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 TOKYO MXのテレビ番組「堀潤モーニングFLAG」で朝鮮学校のみが公的教育助成から排除されていることを取り上げた際に、コメンテーター3人が排除を正当化する差別的発言を重ねた問題について、私たち有志はその悪質な誤りを指摘し訂正報道を求めてきました(その詳細は公開質問状で尽くしていますので繰り返しません)。

 私たちはまず、放送局および番組に対して、局のサイトフォームや番組SNSで指示されたハッシュタグを通じて意見を伝えましたが、一切反応をいただけず、公開質問状に踏み切りました。同質問状は、1000名を越える賛同署名と多くのメッセージを添えてTOKYO MXに直接提出し、また番組編成局長の城田信義氏と面談をもってあらためて問題点を丁寧に説明しました。しかし、得られた文書回答の内容は、国・自治体が朝鮮学校への補助金を除外・停止した論理を繰り返すもので、自らの番組での問題提起さえも否定するものでした(この詳細についても、すでにnoteで報告したとおりです)。

 また私たちは、メインキャスターの堀潤氏に対して直接連絡し、非公式での対話も申し入れてきましたが、これについても一切応答していただけませんでした。これまで、堀氏がコメンテーターの発言内容を批判したことは一度もなく、むしろ擁護に徹しています。また、TOKYO MXの見解についても、それと異なる立場を堀氏が表明したことはありません。ということは、朝鮮学校で交流や取材をしながらも、朝鮮学校の排除の論理を容認しつづけているということになります。朝鮮学校に関わる者として、そのような態度でよいのか、虚心坦懐に語りたいと思っていましたが、その機会も失われました。

 コメンテーターの大空幸星氏らも、一切訂正や謝罪などすることのないまま、番組にも出演しつづけていますが、それも堀氏や城田氏らが擁護することで、自らの発言について反省や熟考する機会を奪われているためと思います。それはひいては、視聴者が正確な知識を得る機会を奪う行為であると言えます。

 現実は、私立外国人学校のなかで朝鮮学校のみが公的教育支援から排除されたままであり、それを正当化する差別的コメントによって深く傷つけられたのは、朝鮮学校の子どもたち、保護者たち、教員たち、出身者たちです。その意味で問題は全く解決していませんが、公開質問状を通じて問題のありかは明らかとなり、その報道も出そろいましたので、ここで「堀潤モーニングFLAG」朝鮮学校報道を問う有志の会の動きは一区切りします。本件に限らず、報道に携わる方々は、自らの語ることばが、ときに、既に苦しんでいる人々をさらに苦しめることになることを自覚していただければと思います。

 以下、公開質問状をめぐる報道・寄稿などについてまとめました。最後の寄稿については、週刊金曜日より転載の許諾を得ましたので、ここに公開させていただきます。

朝日新聞
2023年7月14日
https://www.asahi.com/articles/DA3S15687598.html

神奈川新聞(カナロコ)
2023月7月14日
https://www.kanaloco.jp/news/social/article-1004607.html

月刊イオ
2023年7月21日
https://www.io-web.net/2023/08/91265/

朝鮮新報
【寄稿】朝鮮学校排除コメントに対する番組制作側の責任(早尾貴紀)
2023年8月12日
https://chosonsinbo.com/jp/2023/08/12-128/

朝鮮新報
【寄稿】続・朝鮮学校排除コメントに対する番組制作側の責任(早尾貴紀)
2023年09月08日
https://chosonsinbo.com/jp/2023/09/08-107/

週刊金曜日
【寄稿】TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」 朝鮮学校への差別助長を正当化 問われる番組制作の姿勢(早尾貴紀)
2023年9月1日号
https://www.fujisan.co.jp/product/5723/b/2392615/


(『週刊金曜日』2023年9月1日号より)

TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」
朝鮮学校への差別助長を正当化 問われる番組制作の姿勢

早尾貴紀

6月19日放送の「堀潤モーニングFLAG」で朝鮮学校を差別的に取り上げた問題について、番組を制作したTOKYO MXから公開質問状に対する回答があった。連名で質問状を提出した早尾貴紀・東京経済大学教員に報告してもらう。

 東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の情報番組「堀潤モーニングFLAG」の今年6月19日の放送で、朝鮮学校のみが公的教育助成の諸制度から排除されていることは、すべての子どもたちが平等に教育を受ける権利を侵害するのではないか、という問題提起がなされた。すなわち、日本政府による高校授業料無償化(高等学校等就学支援金制度)および東京都による私立外国人学校教育運営費補助金制度から、いずれも政治的な日朝関係を理由として朝鮮学校のみが排除されていることを、メインキャスターの堀潤氏は疑問視したのだ。

3人の差別的姿勢

 ところが、それを受けたコメンテーター3人は、いずれも制度の趣旨や運用に関してまったく無知ないし誤認したまま朝鮮学校の排除を是認したのみならず、朝鮮学校に対する攻撃的発言まで行なった。大空幸星氏(NPOあなたのいばしょ理事長)は、「子どもたちへの直接補助になっていないし、朝鮮学校の経営が下手くそすぎることが問題である」として、朝鮮学校へ補助金を出さないことを当然視した。さらに大空氏は、「子どもたちを盾にするのがいちばん卑怯だ」と語り、あたかも児童・生徒をダシにして補助金を得ようとする朝鮮学校は不当だというような攻撃的発言まで加えた。これは、都の補助金がそもそも学校運営の補助を通して子どもたちの教育支援をする制度であることをまるで理解していないばかりか、問題の所在を経営の上手下手という補助金とまったく無関係の事柄へとずらし、かつ他の外国人学校から朝鮮学校だけを標的にするという明白な差別行為であった。

 続いてコラムニストの河崎環氏は、大空発言に賛同を示しつつ、「政治的な論争の対象になるような学校で民族意識を教えているのは、過剰な環境である」とコメントし、無償化や補助金から朝鮮学校を排除することを正当化した。だが、朝鮮学校を政治的論争の対象にしているのは日本社会であって朝鮮学校ではないし、民族文化を教え民族意識を育むことはユネスコをはじめとする国連諸機関・諸条約に認められた正当な権利である。したがって河崎発言は、まったく事実関係も権利関係も無視して責任を朝鮮学校に押し付ける、悪質な差別であった。

 さらに、脳科学者の茂木健一郎氏は、「教育支援は学校に出すと既得権益になるから、朝鮮学校には支給せずに、子どもや家庭に直接出すべきだ」とコメントした。しかし、番組で取り上げている高校授業料無償化は生徒個人への教育支援であるのに、すでにそこから朝鮮高校の生徒のみが排除されていることが問題なのだ。茂木発言はこのことを無視して、あたかも朝鮮学校だけが不当な権益を得ているかのような印象操作をするものであった。

 3人のコメントはいずれも基本的な制度理解も欠いた粗末なものであるのみならず、数ある外国人学校のなかで朝鮮学校についてだけはどんな不当な言いがかりをつけてでも除外しようという差別的姿勢で共通する。

堀潤氏と制作側の責任

 もしこの3人のコメントを受けてメインキャスターである堀潤氏がその場で事実誤認を指摘するか反論するかしていたら、それ以上番組外で批判を浴びるような事態にまではならなかっただろう。しかし堀氏は、コメントに対して「いろいろな議論が出ました」とだけ受け流し、そのまま朝鮮学校への取材映像に移ってしまい、その映像の後も朝鮮学校の取り組みの紹介にとどまった。のみならず、再度大空氏にコメントを求め、大空氏は「朝鮮総聯には1円もお金は入らないということは明確にしてほしい」と発言し、またしても補助金停止には朝鮮学校側に疑惑と説明責任があるかのような追い討ちを加える機会を与え、そしてそのまま同コーナーは終了してしまったのである。

 ここで堀潤氏を含む番組制作側の責任は大きい。政府や都の朝鮮学校排除の政策決定に対して本気で異論を提起するのであれば、コメンテーターの人選から事前のレクチャーまで周到に準備をしておく必要があるが、そうした慎重さはまったくなく、きわめて場当たり的であった。専門的知識もなく当事者性もない、たんに器用な発言をするだけのコメンテーターにスタジオ内で即席に発言させる前世紀来の古いスタイルでは、こうした無責任な誤認と偏見を拡散させることになるのは必然的であった。また番組内での堀氏の振る舞いは、コメンテーターを「お客様」扱いし、無責任な差別発言さえも注意することなく野放しにするものであった。

 結果的に番組全体としては、朝鮮学校のみを標的にした公的教育支援からの排除を追認し、視聴者に対して差別を助長するものになってしまっていた。

MX社に公開質問状

 そうした放送を受けて、私は朝鮮学校と長く交流を重ねてきた2人の大学研究者、山本かほり氏(愛知県立大学)と板垣竜太氏(同志社大学)とともに連名で7月13日に、番組を制作放送したTOKYO MX宛に公開質問状を提出した(教育・研究関係者を中心に1000名以上の賛同署名とメッセージ集を添えた)。質問状の内容は、まさにここまで指摘してきた諸問題点に関するもので、コメンテーターの発言内容の間違いを認めるのかどうか、コメンテーターへの事前レクチャーを行なったかどうか、堀氏はなぜコメンテーターの間違いや差別を正さなかったのか、番組全体が朝鮮学校排除の差別を助長する結果となったことをどう受け止めるか、など9項目であった。

 これに対して、MX社の編成局長の城田信義氏から連絡があり、7月26日に私と山本氏とでMX社を訪れ面談の場をもった。この場で城田氏から口頭で説明があったのは以下の諸点である。

  • コメンテーターに対する堀潤氏の応答は、学校取材の映像がそれに当たる。

  • コメンテーターへの事前レクチャーは行なったが、不十分だったかもしれない。

  • 今回は番組の尺(時間枠)が短いために説明不足となったが、賛否両論を平等な時間で話すことができる機会をつくっていきたい。

  • 番組として政府や都の政策にNOを言うことは報道機関としてすることはない。あくまで政策についての議論の場を提供したい。

 これに対して、私と山本氏から城田氏に伝えたのは、下記の諸点である。

  • 学校取材の映像を流しただけで、コメンテーターの間違いは正せてはいないし、視聴者は誤解したままになっている。

  • コメンテーターに対するレクチャーが不十分なのは、理解が浅いだけでなく制作側の知識不足や誤認や偏見があったからではないか。

  • 朝鮮学校が、日本による朝鮮の植民地支配を歴史的背景としており、戦後に在日朝鮮人が日本政府による弾圧や差別に抵抗しながら民族文化を子どもたちに教えるために作られた、という経緯が踏まえられていない。(なお、この面談時に城田氏が朝鮮学校を「北朝鮮の学校」と呼び、私たちからその用語・認識に偏見があることを指摘する一幕があった。)

  • 「賛否両論」を平等な時間で放送することが公正な報道ではない。「民族差別をしてもいい」という意見と「民族差別はいけない」という意見は等価で並べて良いものではなく、平等な時間を割くということは差別を容認する意見にあえて発言権を与えるようなものである。

 この私たちの指摘に対して、MXの城田氏は頷きながら「勉強になります」という姿勢を見せていたため、公開質問状に対する一定の内実のある回答を期待したが、しかしその期待は最悪のかたちで裏切られることとなった。

「正誤を判断しない」

 8月10日にTOKYO MXから、公開質問状に対する文書回答があった。それは、以下のとおりである。

〈「私立外国人学校教育運営費補助金」は、東京都から学校に対して支給される補助金です。2013年11月の東京都の調査には「朝鮮学校は朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容や学校運営について、強い影響を受ける状況にある」と明記され、また、いわゆる高等授業料無償化制度に関するものではありますが、朝鮮総連との密接な関係に鑑みて朝鮮学校を対象から除外停止した国の判断が2021年7月の最高裁判決等において是認されております。当社は、自治体や国の決定した施策・判断についての正誤を判断することは致しませんが、上記の事実に照らせば、「朝鮮学校に対する補助金」とコメントした大空氏の発言自体は、制度の内容及び自治体や国の決定した施策・判断の内容と相違はありません。〉

 これ以外のことについては、つまり河崎環氏と茂木健一郎氏の発言および堀潤氏の責任については、ゼロ回答であった。要するに、TOKYO MXとしては、都による補助金の停止と政府による高校授業料無償化からの除外については、「正誤を判断することはしない」と言いながら、「朝鮮総連との密接な関係に鑑みて朝鮮学校を対象から除外停止した国や自治体の判断の内容と相違ない」として、結局は排除を追認する、と明言したのである。これは大空幸星氏の差別発言を擁護したにとどまらず、番組として、局として、朝鮮学校を差別する政策を「正しい」と判断したに等しい。「正誤を判断しない」という、一見すると中立を装うポーズをとりながら、実のところ誤認や偏見や差別を助長しているのだ。

 公開質問状の時点までは、私たちは問題の中心的な所在がコメンテーター3人の発言内容のほうにあると考えていたが、編成局長の城田氏との面談およびこの文書回答でもって、メインキャスターの堀潤氏も含む番組制作側の根本的な問題がより大きいことが明らかとなった。当初の私たちの甘めの見立ては、堀氏が政府や都の朝鮮学校排除の政策に対して等しく学ぶ権利の侵害だと批判する問題提起をしたところ、予想外に3人のコメンテーターが排除して当然という差別的感想を無知と偏見でもって出してきた、そして堀氏はその場でうまく対処できなかった、というものであった。堀氏の善意を最大限に汲み取ってのことだ。

 ところが、編成局長から送られてきた文書回答によって、一気に問題の次元が、コメンテーター3人による「不測の暴言」から、番組制作側であるMX社の基本姿勢の問題へ、ひいては報道機関における「公正さ」とは何か、植民地責任および民族差別とは何か、というきわめて本質的な問題へと拡大・深化していくこととなった。

マジョリティの自覚

 こうした問題の発生と展開であったため、私たちは文書回答があるまで、あえてメインキャスターの堀潤氏に対する批判を抑制してきた。大手メディアのなかでは、朝鮮学校に継続的に関心を向け、実際に足を運び、そしてあえて時間をとって報道しようとする稀有な報道人であることは確かだからだ。堀氏の取材に協力した朝鮮学校の関係者にとっても、政府や都が政治に絡めて朝鮮学校を公的教育支援から排除していることについて問題提起をしてくれた堀氏が、差別報道で矢面に立たされることになるのは、不本意であろうことはよく理解できる。

 しかし、6月19日の「堀潤モーニングFLAG」の報道で、圧倒的多くの在日朝鮮人が傷つき、怒りや落胆を覚えたのは厳然たる事実である(私たちの公開質問状へ賛同署名とともに寄せられた多くのメッセージは辛辣なものであった)。それに対して堀氏は、取材を受けた朝鮮学校の教員や児童・生徒から「応援しています」と言われたと自己弁護をしているが(放送後の本人のYouTube番組「8bit News」やnoteで)、それは藁にもすがらざるをえないほど日本社会に迫害され続けてきた在日朝鮮人の窮地につけいる振る舞いである。「応援」されたからといって、堀氏の番組でコメンテーターらの差別発言が垂れ流されたことについて、堀氏が自らその発言機会を与えかつその発言内容を容認したことは、厳しく批判されるべきことであって、「応援」によって免罪されたりはしない。

 堀氏は、番組内でもその後のフォローでも、コメンテーターらの完全に事実誤認に基づく朝鮮学校排除発言を「さまざまな議論」「政策的提言」として一貫して擁護している。つまり堀氏は、朝鮮学校ではなく、コメンテーターと制作スタッフという内輪の組織を守ることを最優先している。朝鮮学校に関心を寄せる「善人」を自任しながら、またMX社の文書回答と同じく一見中立を装った「さまざまな議論」という言い方をしながら、しかし実際に堀氏がその「善意」と「中立」によってしたことは、差別コメントの拡散とその行為の正当化にほかならない。

 さらに言えば、堀氏の振る舞いは、自分を貴重な報道人として信頼してきた朝鮮学校関係者と、今回の報道で傷つきそして反論をする在日朝鮮人のあいだに分断を持ち込み、その前者を自己正当化に利用しながら、後者を黙殺している。だが、朝鮮学校は、堀氏の報道のネタ提供者ではないし、堀氏の善意の保証人でもない。堀氏に欠如しているのは、自分が日本人マジョリティであり、メディアを握る権力者であるという自覚と、それに基づく責任ある行動だ。植民地支配に由来する朝鮮学校の教育に対し日本人は歴史的かつ政治的な責任を有しているし、報道人はその責任を果たすべく政府批判や自治体批判をも躊躇してはならない。堀氏は、コメンテーターの差別発言に対し無作為だったのみならず、日本人マジョリティと報道人という二重の特権を持ちながら無責任に振る舞い、マイノリティである在日朝鮮人を差別する報道に加担したのである。

 なお、公開質問状を出した有志の会では、堀潤氏に対する面談も申し入れているが、堀氏からもMX社を通しても返答はもらえていない。