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新米教師のあなたへ:色を意識して効果的な授業を

良い授業とは何だろう。 わかりやすい授業、面白い授業、ためになる授業、心に響く授業、思考力を鍛える授業…。これまで試行錯誤しながら授業を行ってきた。「教授法」なるものは本格的に学ばないまま、自分の経験と工夫に頼って、やみくもに力まかせに授業をやってきたように感じる。

退職して1年間のブランクを挟んで、この4月から非常勤で週1回、大学の講義を担当するようになった。退職後に色の勉強をしたことが、授業に役に立っていると実感する。この春から新米教師として教壇に立っている人に、役に立つかもしれない、という思いで書いてみたい。ここで想定しているのは、社会科学系の大学授業(講義形式)である。

大学の授業で最も重要なことは、何だろうか。やはり専門的な知識を学生に伝えることだ。そして「専門知識の伝達」という行為に一番ぴったりくるのは青色だと思う。青には、「思考」「論理性」「コミュニケーション」といった意味がある。授業の準備のために、講義ノートを作成するが、この行為は、まさに青のキーワードを意識しながら行う作業となる。

私は授業の冒頭に「今日の授業のポイント」として、受講生に伝えたい要点・考えてほしい問題点を提示している。学生さんの「これから授業を受けるぞ」という心構えを促すためである。これは、上述した青の準備作業を終えて初めて学生に伝えられる内容である。やはり、講義ノートは念入りに用意しておきたい。

私の場合、講義準備の大半を、この青の作業に費やしてきた。ただし、青以外にも、もう一つやっておきたい準備がある。それは黄色(キーワードは、「楽しい」「好奇心」「知識」)の作業である。黄色の作業とは、学生の知的好奇心を刺激して、受講生に「この授業、おもしろい」と思ってもらうための準備である。

私が使ったのは、専門性の高いメディア(Wall Street JournalやThe Economist)の記事から、学生が関心を持っていそうな時事問題を選んで、それを授業内容と関連させながら私なりに解釈するという手法である。この黄色の準備は、私自身にとっても知的好奇心をくすぐられる楽しい作業であった。教える側が面白いと思っていなければ、この黄色の「わくわく」感は、学生にも伝わらないだろう。本来の授業内容から、少し外れてはいるものの、新鮮な話を挿入することで、学生の知識欲を起動させて授業を楽しんでもらうのである。新聞や雑誌などは、学生が普段、読まないような高レベルのものを選ぶと、授業の専門性が深まって良いと思う。

続いてオレンジ色も、授業で意識する色だ。教室で話している最中に、パッと新しい発想がひらめく瞬間がある。それは、青や黄色で準備した内容ではない。それまで自分が考えてきたことや経験が、学問の知識と合体し反応する。そして、斬新なアイデアが突然、表出するという感覚である。その瞬間は「経験を知恵に変える」というオレンジ色が活性化していると感じる。この体験は、ライブならではの醍醐味だ。

学生と質疑応答のやり取りをしているときにも、同様な経験することがある。ただし、このオレンジ色の発想は、青や黄色の準備が周到に行われて、初めて生まれるものだと思う。授業準備を丁寧に行うに越したことはなく、それを学生に伝えようとすることで、話し手側にも新たな気付きがあり、学びが深まるのである。面白いことに青とオレンジは補色関係にある。やはり青の準備をすることが、オレンジ色の発想を促すのであろう。

最後に、学生さんに向ける教師の熱意や情熱も不可欠である。「今日の授業で、これを皆さんに伝えたい」という熱い思いは、学生に伝わり授業の活力となる。これは、赤ならではの働きである。これについては、稿を改めて書いてみたい。

ところで私自身が、学生時代に受けた講義で、記憶に残っているのは授業の何色の部分だろう。先生方には申し訳ないが、肝心な青の部分は、ほとんど忘れているようだ。覚えているのは、雑談、つまり本論から脱線したオレンジ色の部分だろうか。

こんな自分の経験を棚に上げ、相も変わらず、青と黄色の準備を整えて、授業に臨む私である。

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