【MeWSS論文コラム】 インフォームドコンセントのこと

 臨床研究を実施するにあたって、患者さんやその家族などに研究への参加をお願いします。参加者が研究の内容を十分理解した上で同意したと公式に証明するために、インフォームドコンセントが必要になります。所属施設などで提供されるフォーマットに沿って書面を作成することが多いでしょう。
 元々のフォーマットのベースは治療介入が伴う研究であり、例えば以下のような構成になっています。

  1. 初めに:この研究への参加はボランティアであること、わからないことがあれば担当者に質問してほしいこと、必要であれば家族ともよく相談してほしいことなど。

  2. 研究目的

  3. 研究方法

  4. 研究期間

  5. 研究参加に伴う不利益やリスク

  6. あるかもしれない利益

  7. 情報保護:個人情報、健康情報など、これらの情報を共有するメンバー(組織)

  8. 参加費用の有無

  9. 補償

  10. 研究費

  11. 問い合わせ先

 新薬の治験では、患者さんやその家族に対して研究参加に伴うリスクや危険性をきちんと説明することは当然で、そのことを十分理解したと確認できた上で参加をお願いすることに疑問を持つ方はいないと思います。
 しかし介入を伴わない、例えば患者満足度調査のような研究ではどうでしょう?質問票に答えを書く時間をほんの少しもらう程度なんだし、ちょっと協力してよ、程度の手軽さでインフォームドコンセントを取得しようとしていませんか?

 仕事に関係ない個人的な経験ですが、最近私はある疾患の患者家族として、担当医からアンケートへの回答を求められました。その質問票には「○○の患者さんのご家族を対象にした質問紙調査へのご協力のお願い」と冒頭に書かれたA4の一枚紙が添えられていました。みたところ、それがインフォームドコンセント用紙だったようです。確かに、1、2、5、6、7、11にあたる項目がその順番で並んでいました。しかし、残念ながら私はこの紙に書かれてある内容をもって同意することはできず、質問に回答はしましたが、同意するのチェックボックスにはサインできませんでした。
 
 質問には、家族である「私」の要介護度、生活の質、教育レベル、そして年収などかなり細かい内容が含まれていました。なぜ家族の個人情報がここまで必要なのかな、と疑問に思いましたが、研究の目的やその方法に納得できれば問題なく同意して回答したでしょう。しかし書かれてあった研究目的は5行、「○○の患者さんのご家族であるあなたが毎日をどのように過ごされ、日常生活や健康状態、患者さんとのかかわりについてどのように感じておられるかについて、質問紙を用いてお伺いします。この調査を通じて○○が患者さんとそのご家族の生活に与える影響や課題を明らかにし、みなさんと一緒に解決策を考えていきたいと思います。(全文)」だけでした。
 前半を読むと、その目的は「患者家族が患者との関わりに関連して生活や気持ちが普段と変わったかどうか」を知りたいのか?と想像しましたが、病気になる前と今との比較に関する質問はありませんでした。また、「どのように感じておられるか」についての質問もほとんどなかったと記憶しています。一生懸命想像してみると、患者家族の「私」の生活・教育レベルを問うことで、患者のサポートが十分かどうかを確かめたい、ということなのかもしれません。しかし、目的の後半には「患者さんとそのご家族の生活に与える影響や課題を明らかにし」とありました。私が受け取った質問への回答から課題が明らかになるのか理解するのは困難でした。 
 結論から言うと、この説明文では研究目的を理解することができなかったのです。私の想像力が不足していることは申し訳ないですし、患者への質問票を見ればもっと考えられたかもしれません。しかし想像力を発揮してもらって研究協力を依頼するのは、なんかちょっと違うと思います。
 もうひとつ、研究方法についても何も言及されていませんでした。
問い合わせ先は住所と電話番号だけで、多忙であると想像される臨床医に「研究プロトコールを見せてください」と電話する人はいないでしょう。
 誌面の都合で研究目的や方法を書くことができなかったのなら、せめて臨床試験登録IDを1行追加してくれればと思いました。UMINとclinicaltrials.govを自分で検索してみましたが、それらしいものは見つかりませんでした。

 治療介入試験と違って、研究の内容を細かく知られるとバイアスがかかるという心配はあるでしょう。でもそれとインフォームドコンセントとは違います。研究参加を依頼する前に相手に理解してもらうというのがインフォームドコンセントであり、研究実施者には十分な説明をする責任があるのです。
 
 対象は200人の患者さんとその家族なので400人くらいでしょうか。患者満足度に関する研究は重要です。どういうふうにまとめて発表されるのか、楽しみに待っていたいと思います。