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京大的文化事典(自由とカオスの生態系)杉本恭子・著 フィルムアート社・刊 ISBN-13 : 978-4845918232


京大的文化事典(自由とカオスの生態系)



1.伝説の人と京大西部講堂

 僕は東京新宿で生まれて育ち、大学入学は1968年なので、まさに大学キャンパスは激動の時代であった。激動の時代というのは、学生ひとりひとりが魂を揺さぶられ、その無名の学生の中から話題を集める、「ここだけ」のスターが生まれ、伝説の空間が生まれた。

 関西の方はまるで縁がなかったので、時代のリアリティは薄いが、それでも京都大学の吉田寮、熊野寮、西部講堂の名前は東京にも伝えられてきた。

 京都府学連の委員長だった高瀬泰司(泰ちゃん)さんの名前も、新宿の飲み屋の喧騒の中で聞いたことがある。西部講堂を、単なる政治的なシンボルではなく、当時のヒッピーロック文化の拠点にしたのは、彼だろう。

 80年代後半に、彼が亡くなった時に作られた追悼集「泰ちゃん」を、僕の先輩から「これ読んどけ」ともらったことがある。60年代中期から70年代に至る、京都の学生たちの心根が伝わってきた。写真アルバムの中に、吉野の保田與重郎の家を訪問した時の写真もあり、京都文化人というのは、なんか凄いネットワークなんだな、と思ったりした。学生運動関係者の追悼集というのは、さまざまに発行されたが、時代の記録として貴重なものだと思う。

2.杉本恭子ちゃんのはじめての著作

 2020年「京大的文化事典(自由とカオスの生態系)杉本恭子・著 フィルムアート社・刊の本が送られてきた。京都大学という場所が生み出した文化と人の魅力を記録した本である。

 杉本恭子ちゃんとは、20年以上前からの友人である。大阪出身の恭子ちゃんが、東京に出てきて深水英一郎くんのガジェット通信などを手伝っていた頃に、ふかみんの紹介で知り合った。その後、関西に帰ったのだが、京都に遊びに行ってるうちに、京都に住み着いてしまった。京都というのは住んでみないと、本当の京都の意味は分からないらしい。良い意味でも悪い意味でも。もともと彼女は同志社大学出身なので、京都に住む準備は出来ていたようだ。僕が京都に行くと、よく連絡をして、いろんな店に連れていってもらった。

 彼女の文章は、繊細で、特に、インタービューの腕は抜群である。ネットで、よいインタビュー記事だな、と思うと、彼女の原稿であることが少なくない。最近も、Zoom革命の田原真人くんのインタビャーを読んでいたら、恭子ちゃんの仕事で驚いた。田原くんに聞いたら、彼女の理解力とまとめる力に驚いていた。人が好きで、人の心に無限の関心を持てる人だからだ。

 彼女は、60年代、70年代、80年代の京大西部講堂は知らないだろう。高瀬泰司さんの仕事は、木村英輝さん(キーヤン)に引き継がれて、西部講堂の黄金時代を作った。キーヤンは村八分のマネージャーを引受け(木村さん以外には出来ないw)どんとのローザ・ルンセンブルグを育てた。木村さんは、現在、京都を代表する壁画家であり、京都には土産店も何店かある。僕は、2000年になってから木村さんとの知遇を得て、当時の話を折々、聞いたことがある。西部講堂の黄金時代のことを。それはもう宝物のような記憶である。恭子ちゃんには、キーヤンのインタビューだけで本を一冊作ってもらいたいぐらいだ。80年代初期の「少年ナイフ」のディレクターだった中村伊知哉さんの西部講堂物語も面白いと思う。

3.京大オーラと大阪

 まあ、僕のロック的体験からしか京都大学西部講堂を見れないが、本書を読むと、京都という独特の風土が生んだ、京都大学という独特の文化に、さまざまな動きの匂いが漂う。私の弟子だった故・信國乾一郎はじめ、京大出身者とは多く交流してきて、共通の、「くそまじめさと虚無感」が混じり合ったような、独特のオーラが好きだ。

 僕は20歳の頃に、大阪で「月光仮面」といミニコミを発行していた村上知彦と、子ども調査研究所てで出会い、生涯の友人となった。彼は関西大学の学生で、いしいひさいちらと「チャンネルゼロ」を運営し「プレイガイドジャーナル」の編集長もやった。村上くんの関係で、チャンゼロの事務所での宴会にも参加したし、ぷかじゃで村上くんと長い対談をやったこともある。京都と大阪は、まるでカルチャーが違うので、仲が悪いが、僕にとっては、若い時に大阪との付き合いがあったので、なんとなくいしいひさいちの「東淀川大学」や「安下宿共斗会議」の方が愛着を持っているのかもしれない。

 時代と風土、というのは、面白い、同じ時代に活動しながら、大阪、京都、東京と、少し違う記憶が残っている。札幌にも広島にも福岡にも、残っているのだろう。

 なんか書評にはなっていないが(笑)、そうやって、激動の時代にタイムマシーンする魅力のある本である。

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