【MeWSS論文コラム】 学会発表からのケースレポート論文 その2

 症例報告とは、世にも珍しい症例にたまたま当たらないと書けない論文だというイメージを持っていませんか?確かに一部の高IF雑誌には、素人が読んでも小説のように面白いケースレポートがあったりしますが、多くの皆さんはそういうものを目指しているわけではないと思います。
 前回もご紹介した、二つのケースレポート専門誌のAuthor guidelineの一部を抜粋してご紹介します。

Clinical Case ReportsのAuthor Guidelineに以下のように書いてありました。

Our case reports do not have to be novel, unusual, or challenging—nor do they have to be surprising. They simply have to convey an important teaching point about a common or important clinical scenario. Scenarios involving the appropriate use of a clinical guideline or systematic review are particularly important to us.
(中略)
…most healthcare professionals spend most of their time treating common problems, and those common clinical problems present excellent opportunities to illustrate and disseminate best practice. Consequently, compared with teaching points from rare or unusual situations, our common best practice messages have the potential to optimise the care of many more patients globally – and that is why we are excited about them.

https://onlinelibrary.wiley.com/page/journal/20500904/homepage/forauthors.html#editorial

BMJ Case Reportsも言っていることはほぼ同様です。
We publish both common and rare cases as long as there is something new to learn from these and clinical information is presented in a manner that optimises learning.


ジャーナルや読者が求めているのは、一人の臨床医が生涯出会うかどうかの珍しい病気のお話ではなく、普段からよく診る病気についてのベストプラクティスや、それを最適化するのに必要な新しい情報だといっています。治療の過程で、ガイドラインに何かをプラスしたとか、あるいは参考となる教科書や論文が見つからなかったけど工夫してうまくいったということであれば、その症例は論文になるのではないでしょうか?
 ケースレポートは長い文章を書く必要はありませんし、個人的には学会ポスターを作成するよりも簡単な作業だと思っていますが、これは好みの問題でもあるでしょう。いずれにしても、論文にも慣れることが重要ですので、まずは試しに書いてみてはいかがでしょう?
 せっかくですので、この二つのケースレポート専門誌について情報をまとめておきます。

1. BMJ Case Reports
 この雑誌のいいところは、原稿のフォーマットが提供されているところです。他の雑誌に投稿するときにも、このフォーマットのTIPSが利用できそうです。特にDiscussionに何を書くか、何をしてはいけないか、懇切丁寧に書かれています。
 Decisionまでの期間の中央値は73日、アクセプト率が39%と公表されています。一つの分野でひと月に掲載されている論文は10前後のようです。受け付けないものとしては、新薬の有効性や安全性を評価したもの、複数症例(ケースシリーズ)と示されています。
 フルオープンアクセスではないのが残念です。

2. Clinical Case Reports
 こちらはオープンアクセスジャーナルです。Decisionまでの期間の中央値は33日、アクセプト率が72%と公表されています。
アクセプト率が7割とはかなり魅力的です。BMJとは逆にこちらはフリーフォーマットで、基本的な構成に則っていればスタイルは問わないことになっています(Wiley Journalのポリシー)。原稿の長さはReasonable length (1000-3000Words)となっているだけなので、Discussionをたくさん書きたい場合などには使いやすいと思いますが、書き慣れていない日本の方は逆に戸惑ってしまうこともあるかもしれません。
 こういう場合は、最初に論文を書く時に自分用のフォーマットを作ってしまいましょう。ガイドラインCAREのチェックリストを参考にしてもいいですし、上に挙げたBMJのフォーマットを利用しても、また、ご自分で読みやすいと思ったケースレポートの構成をもとにしてもいいと思います。

 ここで注意点を一つ。他の論文の「構成」を参考にするのはいいですが、決して「文章」を参考にはしないでください。一昔前の論文の書き方ガイドには、好きな文章を真似しましょう、みたいに書かれたものが多くみられましたが、剽窃チェックが標準になっている今の時代、文章をコピーしていると思われると、書き直しを指示されたり、最悪の場合レビューに不利になったりします。ただでさえ、論文の英語は似たような表現になりがちです。剽窃していると思われるよりは、多少辿々しくても日本人が書いた英語の方が、論文としては好印象です。

 前回も書きましたが、日本の症例を発表するのなら、日本の学会の英文誌が適当であることが多いでしょう。今後発表したいと考えている他の論文のことも考えて、長くお付き合いできそうな雑誌を見つけてみてください。投稿雑誌を見つけるポイントは、InstructionsやGuideline for authorsを熟読すること。その次にその雑誌に掲載されている似たような論文の傾向を見てみること。分からないところがあれば編集部に問い合わせてもいいです。日本の学会の場合は日本語でやりとりできるはずですし(外資系出版社に委託していても、直接の担当は日本人であることが多いです)、多くの場合とても親切に対応してくれます。多少分からないところがあっても、いっそのこと投稿してしまう、というのも手です。その場合は、投稿からFirst decisionまでの時間がどのくらいか確認しましょう。学会誌の中にはかなり時間がかかるところがあります。