「欅坂46」を散歩して。
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「欅坂46」を散歩して。

「欅坂46」の登場は、しばらく不活性状態だった邦楽の世界に、何か新しいボールが投げつけられたみたいで、ちょっと感動している。モー娘。からAKB48までの女子アイドルグループとジャーニーズ系の男子アイドルグループがCD売上の上位を占めていて、熱烈なファンが同じCDを大量に買うことで成立している業界は、みじめなものであった。「可愛いだけではダメですか」の風潮に、秋元康プロデューサーは、全く別のボールを投げてきた。

 メディアの人気者には「かわいい」と「かっこいい」という評価軸がある。60年代から70年代にかけて、スターは「かっこいい」ものであった。高倉健や石原裕次郎のような映画俳優はもちろん、女性歌手でも藤圭子や山口百恵のデビューの時は、可愛いというよりも、きりっとかっこ良いものであった。70年代後半以後は、社会の価値観は「かっこいい」から「かわいい」に変わり、メディアや日常の中でも「かわいい」というのが最大の評価になっていった。

 欅坂46は、AKB48、乃木坂46に続くアイドルグループだが、戦略がまるで違う。それは「かわいい」から「かっこいい」へのシフトである。これは、巷間の評価のように、センターに選ばれた14歳の平手友梨奈(てち)の存在感が大きい。なにしろ、歌はうまい、踊りもセンスある、芝居も出来そうだと、これまで不器用な素人アイドルが、その不器用さを含めて「かわいい商品」としてきたのに対して、ある意味、完璧な、プロとしての、かっこよさを目指しているようだ。しかも、半年前は、普通の中学生だったのである。一体、どういう魔法を使ったのか。周りのスタッフの短期間で教育するメソッドもすごいと思うが、それをこなせてしまう素人の女の子たちの素質に、新しい時代を感じる。

 デビューシングルは4月6日にリリースした「サイレント・マジョリティ」ある。YouTubeでは、あっという間に1000万ダウンロードを記録した。

サイレント・マジョリティ

 ミリタリー調の衣装に、笑顔を見せない表情。最後だけ、てちがにやっと微笑む。ぞくっとする笑顏だ。キレのあるダンスも、長期の練習によってではなく、限られた時間でマスターしたようだ。ネットには、すぐに「踊ってみました」が登場するから、若い子は、ダンス勘みたいなものが発達しているのか。歌詞は、欅坂46のテレビ番組の司会をしている土田晃之さんは「尾崎豊だ」と言っている。大人の言うことなど聞くな、という、昔は当たり前であった若者の感情が、今時は、そんなことを言うと「どうしですか?」と返されてしまうような風潮に、あえて、こういう歌詞を持ち込んだのは、時代の転換点を見た戦略だろう。サイレントマジョリィテイという言葉は、沈黙する大衆は騒ぎたてるデモ隊より多数派だという、アメリカのニクソン大統領の発言から来ているとのことだが、日本でも、岸信介首相や佐藤栄作首相が、同じようなことを言ってる。要するに、若者も選挙に行けよ、とアジっているところもあり、選挙権年齢の引き下げという時代意識を、アイドルを追いかけるファンに伝えることになるのか。

 地下アイドルにも、面白い子がたくさんいるが、欅坂46を見てて、改めてプロの大人はすごいと思った。

 ダンス振り付けは、上野隆博(TAKAHIRO)である。大学を卒業して単身アメリカに渡り、アポロシアターが主催するダンスコンテンストで9大会連続優勝記録。マドンナはじめ世界的に認められたダンサーだが、帰国して活動。欅坂46のダンスは、確かに、これまでの日本のテレビ業界の振付師とは感覚が違う。パントマイムの要素も入っていて、リンゼイケンプを思い起こす。こういう人材を使ってしまうのだな。

ON&OFF 160408 欅坂46登場シーン(振付師に密着)

 こちらは、平手友梨奈の「山手線」というシングル曲だが、昭和歌謡を感じさせながら、動きが新しい。美空ひばりの「川の流れのように」をイメージしたのか、これまでのアイドルグループ以外の客層も狙っているのか。

欅坂46 『山手線』Short Ver.

 以下の予告編を見ると、役者としても大成しそうだ。

欅坂46 平手友梨奈 『テンガロンステーキ ドメスティック2 予告編』

 しかし、欅坂46で一番驚くのは、シングルデビューの前に、膨大な情報がインターネットにあふれていることである。特にテレビ番組の断片がほとんど動画公開されていて、とても追い切れないほどだ。プロが制作した、短い動画があふれていると、その情報量はとてつもない。こうして、時代の星は、情報の空間を、全力で駆け抜けていくのだ。

 しかし、アイドルの情報を追いかけたのは、AKB48の光宗薫(光宗公)以来である(笑)そういえば彼女も、かわいい系というよりは、かっこいい系であったな。

「かわゆい」は、見るものに「このままで良いんだよ」という安心感を与える。「かっこよさ」は、見るものに「このままではダメだろう」という突きつけるものがある。日本は80年代バブルを前後して、圧倒的に「このままで良いんだよ」という意識を拡大させた。時々、レトロな感じで「このままではダメだ」みたいな動きが起きたけど、ではどうするかと言えば、過去に戻ることしか示せなかった。

 平手友梨奈は、14歳だけど「アイドルになって、ちやほやされたいと思ったのではありません。自分を変えたかったのです」と言っている。それは、自分はもっと笑ったり楽しんだりすることが好きなはずなのに、現実の社会では、それをうまく出せなかった自分を変えたいということだった。一度は親の反対で辞退した長濱ねるが、一転して、追加参加した。彼女も、長崎県の五島列島で生まれ、閉鎖的な環境から脱出したいという気持ちがあったのだろう。欅坂の女の子の発言を聞いていると、これまでのアイドル志望の子とは、根本的に違うものが聞こえてくる。

 アイドルになりたくてアイドルになるのではない。アイドルになることでしか解放出来ない自分がいるのだ、というあたりが、時代の大きなターニングポイントだろう。それは、聞くものにとって、自分の現在と未来を改めてイメージさせる。

 時代は「このままで良いんだよ」というステージから「このままではダメだよ」というステージに移りつつある。80年代バブルの幻想を、根本から払拭しなければ、そのステージには移れない。それは「このままではダメ」という意識の答えを過去に求めるのではなく、何もない白い未来のキャンバスに描こうとすることなのだと思う。

▼欅坂46についての論考をまとめたものです。
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橘川幸夫

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