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ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #16 嘲笑するピアノ

11.

Ein Jüngling liebt ein Mädchen,
Die hat einen andern erwählt;
Der andre liebt eine andre,
Und hat sich mit dieser vermählt. 

ある若者がある娘を好きになった
その娘は他の男を選んだ
その男は他の娘が好きで
結婚してしまった

Das Mädchen nimmt aus Ärger
Den ersten besten Mann,
Der ihr in den Weg gelaufen;
Der Jüngling ist übel dran.

娘は怒りに任せて
行きずりに出会った
一番マシな男を選んだ。
若者はひどく落ち込んだ

Es ist eine alte Geschichte,
Doch bleibt sie immer neu;
Und wem sie just passieret,
Dem bricht das Herz entzwei.

昔からある話だが
今もよくあること
それが本当に起こったら
心はまっぷたつ。


これまたひどい話。
この詩はハイネの中でも有名なのかもしれない。というのはYouTubeには朗読もたくさん上がっているから。シューマンが曲を付けているということ関係なく、知られている詩なのかも。


シューマンはハイネの皮肉や批判精神を理解していなかった、とはよく言われること。しかし前曲のどっぷりと悲しみに浸った後奏から、この変わり身。これを皮肉と言わずしてなんと言う。


変ホ長調。前曲のト短調の平行調の下属調。要するに♭2つから、♭3つに。
四分の二拍子

前奏は歌い出しのメロディーと同じだが、シンコペーションとアクセントで、言葉におけるアクセント、強拍を無視してみせ、それはまるで詩人を嘲笑するかのよう。私はこのシンコペーションが、何者かが詩人を後ろから「膝カックン」して馬鹿にしているかのように感じる。


歌が始まるとそのアクセントはなくなりますが、3回だけ左手にまた現れる。それは「(彼女が選んだ)他の男は、他の娘を愛し」というところと


ゆきずりに出会った」というところ。

嘲笑ってる、嘲笑ってる。
左手、というところがまた、陰でこっそり指差して笑っている感じがする。


最後の
「それが本当に起こったら 、心は…..」
ではリタルダンドして、変ト長調なんか使って寄り添うふりしながら、右手でまた大っぴらにアクセント。

そして極め付けが「まっぷたつ」で、しれっとア・テンポ。
お前の戯言なんて聞いちゃいねえ、って感じ。

書いてて辛くなってきた。うわあ。


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