内視鏡、予約すべきは午前か午後か?
40歳前後から胃がんや大腸がんの羅漢率が上がります。だから胃と大腸の内視鏡検査が必要です。胃の内視鏡検査は毎年が理想。大腸の内視鏡検査は2年に1回。胃癌も大腸癌も早期発見すれば助かります。
ここまでは常識。問題は何時の検査を予約するかです。あまりそこまでは考えたことがないのではないでしょうか?では質問です。何時の検査を予約したらいいでしょう?体内時計がカギです。
私たちの身体には体内時計があるのはご存じだと思います。視交叉上核が体内時計です。視交叉上核は約2万個の細胞の集まりで、大きさは米1粒ぐらいです。視交叉上核は間脳にある視床下部の中にあります。
視交叉上核は体温やホルモンを司ります。私たちは目が覚めると視交叉上核の指令で徐々に体温が上がります。体温が上がると共に身体にエネルギーと注意力が湧いてきて前頭前皮質を活発にします。前頭前皮質は考えたり、計画を立てたり、判断する場所です。
人間の注意力は正午でピークを迎えます。そこから下がりだし、午後5時ごろに底辺まで落ちます。そして5時ごろを境に再び上向きに変わっていきます。つまり昼食後から夕方までが注意力は下がり続けます。
視交叉上核のリズムが内視鏡検査の予約時間と関係があるのか?あるんです。調査結果を見てみましょう(Alexander Lee et al., “Queue Position in the Endoscopic Schedule Impacts Effectiveness of Colonoscopy,” American Journal of Gastroenterology 106, no. 8 (2011): 1457–65)。仮に9時に開院するとします。それから検査医が内視鏡を覗くとして、ポリープを発見する確率は1時間ごとに5%ずつ落ちていきます。
わかりやすく午前と午後のポリープの発見率を比べてみましょう。午前11時には医者は平均1.1個のポリープを発見しましたが、午後2時になると0.5個、つまり半分まで落ちました。怖いですね。悪性のポリープを1個見落としただけでアウトです。放っておくと癌になりますから。
手術の予約も時間がカギです。アメリカのデューク・メディカルセンターが9万件の手術を調査して麻酔事故の発生を確認しました(Melanie Clay Wright et al., “Time of Day Effects on the Incidence of Anesthetic Adverse Events,” Quality and Safety in Health Care 15, no. 4 (2006): 258–63) 。そうすると、午前9時に麻酔事故が起こる確率は1%。ところが午後4時になると4.2%まで増えたのです。つまり午後になると4倍まで増加しました。実際に大事に至った確率を調べると、午前8時では0.3%。対して、午後3時には1%、つまり3倍強増加しました。
正午から夕方5時までは身体のリズムが下がり調子になって、注意力が落ちてしまうのです。36のアメリカの病院を対象にした調査があります(Hengchen Dai et al., “The Impact of Time at Work and Time Off from Work on Rule Compliance:The Case of Hand Hygiene in Health Care,” Journal of Applied Psychology 100, no. 3 (2015): 846–62) 。消毒液のディスペンサーに通信装置をつけました。そして医者と看護師にバッジをつけてもらい、そこにも通信装置をつけました。
医療従事者が手をちゃんと洗う回数を調べたわけです。午前と午後の手の消毒回数を比べてみたら、午後は午前に比べてなんと38%も減りました。これが原因で、おそらく年間で7500件の院内感染が起きたと推定されています。午後は集中力が落ちるんです。
普通、検査や手術をする時は誰にやってもらい、何をやってもらうかしか考えません。でも同じぐらい重要なのは、いつやってもらうかです。いつですか?午前です。
私も上記の研究を知るまでは、午後に内視鏡検査の予約を入れていました。午前中はノンビリしたいし。今は違います。予約入れるとき真っ先に言います。「検査は午前でお願いします!」。「申し訳ありません。あいにく午前は予約がいっぱいです」。「なら、午前が空いている日はいつですか?」。日にちを変えてでも午前検査の予約を入れます。
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