的で不安定なノイズグラインド影響下の楽曲であったことに改めて気付かされる一枚。20年以上の活動の中でもオリジネーターならではの独創性を守り続ける姿勢には感服するばかりである。

・Toughguy "Charged By Mince Powered By Gore"

ロシア出身、ミンスゴアバンド。Dビートやミドルテンポ多めのゆるやかな展開を基軸にしているが、速いブラストも卒なくこなしてしまうエリート集団。元々グラインド系統のロウなゴアグラインドをプレイしていたが、本作はどちらかといえばオールドスクールゴアのセオリーに則った作品になっており、所謂様式美やお約束的な展開もよく見受けられる。まさに自らを「タフガイ」と名乗る集団にしか成し得ないパワフルで肉厚なサウンドは必聴である。

・Sick Sinus Syndrome "Swarming Of Sickness"

2020年始動、Pathologist、Malignant Tumour、Ahumado Granujoのメンバーらを擁するドリームバンド。オールドスクールリバイバルを全身全霊で体現している彼らだが、本作でもその心意気はひしひしと感じられる。リフ、展開など全てがゴアグラインドの教科書に載るような模範的な楽曲をプレイしており、正統派ゴアグラインドを望む人にはうってつけの一枚。また耳の肥えたリスナーであれば「ここの元ネタってあの曲では…?」とピンと来るようなフレーズも数々登場する。これからゴアグラインドバンドを始めるみんなはとりあえず聴きまくろう。

・AfterDismantling "Worst Blessing"

2022年本格始動、都内を中心に精力的なライブ活動を続け、シーンを問わず多くの現場にゴアグラインドを輸入しているゴアソルジャー2人組。デスメタルの影響も感じられるオールドスクールなゴアサウンドと破壊力抜群なグラインドコア直系パワフルドラムがマッチし、キレ良し勢い良しの楽曲を作り上げている。少人数ながらも力強くボリューミーな音作りには圧倒されるだろう。身内だから…とかではなく、こういったバンドが評価されることで正真正銘のシーンの成長に繋がるのである。

・MxMxM "8 Éxitos Chacalosos"

カリフォルニア州、大手音楽フェスも開催されるコーチェラバレー出身の2人組バンド。現地では多くのライブをこなしており、野外で大勢の観客を前に演奏している映像も確認できる。ローテンポでノリやすい楽曲を基軸に、ここぞという時には抜群のスピード感を出すブラストが挿入される。ミンスコア的なエッセンスも感じられるが、雰囲気は近年のグルーヴィゴアグラインドに近い。分かりやすく、また安定したサウンドからはその人気の高さも十分頷ける。しかしマモミみたいなバンド名ですわね。

・Cystic Embalment "Folklore De Fond D´Égout"

Vaginal AddictionやHoly Costのメンバーらが参加するカナダ出身の4人組バンド。活動約5年にして初のフルアルバム。ミドルテンポと高速ブラストをいい塩梅に混ぜ合わせ、オールドスクールなドロッとしたギター、ゲロゲロ下水道ヴォーカルでより残虐性溢れるサウンドへ仕立て上げられた楽曲が収録されている。邪悪だがノリは良く、オールドスクール好きな玄人向けに見せかけて実はこっそり若者も虜にしてしまうようなゴアグラインド。カナダは実はこういったスタイルのゴアが多かったりする。

・Foetal Fluids To Expurgate "Cyclic Vomiting Syndrome"

Bowel Stewのメンバーも参加しているイタリア出身の3人組バンド。活動初期の音源はゴアノイズ寄りのものが多かったが、1stアルバムである本作においては正統派と言っても過言ではないゴアグラインドをプレイしている。しかし、ギターの音作りや少々カオティックな高速ブラスト、溺死ヴォーカルなどゴアノイズ的要素も多く引き継がれている。全体を通してわりとやかましいサウンドにはなっているが、曲調はミドルテンポでわかりやすいものも多い。

・Disgorged Foetus "Obscene Utter GORE Annihilation"

カルト的な人気を博すフランスのベテランゴアバンド。2017年の活動再開後、ちょくちょく音源はリリースしていたが今年遂に新フルアルバムが発表された。90年代のオールドスクールゴアを主体にしつつもとっつきやすいグルーヴィなパートを多く含み、縦ノリ必至のノリの良さに心を鷲掴みされるような作品。もはやグルーヴィゴア系の作品としても語れるほどの小気味よさが特徴的ではあるが、反面バンドが持つB級ホラー系の邪悪さも健在で、ただノリ良く明るいだけでの作品ではないという点も評価できる。

・Purulent Remains "Fermented Death"

昨年発売されたデビューEPがすでに話題沸騰となった、中南米のパナマ共和国出身の2人組バンド。そんじょそこらのオールドスクール系とは違う、まさに霊安室、もしくは墓の中から直送されたようなグチャドロサウンドを操り、不気味でじっとりとした原始的ゴア/デスメタルの世界観を追求しまくった作品。やはりデスメタルのエッセンスが色濃く感じられるが、デスメタルだけでは表現できない残虐性や陰鬱さを描いた楽曲を収録。そう、ゴアグラインドとは本来こういった音楽なのであった。

・Abosranie Bogom / Toi Toi "Constipation Denial / I Wish You Another Stillborn"

全世界のマニア (日本では多分5人ぐらい) が待ち望んだイスラエルのAbosranie Bogomの新作。カルトレーベルParkinson Wankfist PleasuresのオーナーGilles氏を再び迎えた2人体制で作られた作品。2000年代に多く台頭したグルーヴィでゲロゲロな打ち込みゴアを収録しており、現代でも変わらぬそのスタイルには郷愁を感じる人も多いだろう。対するToi ToiはBirdfleshのJoakim氏によるプロジェクト。こちらは正統派なデスグラインドの影響を感じさせつつもやはり所々アホっぽい楽曲を収録。ベテランVS新米のスカトロゴア大戦、知能を極限まで下げてぜひ楽しんでいただきたい。

・Trachoma / Yakisoba "Born Headless"

ブラジルvsイタリアの実力派ゴアグラインド対決。Trachomaはブラジルゴア界のカリスマThales氏が率いるバンド。本作よりベーシストが加入し、低音を効かせまくった重厚なミドルテンポゴアグラインドを収録している。ノリ良く踊れる楽曲が盛り沢山。お馴染みYakisobaは本作が2023年における唯一作。駆け抜けるマシンドラムとこちらもずっしりとしたサウンドのギターが特徴的な楽曲。ダークな雰囲気作りも個人的にはちょっと珍しい気がする。


番外編 ゴアグラインドじゃないやつ

・Electric Bath "Cutting Close"

Hallucination Realizedのメンバー擁するニューヨーク出身2人組バンド。本作のミックスはMassive Gore Bulge etc.のMax Riveraが担当している。高速ブラストとDビートを駆使した、ミンスコアっぽい雰囲気も感じるグラインドコア。高音スネアやデスメタル系の凶悪なヴォーカル、パワーヴァイオレンスのようなビートダウンなど多くの周辺ジャンルのエッセンスを取り込み、独自のスタイルを確立させている。低音から高音まで全ての音が心地よく、それでいて殺傷能力の高いサウンドに心奪われること間違いなし。

・Mortify / Malformed Gentlemen "Acrid Abyss / Bloodthirsty Beauty"

現代日本において抜群の勢いとクオリティを保ち続けているグラインドコアのカリスマ2バンドによるスプリット。MortifyはHM-2によるステンチデスメタリックサウンドを効かせつつもスピード感抜群のグラインドコアを収録。Descendentsのカバーも非常に痛快である。Malformed Gentlemenはライブの雰囲気をそのまま詰め込んだかのようなロウでノイジーな楽曲を収録。90年代の古き良きグラインドコアをこの現代においても一貫して発信し続けている数少ないバンド。

・Miroed "Miroed"

2014年から活動するロシアはサンクトペテルブルク出身のバンド。メンバーはドゥーム、ブラックメタルなど幅広いジャンルにて活動中。ひたすらに突っ走りながらもメタル的なテクニックやメロディも組み込んでくるグラインドコアをプレイ。暴れまくるドラム、ヴォーカルとブラックメタル的とも言えるギターが不思議とカッチリ噛み合っており、全力で走り抜けた先にふと表れる哀愁漂う雰囲気はエモヴァイオレンスっぽさも感じられる。ヴォーカルの発狂具合もバッチリ合っている。Nailsやブラッケンドハードコア好きにもオススメ。

・Noisy Neighbors "Derailing the Hype Train"

Intestinal Disgorge etc.のShaneやフィルアンセルモソロプロジェクトの元メンバーらが参加しているテキサス州出身の3人組バンド。鮮やかでメリハリの利いた王道グラインドコアだが、Dビートから素早いブラストまで絶え間なく安定して叩き続けるドラムの持続力には驚かされる。ギターは比較的メタリックで、2000年以降のグラインドコアからの影響がひしひしと感じられる。Maryland Deathfestなど大手音楽イベントにも出演が決まっており、今後の活躍に期待が高まるばかりである。

・The Arson Project "God Bless"

スウェーデン出身、ベテラングラインディングファストコアバンド。圧倒的な熱量と疾走感を持つ楽曲をプレイし、Obscene Extremeに出演するなどすでに大人気のバンドだが、本作もとにかく速く、力強く、やかましい。ひたすら速さで突っ走るわけではなく落とすところはしっかり落としているので、根本はやはりハードコアやファストコア、パワーヴァイオレンスの血が流れているのだろう。凄まじいほどの爆発力を持つ疾風迅雷の如きサウンドに貴方の鼓膜は耐えられるだろうか…?



真・番外編 新譜もしくはエクストリーム系ですらないけど今年よく聴いてたやつ

・結束バンド "結束バンド"

友人がこぞって見ていたので私も見始めた『ぼっち・ざ・ろっく!』。本編は過去の自分と重ね合わせてPTSDになりかけつつも何とか全編視聴したが、個人的にこのアニメにおける評価点は「エンディングが全て素晴らしいこと」である。最終話を除いて3つエンディングが存在しているが楽曲の雰囲気も一曲ごとに変わり、それぞれヴォーカルを取るキャラに沿った曲調と歌詞になっている。特に「なにが悪い」はアップテンポの明るい曲調とそれに対比するかのような伊地知虹夏の過去や葛藤を表した歌詞が乗る楽曲である。虹夏のようにポジティブで、しかしちょっとした切なさも隠された本楽曲は、後藤ひとりの心情を表している他の楽曲と比べると特に異彩を放っているように感じられる。この曲がEDとして初登場した第8話を思い返しながら聴くとより深く歌詞に込められた気持ちを感じることができるだろう。アニメを観てだいぶ経つが未だに泣きそうになる。個人的にはアルバム限定曲の「小さな海」もこの楽曲と似た雰囲気を持つ秘められた名曲だと思う。

・Frail Body "A Brief Memoriam"

Orchid、Ampere等との出会いをきっかけに2年ほど前から主に海外のエモヴァイオレンスを漁り始めたが、ようやく自分の理想とも言えるバンドに出会うことができた。根本にenvyがあるのでどうしてもenvyっぽさが欲しくなるのだが、多くのバンドがenvyと比べると「うるさいパートの時にそこまでうるさくない」ように思える。そんな感じで私の理想は「うるさいところはひたすらうるさく、静かなところは静かに良い感じのメロを聴かせ、あわよくばブラストとか入ってる」バンドなのだが、Frail Bodyはまさにこの理想ドンピシャである。大半のバンドはどれか一つの要素に重点を置きがちなので、静と動の両要素を見事に両立させた本作は非常に素晴らしい出来である。またテンポや展開の移り変わりも絶妙で、アルバムを通して一切飽きが来ない。本作がエモヴァイオレンスファンの中で実際どの程度の評価なのかは不明だが、個人的には全てがドツボに入った作品である。もしこんな感じのやつでオススメあったら教えてください。

・みみめめMIMI "迷宮センチメンタル"

中高生の時によく聞いていたが、久しぶりに聴いたところエモすぎて無事死亡。声優やアニソン歌手において「唯一無二の歌声」という言葉は非常に陳腐であるが、タカオユキ氏のハスキーで伸びのある歌声はまさしく唯一無二である。アップテンポのものからバラード調のものまで幅広く収録されているが全ての楽曲に歌声がマッチしており、ジャンルが多岐に渡る楽曲を完全に物にしている。特にどこか切なさを感じさせる楽曲においては、まさしくベストマッチと言えるものに仕上がっている。もともとこのユニットは声優タカオユキ氏とイラストレーターちゃもーい氏の2人組という活動時期 (2013~2017) を考えると非常に珍しい形態であるが、この形態だからこそ表現できたPV等のいわば2.5次元的な雰囲気作り (そもそも初期は顔出しをしていなかった) もまた革新的であった。この2.5次元的な雰囲気も最近ではYOASOBIなどにより一般的になっているが、もしかしたらみみめめMIMIがパイオニアの一人であったという考え方もできるかもしれない。

・ヒカシュー "ヒカシュー"

POLYSICS、P-MODEL文脈で名前は知っていたが何故か今までスルーしていたバンド。元々は演劇のサウンドトラックを手がけるバンドとして結成されたこともあり、世界観は同年活動していたP-MODELよりも難解で癖が強い。また編成もドラムマシン、シンセ、ギター、サックス、ヴォーカル (&ベース) という当時70年代後半〜80年台初頭出会ったことを鑑みるとまさしく最先端とも言えるスタイルである。そんな奇妙で特異な雰囲気の中繰り広げられるミニマルなシンセサウンドとキャッチーなメロディは、不気味なほどに耳に残り続ける。特に「20世紀の終りに」、「プヨプヨ」、「幼虫の危機」などの楽曲は解釈不可能な世界観と覚えやすいフレーズが相まって、一度聴くと忘れられないものになっている。またサックスやインプロパートなどジャズの要素も含まれているが"ジャズ的なわかりにくさ"はほとんどなく、あくまでテクノやシンセポップを追求した作品になっている。

・Boris "Pink"

今年下半期に自分の中で空前のBorisブームが巻き起こり (つまり今真っ只中) 、Borisしか聴いていない日も多くあった。もちろん昔から知ってはいたが、この“PINK”を改めて聴いた際に今まで気が付かなかったこのバンドの魅力に気づいてしまい、その後虜となった。ドゥーム/ドローンからノイズ、ハードコア、メタル、シューゲイザーなど数多くのエクストリーム系ジャンルを内包している彼らだが、その源には常に「ロック」が在り続けている。エクストリーム的な要素を持つバンドの中でここまで「ロック」なバンドは他にいないだろう。特にこの“PINK”はノイズやシャウトによる轟音とストーナー系王道ロックやパンクの要素が融合して、攻撃的でありながら心地よい「Boris流ロック」が確立したと言っても過言ではない作品。2003年発の“Akuma No Uta”も同じくロックな作品だが、よりハードで、そしてより美しい旋律が聴こえるのが本作である。様々なエッセンスが複雑に絡み合う中、誰が聴いても「ロックである」ことだけは明白な楽曲を作り上げるのもBorisならではの術なのだろう。多くの新しいサブジャンルが誕生する昨今ではあるが、時代はいつだって「ロック」なのかもしれない…。

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