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ロッキングオンの時代●第四章●模索と対立


◇「ロッキングオンの時代」は、単行本化を目指して執筆中です。ここでは、「章」ごとにまとめていきます。今後、章の中で、今後、加筆、修正、変更などをしていきます。

1.反省会議
2.短歌
3.フィルムコンサート
4.デビッド・ボウイ
5.渋谷陽一と橘川幸夫

模索と対立(1)反省会議

 創刊号に対する渋谷陽一の落胆ぶりは大きかった。デザイン面でも、内容面でも、販売面でも、僕たちが思っていたものとは程遠かった。「とにかく出す」ということだけが優先されて、世の中に自信を持ってメッセージを送り出すというものにはなっていなかった。特に、デザイン面でのクォリティの低さ、事務的でスピリットのこもってない本文レイアウトに渋谷は怒っていた。

 ただ、世の中の反応には一定の手ごたえがあった。手紙や投稿が舞い込みはじめ、スタッフたちのやる気も高まっていた。相変わらず協力者はたくさんいたが、編集・制作については、渋谷と僕が担当し、岩谷さんにいろいろと教えてもらうという体制になった。岩谷さんが、創刊されたばかりの「雑誌総カタログ」という分厚い業界の本を持ってきてくれた。雑誌の広告料金が一覧になっているものだ。僕たちは、それを参考にして、広告料金表を作り、創刊号を持って再びロック喫茶を回ることになる。

 創刊2号の編集とデザインは結局、僕がやることになった。表紙は渋谷の友人の小林明くんという早稲田の学生がジャニス・ジョプリンのイラストを書いてくれた。なかなか迫力のある絵で、創刊号の冷たいデザインとは違っていた。創刊2号の目次のところを見ると「編集長 渋谷陽一、イラスト 小林明、編集者 橘川幸夫、監督 岩谷宏」と書いてある。創刊号のレイアウトの仕方を横から見ていたのを、そのまま真似をして、僕が全部の頁をレイアウトした。仕上がりについては、渋谷は、ものすごく喜んだ。「これで、ようやく創刊だ」と彼が言ったのを覚えている。しかし、その後しばらくは僕が編集とデザインを担当するのだが、毎号が創刊号のように内容もイメージも変化し、僕は、それが楽しかった。

 創刊号のテキストについても、内部的にも批判が多かったので、掲載は厳選しようということになった。創刊2号で、何よりもインパクトがあったのが、巻頭の「エマーソンレイクアンドパーマー訳詞集」である。岩谷さんの訳詩は、それまで聞いていたロックを、言葉の面から補強すると同時に、新鮮なロックへのアプローチであった。僕らが感動していたロックの音とは別な意味でロックの詩というのは衝撃だということを、改めて教えてもらった。楽器も弾けないし、音楽的素養の少なかった僕も、言葉や考えの側面からロッキングオンにアプローチ出来るような気がした。ロックの言葉を問題にするということは、他の音楽雑誌にも、あまりなかったと思う。岩谷さんの翻訳詩は見事なものであった。

 現在であれば、著作権侵害で訴えられそうなことだが、当時は、そんなことおかまいなしであった。僕もデザインしながら、勝手にマンガ雑誌から切り抜きをしてはったりしていた。今見て、ほほえましく思うのは、僕は高校時代に山岳部にいて、山登りばかりしていた。誌面に滝の写真や木立の写真が使われているが、これは、僕の高校時代の写真アルバムから取り出して使ったものである。

 創刊2号の目次は以下である。
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エマーソンレイクアンドパーマー訳詞集 岩谷宏
ブリティッシュ・ロック考 渋谷陽一
アビー・ロードへの裏通り 松村雄策
ミックミラーバンドの不思議な物語 Mami洋子
極めて偏狭なるロック観及び女性観或いは二者の関係論 瀬戸千也子
ブルーズはなぜロックになるか 岩谷宏
夏黙 橘川幸夫
ニールヤングの寒さ 今村豊
レコード評「レイラ」「デレク・アンド・ドミノス」 渋谷陽一
レコード評「ザ・ビートルズ四点結晶」 岩谷宏
生のロック 中島康信
ロック論 伊藤義章
ハード・ロック学序説 小松晴男
「雨の日の女」に関する自註 大久保宏
ロック・言葉・思考 加部燎子
ソフトマシーン 岩谷宏
アリス・クーパー試論 渋谷陽一
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 創刊号に比べて、内容的にもはるかに多様であり、質的にもまとまってきている。新規投稿の中から、渋谷や岩谷さんが推薦するものを僕が預かって、編集をした。原稿の並べ方は、僕がたたき台を作って渋谷と相談して決めた。「岩谷・渋谷・松村」の3人が巻頭に並んでいるのは、僕が決めたのだけど、2号の段階で、これからのロッキングオンの方向性と中心人物が見えてきていた。

 mami洋子というのは、関西方面から投稿してきた好光英子という女性である。瀬戸さんも投稿だったと思うが東京の子で、「ロックとセックス」の関係を書いた原稿であった。中島康信(チョーク)と今村豊(パンサー)も書いている。

 渋谷がレコード会社から、宣伝用のミュージシャン写真をもらってきたので、それが使えるようになって、なんか業界にかかわっていくような気がした。編集後記の頁に、ロバートフリップの写真が使われているが、こういう写真が使えるだけで、僕は少しうきうきしていた。

 この号の、前口上は渋谷が書き、編集後記は僕が書いた。
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前口上
 ロッキン・オンの第2号です。第2号というのは第1号に続いて出るもので、一つの持続性のショウチョウなのです。第1号の次に出る第2号というのは一見いかにも当たり前みたいですが、現場の人間にとっては2という数字は実にイロイロな感慨を感じるものなのです。などとグチじみたことを言ってもしかたがありません。とにかく第2号なのです。次は第3号です。
 新規の投稿者もかなり増え、少々熱くなってきましたが、まだまだなので投稿をひたすらお待ちします。
 それに販売面での協力をお願いします。とにかく何でもいいのです、まだあなたがこの本を買っていないで立ち読み中でしたら、150円を持っている事を確認した上でどうぞレジの方へ。まずそれが私達の共通の場への一歩目です。
編集後記
○今回はド素人が編集したのでドジなところがありましたら読者・執筆者の諸君カンベン。
○一号の売れ行きは「まあこんなものか」という予想外でもあり予想通りでもありました。ただロック喫茶が駄目で本屋での売れ行きが伸びたという事は意外でもあり皮相な結果でした。
○次第に未知の友人たちからの文章が送られ、あるいは直接に持ち込まれるようになって来て、それだけが経済的基盤の大ピンチという事態の中で我々の救いです。
○原稿に期限はありません。原稿用紙で縦書きでお願いします。
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 とにかく、お金がなかった。

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ロッキングオンの時代●第四章●模索と対立

橘川幸夫

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僕のテキストは誰に頼まれて書いたわけでもない、自分の意志でテーマを選び書いています。サポートしてくださる方は「時代からの原稿料」と思っています。いいねえ、すべて、の原稿料や商品代金が、こういうサポートになればよいのに。

顔、ほころぶ。
4
参加型社会一筋

コメント4件

失礼になってはいけないと思いますが、僕は「渋谷陽一さん」というお名前にはピクッと反応してしまいます。中学、時代、一か月分のお小遣いをかけて買ったロックのレコード。ライナーノーツにはいつも「渋谷陽一さん」のお名前がありました。「なんか、かっこいい文章を書く人だなあ」と思っていました。たしかラジオのパーソナリティもなさられていたと思います。最初の出会いは今でも覚えていますがKISSのアルバム『Destroyer(地獄の軍団)」でした。
コメ、ありがとうございます。今のようにYouTubeで好き勝手に音楽聞ける時代ではなかったですからね。NHKの渋谷の番組でROCKを知った人は多かったと思います。「コンバンワー、シブヤヨウイチです」。
決して真面目な読者ではないのですが、スッと200円払いました。もちろん、きつかわさんだから、には違いないのですが、有料メルマガより抵抗なく買えました(個人の感想)。ノートの「払いやすさ」が決め手なのかなあ。

順番が逆になりましたが、ワクワクしながら読みました。当時も今もロックには殆ど縁のない僕ですが、きつかわさん、岩谷さんと今こうして繋がりがあるのが不思議で嬉しい。
のぶさん、ありがとうございます。ロックでもデジタルでも、表面的なテーマはちがっていても、それに関わる人間の関係が一番面白くて、ダイナミック。これからも、そのへんのことを、いろいろ書いていくつもりです。
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