不毛会議

不毛会議 #196

「お前もそう思ったか?ガハハハ」

アズナブルと韓国へ出張に行く機会が多かった。

韓国は日本のアパレルバブル期に大きな役割を果たした国だ。

あの109ブームは少量で高速で生産できる生地背景と小規模工場の乱立の下支えのおかげだし、日韓を公式、非公式に循環するインフラが生産体制をより高速化させた。

そんな国にアズナブルとどれだけ渡ったかは数え切れないほどだが、この日は1月だったか、マイナス10度以下の極寒のソウルであった。

深夜、夜のマーケットをリサーチに行く途中の出来事であった。巨大なナイトマーケットは百貨店が乱立する中にある。全国、アジアからこの服飾衣料雑貨専門の巨大市場に集まってくる。

そんな百貨店の外。そう路上でテントや屋台、テーブルをセッティングする無数の人々。セットしたらニセモノの靴や財布、カバンや服を陳列し売り出すのだ。

この日はとにかく寒く、おまけに雪までしんしんと降り出してきた。そこを歩くアズナブルと私。行き交うバイヤー、出店準備する商人たちがひしめく騒然とした路上を歩いている最中、いきなり振り向き行ったのがこの言葉。

そう、全く同じことを考えていたのだった。

この極寒の中、路上の許可も何も得ていない場所で「何者かになるために」藁一本からでも金に変えようと”行動”を起こす人々。

ここに敬意と、言葉にできない情感が起こっていた。「そうだ、人間はやろうと思えばどんな場所でも、何もなくても事を起こすことはできるんだ」と初心に帰る瞬間。これは”生きる”という意味を捉え直す感じだったともう。その気配をアズナブルは感じたのだろう。

この日、なぜかアズナブルを少しだけ理解できた気がした。

理解を超えるまであと4日。

つづく


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