ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #14 同じところをぐるぐるぐる
ト短調、8分の3拍子 Nicht zu rasch 急ぎすぎず。
前の曲の下属調の下属調。
私はこの曲はト短調で歌うので、前の曲は(私は)嬰ヘ短調なので調の関係は遠い。でもこう、なんか半音ずりあがる無理やり感もアリかと思う。
詩の順番が前の曲と入れ替わっています。
キッツイですね。彼女、結婚しちゃった。その祝いの踊りと音楽に出くわしてしまった詩人。出くわしたというより、行きたくないのに足が勝手にそっちに向かってしまったのでしょうか。行くなよ。
シューマンはこれと似た詩に作曲しています。詩人の恋と同じ、1840年、歌曲の年の作品。
アンデルセンの詩(ドイツ語訳シャミッソー)のDer Spielmann、「楽師」
ここでは楽師、その人が失恋した男。その男が好きだった女の結婚の宴で音楽を奏でている。これもキッツイ。ヘルマン プライで聴いてみましょう。
詩人の恋に話を戻すと、こちらはこの「楽師」よりさらに救いのない音楽がつけられている。どこまでいっても堂々巡り。このピアノだけの演奏を聴くとよくお分かりいただけると思う。出口を見つけたと思ったらまた同じ場所にいた。延々と同じ音型が繰り返される。こんな悪夢、ありますよね。
ちなみにユダヤ人の結婚式のダンスとはこんな感じ。輪になってますね(笑)ハイネはユダヤ人です。
そしてシャルマイはこんな楽器。オーボエの先祖。動画の中では2000年以上前に中近東で作られ、ルネサンス後期にヨーロッパに伝わって全盛期を迎えたものだと説明されています。
この楽器、東に伝わるとチャルメラになりました。シャルマイと、チャルメラ、言葉も似てるでしょ?山田耕筰の「待ちぼうけ」のあの特徴的な前奏は彼が中国で聞いた物売りのチャルメラのメロディからとられています。
そして結婚式の騒ぎから遠ざかる詩人。これ見よがしにさらに盛り上がる後奏。でもそれもやがて聴こえなくなって.....彼は力なくへたりこむ。その和音は明るいニ長調。シューマンの皮肉でしょうか。
マーラーの「魚に説教するパドゥアの聖アントニウス」は後奏の最後が、このシューマンとまるきり同じ。
後奏だけでなく、ピアノパートの延々と続く八分音符とか、よく似ています。マーラーはこの曲を意識したに違いありません。
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