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欅坂46考・風に吹かれても。

▼橘川の欅坂論は、「こちら」にまとめてあります。


(1)ロックと歌謡曲

 欅坂46の5thシングルは「風に吹かれても」。「風に吹かれて」はボブディランの名曲で、欅坂のユニットであるゆいちゃんずにも「ボブディランは返さない」という曲があるから、秋元さんはディランに思い入れがあるのかな。「風に吹かれて」は、エレカシにも同名の名曲がある。

 サイレントマジョリティは、これまでのアイドルが歌う楽曲ではなく、歌謡曲の歴史の中でも特別な存在だと思う。簡単に言えば、若者よ選挙に行けよ、という内容だが、泉谷でもキヨシローでもなく、秋元康が作った曲であることに、新鮮な驚きがあった。そして、平手友梨奈という存在と、TAKAHIROというパフォーマーとの出会いにより、欅坂46の方向性は決まった。ちなみに、欅坂46はロックではなく、歌謡曲の流れの中でとらえられるべきだと思う。そもそもロックというものは、黒人音楽のリズムをベースにして、エレクトロニクスの技術進化とともに展開したものであり、渋谷陽一が「ロックとは私生児の音楽」と呼んだように、あらゆるジャンルの音楽を貪欲に吸収して発展してきた。歌謡曲は、ベースにあるものが、日本固有の土着的な民謡であったり浪曲であったりして、同じように、戦後の時代の流れの中で、貪欲に他のジャンルの音楽を吸収して成長してきた。

 ロックと歌謡曲の違いは、そうした出自もそうであるが、ロックは、ロックミュージシャン個人の内部から出てくる叫びであるが、歌謡曲は、エンタメ業界のシステムによって生まれる。歌謡曲の世界では、作詞家と作曲家が「先生」であり、権力を持つ。ヘタでも、未熟でも、自分の言葉と声で叫ぶのがロックである。平手が、若いロックバンドのライブに触れて「負けた」と思ったのは、その違いを知ったからだろう。

 欅坂46の奇跡は、歌謡曲の枠組みの中で生まれた名曲が、平手友梨奈というロック的な存在と出会ったことだ。サイマジョの頃に、平手がインタビューで、「私はアイドルではなくアーティストになりたい」と発言して、生意気だとヒンシュクを買ったことがある。アーティストとは、作られた人形ではなく、自分の存在で表現をしたいということだろう。

 アイドルを目指して集まったメンバーの中で、一人だけ異質な存在があり、その異質さがやがてグループとしてのアイデンティティになっていく。この成長過程が、欅坂46の魅力であった。

 AKB48で、新しいアイドルグループのあり方や、握手会のようなリアルな交流が出来、総選挙のような、ファンが運営に疑似参加出来るようなシステムを秋元康は作り上げた。乃木坂、欅坂は、SONYミュージックによる、AKBモデルの、いわば、フランチャイズ展開である。そして、SONYという大組織が加わることによって、品質保証、サービス展開、プロモーションのパワーなど、各段と強力になった。

 欅坂46を追いかけはじめて、いわゆるオタといわれているファンたちのネット上の発言が、そこいらの評論家よりハイレベルであり、何よりも「運営側の視点」で発言しているように見えて、驚いた。またTwitterやYouTubeに、膨大な関連情報があふれ、一日中追いかけても話題が尽きないほどの情報量であることにも驚いた。ゲームにはまると、一日、ゲームをやっているが、同じようにアイドルにはまると、一日、情報収集と、イベント参加にはまるのだろう。


(2)ドキュメンタリーとしての欅坂46

 こうした状況を秋元康はもちろん理解しているのだろう。次から次へと情報になりうる動きを出し続ける。素人の女の子たちが、猛烈なスピードで課題を与えられて、歌詞を覚え、歌い、踊り、テレビやラジオのレギュラーを持ち、雑誌の取材やモデルの仕事が殺到しているのだから、パンクしそうである。デビューしてから猛烈な勢いで疾走して、年末のクリライ、紅白で、一度、燃え尽きたかのように見えた。そして、今年の夏まで、メンバーそれぞれ不安定な状態が続いた。そして、今年の夏にもハードすぎるツァーを行った。その過程で、一緒に過ごす時間も増えたのだろう、ぶつかり合いもあったようだが、幕張の最終日は、何か、ふっきれたようなすがすがしさがあった。

 僕は、欅坂46を見ていて、デジャブのように思い浮かべるグループがある。それは、2011 FIFA女子ワールドカップの、日本女子サッカーチームだ。澤穂希という世界的な選手はいたが、それまでサッカーに関係のないものにとって、女子サッカーは関心の対象ではなく、メンバーの名前を聞いても知らない名前ばかりだった。それが力をつけて、金メダルを狙える流れが出来て、注目が集まってきた。運営側は、金メダルを取るためには、もっと実力のある選手がいるから、チームに合流させるべきだと言ったが、宮間あやは「このチームで金をとりたいんです」と言って、補強を拒否した。いろいろな意味で、宮間あやは素晴らしい女性だと思った。

 欅坂46は、最初のシングルの時から、選抜メンバーを選ぶ時に、自分は外されるのではないかと不安になっていたメンバーがいた。それは、毎回、けやかけで選抜発表する時にもおなじみの光景であった。また、ポジションにも気をつかうことがあった。サイマジョで最年少の平手がセンターに選ばれて、三列の齋藤冬優花が、三列は目立たないということに不満を漏らし、平手がそのことを引きずっていたこともあった。しかし、夏を越して、5枚目のシングルの選抜発表の時は、これまでと違い、なんの緊張感もなかった。選ばれないことの不安もなく、位置についても、それほどのこだわりはなくなっていた。平手が、自分が支えなければいけないというプレッシャーからの悲壮感にあふれた挨拶も必要なかった。今年の夏、欅坂46は、一つのチームになったのだろう。内部事情は分からないが、一つのなるためのキーパーソンとして齋藤冬優花の役割と、織田奈那の存在は大きかったことは想像がつく。

 二人セゾンの頃か、誰かが、「欅坂は誰かが卒業する時は、みんなが卒業する時」と発言していたと思う。これまでのAKBや乃木坂の例を見てきた彼女たちにとってみれば、アイドルグループは過酷な内部闘争があり、他人を踏み台にしてもセンターを目指すのだという暗黙の了解があったのだと思う。それが、サイマジョから、セカアイ、セゾン、不協和音ときて、個人の成長と、チームとしての成長が、平行して進むことによって、代えがたいチームとしてのアイデンティティが確立してきたのだと思う。

 これまでのアイドルグループと欅坂は何が違ったのだろうか。それは、もちろん、もうひとつの欅坂46のメンバーである、TAKAHIRO先生の存在が大きいだろう。TAKAHIROが「風に吹かれても」についてラジオで語っていたが「(欅坂46は)基本、ドキュメンタリーなグループですから」と発言していて、さすがだと思った。僕たちは、欅坂46の物語を、現在進行形のドキュメンタリー番組として見ていたのだ。そして、TAKAHIROの存在は、音楽がYouTubeを介して、聴いて、なおかつ、観る存在になっている時代の、新しい職業ジャンルを開発したのではないか。


(3)「風に吹かれても」

 そして、5枚目の「風に吹かれても」が出た。相変わらず完成度は高いけど、サイマジョのような新鮮な驚きはない。二人セゾンは、それまでアイドルに関心のなかった人たちも関心を持った人が増えたが、そういう新鮮な完成度はない。

 TAKAHIROの振付は、今回も、音楽そのものを超えるようなパワーを見せつけたが、これまでのように、ダンスの上手い子を中心にするのではなく、全員が同じ難度でパフォーマンスするようにした、と言っている。つまり、チームとしての完成度が高まったということだろう。完成度が高まることによって、サイマジョの時に感じた、何の自信も経験もない女の子たちが、自分の心の中をはじめてのぞき込むようにして叫んだような、迫力は薄らいだ。いわば、プロのパフォーマーとしての自信がついてきたのだろう。

 「風に吹かれても」が、新たな飛躍のための踊り場のような位置づけなのか、それとも、このまま完成に近づいていくのかは、次回の作品を待つしかない。

 欅坂46は、秋元校長、TAKAHIRO担任の、女子高のクラスのようなものなのかもしれない。そして、女子高のクラスであるなら、3年で全員が卒業することになる。二人セゾンという曲は、そのことを予感させるような名曲であった。

 長濱ねるは、欅坂専従になり、けやき坂46 (ひらがなけやき)は、新しいメンバーが増えて、完全に別クラスになった。ひらがなの二期生は、なかなか個性あふれる顔ぶれで、また運営スタッフたちは、やりがいを感じているだろう。キョロちゃんとサワビのバスケ対決は、チームを組んで対戦してほしいものだ(笑)。

 欅坂のドキュメントは、もしかしたら、これからの「学校」のスタイルを考える上で、大いに参考になるのではないか。圧倒的な倍率で日本中から応募してきて、エンターティメントの基本技術をトップレベルの先生が指導してくれ、アクティブラーニングもみっちりこなさなければならない。そして、学んだことの成果が、そのまま現実社会のビジネスにつながるのだ。理想的な学校ではないか。

 アイドルになった女の子たちは、大学に行くか、アイドルになるか、という将来の選択肢を考えるのだろう。そして、アイドルは、一生の職業ではなく、将来、社会に出たときに役立ちスキルと人間関係術を学ぶ「学校」だと位置づけているのだろう。欅坂46の全員卒業式を見てみたい気もする。平手は、NHKの番組で「20歳になったら何をしていますか」と質問されて「結婚してるかも」と答えた。卒業後の平手も見てみたいと思う。

 

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