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J-WAVE「SONAR MUSIC」で紹介した次世代のアフロビーツクイーン「Tems」~Next Queen of Nigerian Afrobeats~

アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。
本日1月4日のSONAR MUSICを聴いて下さった皆さん、ありがとうございました!今回のテーマは「2022年注目のアーティスト~洋楽編~」ということで、番組では北米、南米、オーストラリア、アジア、そしてアフリカの5地域からHOTなアーティストをご紹介しましたが、私アオキはアフリカ担当として、今年大注目すべきナイジェリアンアーティストをご紹介させて頂きました。まだお聴きでない方もradikoがあれば大丈夫!オンエア後1週間以内の番組ならいつでも聴くことが可能です。


さて、早速今回番組でピックアップしたアーティストをご紹介しましょう。

Tems(テムズ)

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Temsは1995年生まれのナイジェリア出身の女性Afro R&Bシンガーです。
「Alté(オルテ)」と呼ばれるナイジェリアのオルタナティブシーンからデビュー。実はつい昨年までレーベルに所属していない完全インディーズのアーティストでした。
2018年に仕事を辞めて音楽キャリアに専念することを決め、1stシングルMy Rebelをリリースします。そして翌2019年に発表したTry Meのヒットによりその存在が国内で注目されるようになります。

2020年9月には初EP「For Broken Ears」を発表。このEPからシングルカットしたDamagesもヒットし、Apple Music Nigeriaのチャートで1位を獲得します。

続けて10月、Wizkid4枚目のアルバムMade in Lagosに収録された「Essence」という曲にTemsがゲスト参加。この曲は翌2021年4月にアルバムからの4枚目のシングルとしてカットされます。そしてこの「Essence」がのちにミラクルを起こすのです。

この「Essence」は、アルバム「Made in Lagos」リリース時(2020年10月)からそもそも人気の高い曲だったのですが、先行シングルの「Smile」(feat. H.E.R.)、2枚目のNo Stress、そして3枚目が「Ginger」(feat. Burna Boy)といった具合に「Essence」はなかなかシングル曲に選ばれず、年があけ2021年4月になってようやく4枚目のシングルとしてカットされました。ここが肝です。このシングルカットのタイミングにはいくつかの戦略が含まれていると感じました。
言うなればそれは「Tems持ち上げ作戦」です。

2016年にWizkidをフックアップし世界的スターへと導く発射台となったのがカナダ出身の世界的ラッパーDrakeなのは有名な話ですが、そのDrakeの最新にして記録破りのアルバムCertified Lover Boyが2021年9月3日にリリースされました。実はこのアルバムに収録されている「Fountains」という曲にTemsがゲスト参加しているんですね。再びの「ドレイク砲」にアルバムリリース時には本当にビックリしました。


そしてこのDrakeのアルバムがリリースされる直前の8月中旬、なんとあのJustin BieberをフィーチャーしたRemix VersionのEssence」(feat. Justin Bieber and Temsがリリースされ大きな話題になっているんですね。しかも、ちょうどこのあと(9月上旬)からWizkidは1ヶ月に及ぶ北米ツアーをスタートさせています。
このように、「突如現れた謎の実力派シンガーTems」×「ジャスティン・ビーバー」×「ドレイク」×「北米ツアー」というプロモーションの掛け算と、やはり楽曲の完成度、とりわけ絶妙なバランスでブレンドされたAfrobeatsとR&Bサウンド、更に「You don't need no other body」と直球で掛け合うリリックと印象的なメロディ、これらが見事に絡み合って「Essence」はどんどんチャートを駆け上がっていきました。ヒットとは「本質的なモノの良さ」だけでなく、その良さを知らしめる「魅せ方」や「伝え方」も必要不可欠な要素。文字どおり全てが「Essence」なんですね。

その結果、Billboard HOT100においてTOP10内にチャートイン(最高順位は9位)。このTOP10入りはアフリカのアーティストとして初の快挙です。
さらに同じくBillboardのAdult R&B Airplay Chartで1位、Hot R&B / Hip Hop Songs Chartでは3位を獲得。更に更にソウルトレインアワード2021ではベストコラボレーションを受賞し、アメリカの音楽メディアRolling Stoneが選ぶ「2021年のBest Song 50」においては見事1位に選出されるなど、こうなるともはや誰も止められない状態。
ちなみにこの「Essence」は2022年グラミーのBest Global Music Performanceに、オリジナル盤に4曲を追加収録し2021年8月末にリリースされたMade In Lagos ; Deluxe EditionのほうがBest Global Music Albumにノミネートされています。

(追加された4曲のうちEssenceを除く3曲をピックアップしたショートムービー。美しい映像の世界観も見どころです。)


さて、ここまでTemsのサクセスストーリーを説明してきましたが、つぎは彼女自身の魅力について。
性格は非常にシャイで、幼い頃は両親の離婚の影響もあって内気だったそうです。学校では話す友達があまり多くなく、詩を書くことと歌を歌うことが大好きだった、とインタビューに答えています。
また、EP「For Broken Ears」時にはほぼ全てのトラックメイキングを自分で行ったとのことでしたが、次のEP「If Orange was a Place」ではプロデューサーを迎え(1曲を除いてGuilty Beatzが担当しています)、新たな表現力を開花させています。

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彼女のシンガーとしての特徴は、その芳醇でスパイシーかつクールな歌声。
あるファンがツイッターで彼女のことを「熱い日差しの中で飲む冷たいジンジャーライムのよう」(原文an iced ginger-lime drink on a hot day」と言っていたのを読み「なるほど」と思いました。またその芳醇な歌声が映えて、且つ誰もマネができないような印象的なメロディラインをクリエイトするのが得意なシンガーだと思います。

ちなみに私が調べたところによるとTemsは日本のアニメが好きらしく、「Darker Than Black~黒の契約者~」「Attack on Titan~進撃の巨人~」「Demon Slayer~鬼滅の刃~」が特にお気に入りとのこと。英語名だとこんなふうになるんですね。記事を訳してて勉強になりました。


Temsは2021年9月にアメリカのレーベルRCAと契約を交わしており(ちなみにWizkidもRCA所属です)、彼女の最新EP「If Orange was a Place」もRCAからリリースされています。以前たまたま読んだ記事では、Altéシーンはナイジェリア国内でもさほど人気が高くなく、アフロポップのメインストリームから見ると「はみ出し者」のような扱いだ、みたいなことが書いてあったのを記憶しています。実際、初期の作品を聴いてるとAfrobeatsらしい曲は少なく、むしろR&Bやネオソウル的なアプローチが強い印象です。
そんなAltéシーンでデビューしたのが2018年。
初のヒットが2019年。
Wizkidにフックアップされたのが2020年。
ジャスティン・ビーバーやドレイクとコラボし米RCAと契約した2021年。

わずか4年でここまで世界に飛び出して結果を出すアーティストってなかなかいないと思いますし、それがアフリカとなればなおさらです。それだけ現在のナイジェリアの音楽業界はUKやUSシーンと直結しているわけで、ナイジェリアから次の世界的スターを生み出すプラットフォームがどうやら完成しつつあると言っても過言ではないように思います。

事実、これは余談になりますが、「アメリカ在住のナイジェリア人敏腕プロモーターDuke Conceptが、アメリカ最大手のエンタメプロモーターLive Nationとパートナシップを締結」というニュースが年末に流れました。つまりこれからは「Live Nation」の力を借りて、ナイジェリア人アーティスト達の大規模コンサートツアーが今まで以上にアメリカで開催されることになる、ということを意味しています。


というわけで、本日はナイジェリアから飛び立った新たな才能、Temsを特集してみました。気に入って頂けたらとても嬉しいです。
今年もたくさんのアフリカ音楽を皆さんと一緒に楽しんでいけたらと思いますので、もしお気に召しましたら「いいね!」を押して頂けると、しっぽを振って喜びます。

以上、アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。


<今回の参照記事です>(メイン画像はnataalより引用)


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