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佐野氏問題引き続き

 佐野氏問題は、ネットの中で、引き続き作品の元ネタ探しを続けたり、事件そのものをパロディにしたりして、混迷を続けている。プロのデザイナーたちも、一部、反撃をしているようだが、単なる「素人は黙ってろ」みたいなロジックだけでは、多くの人は納得しないだろう。特権階級の特別意識と仲間褒めは、ネットの中では、もっとも反発を受ける態度だ。

 僕は、この問題はデジタル社会の重要な問題だと思っている。現在、クリエイティブな仕事をしている人たち、小説家でも、評論家でも、ジャーナリストでも、放送作家でも、マンガ家でも、アニメ監督でも、ミュージシャンでも、芝居作家でも、あるいは、企業の商品開発担当でも、プロダクトデザイナーでも、経営者でも官僚でも、インターネットの情報を利用していない人はほとんどいないだろう。

 学者の論文も、昔から他人の論文の剽窃事件などがあったし、学生たちのリポートは、昔は書き写しだったが、インターネットがはじまって以来、コピペが横行した。書き写せば、少しは頭に入るが、コピペでは何も吸収できないだろう。現在では、剽窃チェッカーみたいなものが登場して、チェックされるようになった。

剽窃チェッカー

 学生たちは、なんでコピペするかというと、与えられたテーマを本気で追求するのではなく、論文単位をもらうことを目的化して、それさえ獲得できれば、プロセスは何でもよいという態度だからだろう。せっかくの「考える」という楽しみを自分から捨ててしまっているのだ。

 佐野氏は、サントリーのトートバッグの仕事を、部下が拾ってきたというデータをそのまま貼り付けて、提出したのだろう。僕は、その行為だけで、表現者として、自らの仕事の楽しみを放棄するものだと思った。納品すればよいというのでは、学生たちのコピペ論文と同じではないか。クリエイターのプロというのは、納品した作品の中に、自らの思いと喜びが含まれてなければいけない。請求書には書ききれないものがあるのだ。

 今回の事件で、もっとも危惧するのは、剽窃された元ネタの人たちが、佐野氏個人ではなく、サントリーに訴訟攻勢をかけることである。外国の弁護士であれば、デザイナー個人よりも、資金豊富なスポンサーを狙うだろう。実際に、剽窃バッグを採用して、配布したのは、サントリーの責任である。幸いに訴訟まで発展しなくても、少なくとも、佐野氏と、サントリーの発注担当者は、その状況を強く自覚すべきだ。更に推察すれば、実績のある佐野氏が、なぜ今回は、あまりに安易なパクリをやったのかを想像すると、相当、締め切りに追われていたのではないか。オリンピックのエンブレムの受賞に合わせて、サントリーのトートーバッグ・キャンペーンが行われたとしたら、IOCがもっとも嫌う、便乗商法として指摘されないか、他所事ながら気になってしまう。

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