【MeWSS論文コラム】 rejectからの進め方

 Rejectというのは、論文アクセプトまでのプロセスの一つでしかありません。査読コメントをもらってのrejectからは得るものがたくさんありますので、目一杯有効活用して進んでいきましょう。

 まずは、rejectメールが来てもあまりガッカリしすぎないでください。全く落ち込まないのは無理な話ですが、心が折れてやる気がなくなってしまったら今までしてきたことが水の泡になってしまいます。これまで費やした時間や苦労を思い出して、1週間くらい心を休めたら、再び元気出して次に向けて動き出してください。rejectしてきた査読者のコメントは読みたくないという気持ちはよく分かります。けれども、次の投稿雑誌を決めるためにも査読者が何を問題としていたのかが重要ですので、どこかのタイミングでじっくり読んでみましょう。
 いい論文に必要な全ては査読者が教えてくれます。査読者のことを、厳しいコメントを冷たく返してくる人たちで苦手、というイメージをお持ちであれば、ぜひ考え直していただきたいです。実際冷たい査読者も皆無ではありませんが、次にあたる人はきっと違うので楽しみにしてください。
初めて論文投稿してそのままアクセプトになるという著者は、それほど多くはないでしょう。何度も投稿してその度に査読者からコメントをもらうことで、論文はどんどん良いものになっていくのです。だからこそ、良いコメントを引き出すために、適切な雑誌にそれなりのクオリティーの論文を投稿することが重要なのです。

 近いうちにこのコラムで投稿雑誌の選び方について書こうと思いますが、いつも投稿する雑誌の1番目、2番目までを決めておくことが大切です。査読者のコメントの中には、研究に関するものや論文一般に適用可能なもの以外に、その雑誌特有の査読基準に基づくものがあります。その基準はエディターと査読者以外には公表されていないのですが、何度か同じ雑誌に投稿しコメントをもらうと、大体その傾向が分かってきます。これが分かれば、今お持ちの研究がこの雑誌の基準に沿っているかどうかの判断がつくようになり、アクセプトまでの道のりがより楽なものになっていくのです。おなじみの雑誌に投稿し続ける過程で、たまにとてもいいデザインの研究に出会った時、もっと高いIFの雑誌に挑戦することもあり得ます。
 1番目には、ご自身が普段よく読む雑誌を選ぶ方が多いです。ただその雑誌の掲載論文が今の研究環境とは合わない場合もあります。そういう場合は、自分がよく採用するデザインに近い研究が掲載されている雑誌を探しておくといいでしょう。
 私はメディカルライターとして、アクセプトになりそうな最も高いIFの雑誌を選ぶのが割と得意です。判断材料を得るために最初に見るべきは、その雑誌のAims and Scopeと過去に掲載された論文ですが、その雑誌や似たような位置付けの雑誌に何度も投稿して、査読コメントをもらってきた経験が役立っているようです。

 投稿して1−3日程度ですぐに来るエディターからの「unfortunatelyメール」はdesk rejectといって、査読者にさえ回してもらえず、ボタンをポチッとしただけの自動送信メールでしかありません。このタイプのrejectは何も得るものがなく時間がもったいないので、できる限り避けたいところです。
 とにかくなんでもいいからIF(インパクトファクター)の高い雑誌に投稿したい、というご要望は少なくありません。わたしたちのようなメディカルライターに業務を委託しているのなら、一昼夜で帰ってくるdesk rejectは時間のロスがなくていいとも言えますが、ご自身で書かれる場合は雑誌のスタイルがそれぞれ違うので、作業の手間が場合によっては膨大にかかります。次に本命の雑誌に投稿してもうまくいく保証は何もなく、査読コメントがないrejectはただのnice tryでしかないという覚悟を持っていただきたいです。

 昨今姉妹誌にauto-transferしますよ、というエディターからのメッセージがついているrejectメールを受け取ることが多くなりました。大抵の場合「48時間以内に決めるように」みたいに急かせていますが、慌てて言う通りにする必要はありません。「○日まで時間ください」などと一報入れておいて、共著者と一緒にじっくり考えてください。
判断のポイントは、先に決めておいた2番目の雑誌と比べて、推薦された姉妹誌をどう評価するかです。なんでもいいから早く論文公開したいということなら、auto-transferが最も早い選択肢になると思います。元の雑誌が高IFの雑誌であり、新しく創刊されたオープンアクセス姉妹誌がauto-transfer先という場合なら、将来的に高いIFが付く可能性があるので投稿した方がいいという考え方もあります。ただし、auto-transferと言っても自動的にアクセプトされるわけではありません。rejectメールについていた査読コメント全てに対応することが必須であるなどの条件が付いていると思いますので、査読コメントをよく読んで、全部に対応可能かどうかも確認してから判断しましょう。
 こういった事情がないのなら、元々決めた2番目の雑誌に進むという方針を崩さないことが基本です。ここで改めて査読コメントを読んでみてください。そのいくつか(もしくは全部)に対応したら2番目に行けそうですか?IFや評判などで1番目、2番目を決めたけれども、実は掲載の基準は両者で違いはなかった、ということもよくあります。例えば1番目の雑誌でrejectの主な理由がサンプルサイズであるなら、2番目の雑誌でその規模の研究論文が掲載されているかどうかを確認しましょう。フォローアップ期間についても、2年以上と基準を決めている雑誌もありますので、要確認事項です。
 このように、主要な研究デザインが2番目の雑誌でも適合していないようなら、改めて他の雑誌を探しましょう。研究の目的がクリアで読者が納得しやすいものであれば、きっとどこかに掲載してくれる雑誌はあります。

 一度他の雑誌に投稿してrejectだったという事実を次に別の雑誌に投稿する時に伝えるか?という問題があります。実はこういう質問受けることは稀で、多くの皆さんは普通に書かずに投稿しているようです。これを書くと瑕疵が付いたような印象を与えて嫌だ、という理由が多いです。
書く義務はありませんし、書かなかったことで大きく不利になることはありません。しかしいろいろな医学雑誌のエディターと話をすると、「カバーレターに書くことをお勧めする」という声をよく聞きます。その理由は、雑誌を変えても結局は同じ査読者に回ってしまうことが結構多いから、ということのようです。一部の総説専門誌などを除いて、ほとんどの査読者はボランティアです。自身の業務で忙しい中、ただ掲載可否だけを結論するのではなく、数多くのチェック項目を埋め、たくさんのアドバイスを無報酬でコメントしてくれる、ある特定の分野の専門家を探すのは、それほど簡単なことではありません。「ん?これ最近読んだな」という原稿が再び回ってきた時に、初めて投稿したような顔をしている場合と、以前投稿してrejectだったが有益な査読コメントには対応して原稿を修正した、とカバーレターに書いたものとでは、受け取った時の気分はだいぶ違うでしょう。必要以上に査読者の気持ちに忖度する必要はありませんが、今後も同じ人に論文原稿が回る可能性も低くなく、いいコメントをしてくれる査読者にいい印象を与えておくことはメリットがあることは間違いないでしょう。

 査読者やエディターにもモラルがあります。一般的に、それなりの数の査読コメント全てに対し、対応もしくはポジティブに回答しているのなら、修正後の論文をrejectするのはモラルに反していると考えられます。ただ、そういう配慮をしてくれない査読者や編集者がいるのも事実で、私自身2回(それぞれ30−40のコメントがあった)の査読対応を経て最終的にrejectになった、という悲惨な経験があります。論文掲載の可否を決定するのは編集者なのですが、この例の場合は2回の査読者がそれぞれ異なっていたことから、編集者の方で掲載したくないという事情があったのかもしれません。実は事情があったらしい、ということも後になって判明しており、投稿雑誌を選ぶにはもっと色々調べる必要があるのだ、とここでまた学びました。この雑誌は専門誌の中でも最もIFが高い部類に属し、評判も非常に高かったので、このテーマに関しては要注意という教訓を得ただけで、その後も別の論文を投稿することもありました。しかしきちんと査読対応したのにrejectするのは、いい編集ポリシーを持っているとは言い難いので、その事情についてエディターが何を書いてきたかも考慮して、今後の投稿を考え直した方がいいかもしれません。