第2回俺からの虹色レターでifの世界の拓海に触れた話

デレステのコミュによるとプロデューサーと拓海の出会いは、次のようなものである。

「路上で喧嘩をしていたヤンキー拓海が怪我をしているのを見て、手当てするために無理やり事務所に引っ張り込み、そこでアイドルとしてスカウトする」

このアイドルコミュを見るたびに、向井拓海担当プロデューサーとして思うことがある。

俺がこんなことできるわけないだろ。

路上でヤンキーが喧嘩をしていたら近づきもしないし、遠巻きに見ていて絡まれたら嫌だから視線を向けることすらしない。
よしんばそのヤンキーが怪我をしていたからといって世話を焼いて手当てのために事務所に連れていくなんてわけがないし、そんな怖い人を目の当たりにしながらアイドルとしてスカウトしようだなんてことができるわけがない。

現状の話になってしまうが、俺は今でこそ拓海とはかなり仲がいい。
俺が臆面もなく拓海のことが好きだと言えばあいつは顔を真っ赤にして殴りかかってくるし、俺がかなりいやらしい布面積の少ない衣装を着せようとすれば本気で怒って腰の入った右ストレートを喰らわしてくるし、あいつはあいつで俺の前でぶっちを愛でる際にそこまで警戒している様子もないし、バイクの後ろに乗せてもらってどこかの現場に向かったり適当にツーリングしたりとかは日常茶飯事だ。

そう。今はいいのだ。今は。

だが、俺と拓海の最大の問題として、肝心の「始まりの1ページ」だけがどうしてもうまく描けない。……思い出せない。

俺という臆病で人見知りな人間にとって、ヤンキーの拓海と出会うというストーリーはあまりにもハードルが高すぎるのだ。
アイドルになってからの彼女との絆を深めるエピソードはいくらでも思い浮かぶし思い出せるけれど、肝心の、絆がゼロの状態の拓海とだけは俺は向き合うことができない。
だってヤンキーって怖いじゃない? いきなり殴ってくる恐れがあるし。目をつけられたら集団で囲んでくるし。勝ち目ないし。
ヤンキーが拓海だと分かってる今だからいいけれど、どこの誰だか知らない状態のヤンキーにガンガン飛び込んでいくような度胸は、それこそ内匠Pくらいのヤツでないと難しい。
そんなわけで俺の事務所設定としては、俺と拓海の出会いというところは多少曖昧にぼかされており、「事務所にスカウト専任のヤツがいて、そいつが事務所に連れてきた拓海を俺が正気なプロデューサーとして引き継いだ」という感じのものとして自分で自分を納得させている部分がある。
とにかくプロデューサーとしての俺は拓海との出会いの部分を突かれると少し弱いとことがある、ということをまず最初に言っておきたかった。

で。
じゃあそれでは逆に「俺と拓海が出会うのに最も自然な流れ」っていうのは何かなって考えた時に、それはもう自分がプロデューサーという立場を捨てるしかないと思うわけで。
そうなると「俺と拓海は高校の同級生だった」という始まりがいちばん自分にとって飲み込みやすい設定だと、薄っすらとした感覚でではあるけれど思っていた。

そんな薄ぼんやりとしたPではない自分と拓海の妄想に、確固たるかたちを与えたきっかけというものが今年の初夏にあった。

これはしょうゆさんという絵描きの方が投稿していた拓海のイラストで、「クラスメイトの視点から見た拓海」が描かれている。

これをパッと見た時に自分が思ったのは「俺も拓海のクラスメイトになって、拓海と一緒に学生生活を送りたかったな……」という想い。
隣の席で授業を受けたかったし、水泳の授業を覗き見したかったし、体育祭で一緒の競技に出たりしたかったし、文化祭でおんなじクラスティーシャツ着たかった。
そう。
この時点で、今回の、「第2回俺からの虹色レター」に送る音源のきっかけのようなものが萌芽していたのである。


さて。
拓海との同級生の俺という新たな希望を得てから、2ヶ月ほど経過して、「第2回俺からの虹色レター」の開催が告知された。

半年前に開催された虹色レターでは、ありがたくも大トリの名誉をいただくこととなった。
そんなわけで「2回連続トリにはならないだろうな」というのもあって、今回はある程度気を抜いてというか、自分のやりたいように送りたい音源を送ろうという思いがあった(第1回も送りたいだけの音源を送ったらトリになっただけなんだけど)。

最初に思い浮かんだ案としては「レイザーラモンRP」というネタがあった。
これは同じく半年前に開催されていた「俺達の少女A」というアイドルプレゼン企画に送った「レイザーラモンHP」の音源へのセルフカバー案である。
レイザーラモンHP(星野プロデューサー)に対し、RP(流人プロデューサー)が成立することに気づいたので、かなり有力な案だった。

作戦はこうだ。
HPの時と同様にリッキー・マーティンの「Livin' La Vida Loca」を流しつつ登場し「限界感情フォフォフォフォ〜!」と叫ぶ。
そのあとは「純情Midnight伝説」にのせて拓海あるあるを歌うというものだ。

ハンパなあるある言わねえ どんな時でもガチが信条さ
拓海のあるある! 今すぐ言うよ
ある! ある! ある! 今すぐ言いたい〜

拓海あるある 言いたい 今すぐあるある言いたいよ
拓海のあるある たくさんあるよ だから今すぐ言いたい

拓海あるある言うから 今すぐこの場でかますから
あるあるは度胸 不器用なりに 純なあるある見せてやるから

煌めく拓海あるある 浮かぶあるある! あるある! 言いたいんだ
研ぎ澄ませたあるあるを 解き放つのさ拓海に

拓海あるある言いたい 拓海のあるある言いたいよ
さあ あるある今すぐ言いたい 風を切ったその先であるある言おうぜ

さみしがりの天使たちが 今日もまた
きわどいライン攻め抜く 拓海のあるある燃やして・・・

拓海あるある言いたい 今すぐあるある言いたいよ
もう全開バリバリあるある 拓海のあるある楽しもうぜ

拓海あるある言いたい 拓海のあるある言いたいよ
さあ あるある今すぐ言いたい 風に乗ってその先であるある言おうぜ

(あるあるいくよー!)

OiOiOi そうさ拓海は AiAiAi アイス食ってる時
BoomBoomBoom 胸の上 とかに ぽろぽろアイスを落としたりしがち


と、歌詞まで考えたはいいもののボツ案に。

理由は自分の音源編集環境だとうまくカラオケ音源と自分の歌声を重ね合わせるのができなかったから。
あと自分は普通に音痴なので、カラオケとかならともかくとしてこういう電波に乗せて歌声を届けるのはちょっと恥ずかしいなと思ったから。
この歌詞はせっかく作ったので自粛が開けたらどっかのタイミングでアイマスカラオケとかやった時とかに歌おうと思う。

あとHPは少女Aのあとがきでもう二度とやんないと思いますと言ったように、RPもここで供養できたんでたぶん音源としては次以降もどこにもやんないと思う。

で。
まあそんなこんなでRP案をボツにしてさあどうしようかと思ったところで、先の「俺は拓海と同級生になりたかった」という想いを思い出して、今回の音源に着手したのである。

もともとの文章のボリュームは4分半ほどあって(これでもかなり削って初稿にしていた)、そこからさらに1分半削ったのが投稿音源である。

星野拓海_星野流人

(ガチャリコス)
ただいま、拓海。
おお、玄関まで出迎えてくれるなんて珍しいじゃないか。
なに、今日は特別な日だからって?
いや、忘れちゃいないよ。
結婚記念日、だろ?

懐かしいよなあ俺たちが出会ったのって……高校生の頃だったよな。
あのとき俺たちは同じクラスでさ。
学校の近くに猫が捨てられてるのを偶然ふたりで見つけて、それで仲良くなったんだよな。

結局拓海の家では飼えないからってんでうちで引き取ったんだけど、それ以来お前がたびたび家に来るようになってさ。
俺たちはぶっちをきっかけにして一緒に過ごす時間が増えて、一緒に勉強するようになって、一緒に出かけたりするようにもなって……ふたりでおんなじ大学受かって、ふたりで手をつないで入学式行ったよな。

付き合おうって先に言ったのはどっちだったっけ。
俺? いやいや、拓海の方だろ。お前だって。俺じゃないよ。
……まあ、そんなふうにして付き合い始めて、大学卒業して、就職して、落ち着いた頃に結婚して……

そんな俺と拓海の……

いや、そうじゃないだろ。
そうじゃない。

なあ、拓海。聞いてくれ。
俺が愛した向井拓海は、高校の同級生の向井拓海じゃないんだ。

俺が愛した向井拓海は、俺がプロデューサーとして出会った、元暴走族のヘッドで、素直じゃなくて、手を握るのにもひと騒動な、馬鹿で騒がしくて、人の金で焼き肉食うのが大好きな拓海なんだよ。

俺は拓海の学校生活について、ほとんど何も知らない。
でも大好きな拓海のことだから、俺も一緒に学生生活を送りたかった、なんて妄想してしまったんだよな。
そうしたら、本当に俺と拓海が学生生活を送っていた、ifの世界線に迷い込んじまったみたいだ。

いいよな、一緒に学生生活。
俺も拓海と手をつないで学校行ったりしたかったな。

でも、もう帰らなくちゃいけない。
俺が愛したのは、あの、ヤンキーの向井拓海だから。

あいつの元に、帰らなくちゃいけない。

なあ、拓海。
俺の愛してる拓海は、今はアイドルをやってるんだぜ。
俺が拓海を可愛く着飾らせて、まばゆいステージの上に送り出しているんだ。

それはきっと……よくある学校生活のひとコマひとコマにも負けない、価値のある、毎日だと思うんだ。

……じゃあな。
俺の同級生だった世界での、拓海。

……ああ、そうだ。ひとつだけ。
俺と結婚した拓海は、そんな髪型にするんだな。
短いのもかわいいよ、拓海。


これが決定稿。
第1回の時は「こんなラブレターを衆目に晒したら拓海が恥ずかしがって怒るから」と音源はおろか原稿も載せなかったのだけれど、今回は拓海に宛てた手紙といってもこれは俺の世界にいる「向井拓海」に向けたものではなくifの世界の「拓海」に向けたものであるので、載せてしまってもいいんじゃないかなと。

前半パートには、せっかくなのでifの世界での拓海との思い出を詰め込ませてもらった。
この世界での俺と拓海は高校の同級生で(ふたりとも神奈川県出身なのと、俺はごく普通の公立校出身なのでほとんど違和感は無い)、ヤンキーになる前の拓海と出会っている。
拓海が具体的にどの年齢からヤンキーになったのかは分からないけれど、とにかくこの世界線においては高校1年生(デレマス時空よりも2年前)の時点では「ヤンキーに憧れを持っていて、悪い仲間のところに少しずつ出入りしつつあった頃」くらいの環境だと思ってほしい。
「向井さんって、ヤンキーの集まりに顔だしてるらしいよ」みたいな噂がひっそりと流れて拓海が校内で浮きかけていた高校1年生の梅雨の頃、俺と拓海は通学路で偶然出会う。
拓海は通学路に捨てられていた猫を心配そうに拾い上げていて、そこに同級生である俺が偶然通りかかった。
俺と拓海は同じクラスで(拓海の方は俺がクラスメイトであることは覚えてなかった)、さすがにクラスメイトが困ってるところを無視するのもなと思い声をかけると、なんやかんやのやりとりがあって今日のところは一旦俺のうちにこの猫を連れ帰るということに決まった。雨も降ってるし放っておけないけど、拓海の家はペット禁止で連れ込むことができなくて、じゃあ仕方がないからうちに連れてくしかないだろ、という消去法の可決である。
こうしてなんと拓海は俺の家にやってくる。襖で区切られた和室で俺と拓海はびしょ濡れの猫をタオルで乾かして、道中に買ったキャットフードを与えて、夜がふける前に拓海は帰っていった。
俺は両親に猫を飼うことを説得するのと、「あの向井さんはたまたま一緒に猫を拾った同級生で別にどういう関係性でもない」みたいな言い訳をする。
その後、拓海は「自分のせいで星野に猫を世話させることになっちまった」という若干の負い目からか、それとも単に自宅で飼うことのできない猫と堂々触れ合うことのできる嬉しさからか度々うちに訪ねてくることとなる。
あんまりうちに呼びすぎるのもどうかなと気恥ずかしさを感じた俺は、そのうち家ではなく拓海とぶっちを連れて公園とかに行くようになったりして。
逆に拓海の両親が家を空けてるタイミングで、こっそりと彼女の部屋にぶっちを連れていってやるようなこともあったりして。
そんなふうに俺と(ぶっちと)遊ぶ機会が激増した拓海はヤンキーの集まりに顔を出す時間が減ってしまい、結果的に彼女はヤンキーに憧れを持つだけでヤンキーになることはなくなる。バイクは18歳になった時に免許を取るけど。
(ヤンキーにならなかった拓海は当然街で内匠スカウトに声をかけられることもなく、アイドルにはならない)

さすがに拓海と一緒に長い時間を過ごしていると、「そろそろテストも近いし勉強した方がいいよ。一緒に図書館に行って勉強会でもしようか?」「体育祭の時一緒にお昼食べよう」「来週文化祭一緒にまわらない?」みたいなことをごく自然に言うようにもなる。俺が言うこともあったけれど、こちらに対して気安さを覚えたのか拓海の方から言うことも多かった。
俺と拓海は高校生の頃は特に付き合ってるとかではなかったけれど、周囲からは明らかに「あのふたりは・・・」みたいな目で見られていたと思うし、何も言ってないのに修学旅行の班割りは当然のように俺と拓海は同じ班にされてた。

そうしてヤンキーでない拓海は俺と一緒にそれなりに勉強して、とはいえ俺も拓海もそんなに頭がいいわけではないので、ふたりしてまあまあくらいの大学に受かれたらいいねみたいなレベルの低い目標を設定して、ふたりしてまあそうねくらいの大学に入学することになる。ふたりで同じ大学に合格をもらった、という時点で快挙なのでふたりで喜んだ。

大学の入学式にはふたりで一緒に行った。
大学の敷地に入って入学式会場に向かい道中にまっすぐ伸びる綺麗な桜並木があり、そこでなんとはなしにふたりで手を握って歩いた。
もうこの時点で付き合ってるんじゃないのかみたいなことは俺も拓海もお互いにそれぞれ薄っすらと思っていて、その後どちらも明確に付き合おうみたいなことを言うことなく結果的に付き合っていたみたいな状態になってしまうため、付き合おうって先に言ったのは俺なのか拓海なのかは、結局分からずじまいだけれど、お互いに相手が先に言ったと口では言いつつお互いに実は自分が先に言ったと思ってたりもする。

そして大学に入った後は、そこそこに勉強したりして。
ある日は、お互いにド緊張しながらホテルに行ったりして。
ぶっちもそれなりに我が家に馴染んできてしまって態度も体もどんどん大きくなっていったりして。
卒業して、就職して、同棲して、結婚して……

というif世界。



幸せそうな世界でいいなあ。
羨ましいことだ。
そっちの拓海は素直そうで、順風満帆にいい人生じゃないか。

けれどまあやっぱり俺の隣にいる拓海って、どう足掻いてもアイドルの拓海に他ならないわけで。
こっちの拓海は素直じゃないし、俺とは喧嘩してばっかりで、えっちなこともなかなかさせてもらえないし、あいつは俺よりもぶっちの方が好きなんじゃねえのかと思うことも多々あるけれど。

それでも俺が一緒に走っていかないといけないのは、プロデューサーとして出会い、ヤンキーとして出会ったアイドルの拓海なわけで。
それが嫌なのかって聞かれたらそんなことはないし、いや、考えれば考えるほど、ifの世界もいいけれど、やっぱり俺は俺の世界で出会ったこの拓海を大切にしたいって思えて。

こっちの世界は苦労ばかりだよ。
始まりの1ページも、まだ俺にとっては空白の1ページだ。

でも、俺と拓海はまだ一緒に走れてるから。
あいつは俺を見て笑顔を浮かべてるし、それを見て俺も幸せになれるから。

苦労ばかりのプロデュース活動だけど、そんな中でしか得られないものもあるから。

だから拓海。
これからも、よろしく。

そしてifの世界の拓海も。
ifの世界の俺と、そのあともよろしく。





送る時、対象アイドルを「向井拓海」と書き込もうとして「あ、でもこれ手紙の宛先はこっち(アイドル)の拓海じゃなくて、あっち(同級生)の拓海」だな、と思って「星野拓海」とした。
でもこの書き方だと星野拓海はアイドルではないしアイドルに向けた手紙じゃないんだよな、と思ってまさか受理されないほどのことはないだろうけど……と思いつつ送ったら特にお咎めもなくOKが出た。

が、本放送を聞いてたらその時点まで対象アイドルが「星野拓海」だったことに全く気づいていなかったらしい。
音源も画像ファイルも全部「星野拓海」データで送ったのだが……

星野拓海_星野流人

これは表札シミュレーションというやつで作った表札。
表札を発注するときにイメージを掴むためにデザインできるというやつなのだけれど、かなりたくさんの表札の種類があるので、かなり重宝した。
アイドルとの結婚概念を膨らませたい人は、ぜひこれで表札をつくってみてほしい。


虹色レター、また機会があれば次も送りたいと思います。
俺と拓海のifの物語にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。