【MeWSS論文コラム】 査読者のこと

 査読してほしい、もしくはして欲しくない人の名前を、投稿時に書くように求めている医学ジャーナルはたくさんあります。以前は、同じ組織(大学や研究所など)に所属している人は推薦できないという程度で、比較的緩かったのですが、最近は同じ国の人はNGと言われることが多くなりました。高インパクトファクター(IF)雑誌には、査読者推薦は必要ないものが多いです。こういう雑誌はエディターが社員でかつ専門家(分野別というよりも雑誌のポリシーについての専門)なので、エディターの一次スクリーニングを厳しくして、限られた数を査読者に回すことにしているのです。
 同じ国、つまり日本人はダメということは、お世話になった先生や国内の学会等で知り合った先生方には査読を頼めないということになります。
 査読者選びは実はとても大切です。全く知らない人を推薦した場合、大抵の場合はみなさん忙しいので、断られる可能性が高くなります。著者推薦の査読者全員に断られると、エディターが新たに査読者を探さなくてはならず、余分に時間がかかります。また、論文でよくみるビッグネームを適当に推薦してしまうと、幸い受けてもらったとしても、査読対応に苦労することもしばしば起こります。
 もし国際学会に参加される機会があるのなら、ご自身のポスターに来てくださった人たちだけでなく、積極的に他の発表者に声をかけて、気が合いそうな人と知り合いになっておくといいです。メールアドレスを交換して、論文投稿する際に「誰かいい査読者知らない?」と訊いてみることもできます。お互いに自国外の情報網はとても貴重です。
 そういう知り合いや心当たりがない中で国際ジャーナルに投稿する場合は、ご自身と似た方向で研究している論文の筆頭著者を調べてみてください。若手から中堅くらいでそれなりに論文発表しているような人がお薦めです。しっかり見てくれて、有意義なコメントをくれる可能性が高いです。実験室レベルの基礎研究では、こういった人たちはライバル関係になるので逆に意地悪されることもあるのですが、臨床の場合は親切な方が多い印象です。
  
 さて、査読者選びはジャーナルにとっても頭が痛い問題です。商業ベースのジャーナルは経営的に、投稿から査読コメント完了までの時間、あるいは掲載までの時間を短くすることを常に求められており、多くのジャーナルエディターは、この査読者探しをとてもストレスに感じているようです。

 ユニークな取り組みをしてしているCUREUSをご紹介しましょう。

CUREUSはケースレポートの採択率が比較的高いので有名ですが、総説を含めて大体全ての種類の論文を対象としているようです。フルオープンアクセスでありながら掲載料は無料で、2024年6月の公開データによれば、5年IFは1.2、採択率は52%です。驚異的なのは投稿から掲載までの日数で、中央値が26日という数字を公開しています。
 CUREUSに投稿するには、著者は査読者を5名推薦しなくてはなりません。しかしこの推薦の5名は、査読完了の条件には入らないのです。CUREUSは独自に6名の査読者(公式査読者と仮に名前をつけます)を指名し、合計11名の査読者に査読依頼を出します。公式査読者のうち2名から完全な査読コメントが返ってくることが、査読完了の条件となっています。査読開始後、CUREUSは2日ごとに追加で3名の公式査読者を指名し、査読完了の条件を満たすまで、依頼を送り続けます。こうすることで短期間でのdecision、掲載にいたる仕組みとなっています。これほど数多くの査読者に依頼を出す仕組みを作らなければならなかったということは、いかに査読者獲得が大変かを物語っていますよね。
 掲載までの障壁を極力低くし多くの論文を世に公開するという考え方は、プレプリントと似通っています。査読なしの研究論文を垂れ流してもいいのか、という議論がプレプリントにはあり、その問題に一つの解決をつけたものかもしれません。ただ個人的には議論したい点はありますので、これについてはまた別の機会に論じてみたいと思います。