純喫茶「キツ」開店のご挨拶
街には雑踏が必要だ。
1970年の新宿に「ソウルイート」というロック喫茶があった。自宅の部屋でジャニスやジミヘンの音を聞いていたのだが、新宿の雑踏の中で大音量で聴くロックは別のものであった。
1978年にスペースインベーダーが登場した。その後、ファミコンが登場して自宅のテレビ画面でゲームをやれるようになったが、雑踏の街中にあるゲームセンターでのゲームは家で遊ぶゲームとは違う感覚があった。特に街で飲んでの帰りがけにゲーセン寄るのは、都市の何かを確かめるためであった。
21世紀になって、世界的な情報ネットワークが整備されて、個人と個人が結合される環境になった。Zoomがあれば、世界中、どこにいても、対話も雑談も会議も出来るようになった。Facebookはメタバース企業として大規模リニュアルを準備中のようだ。しかし、そうした社会的システムが整備されればされるほど、失われていくものがある。
かつて農村から都会に出来た人たちは寄り添いながら「長屋」を作った。近代都市の中では「スナック」を作り「純喫茶」を作った。そうした世界は、メタバースによって崩壊しつつある。
私は、社会システム整備を否定するものではなく、むしろ強力に推進する側の立場である。だからこそ、メタバースの世界の中に、背中で、他者の温もりを感じながら対話出来る雑踏環境が必要なのだと感じた。
1970年から5年間ほど私は新宿ゴールデン街に通った。それこそ定期券を買って毎日、学校や仕事の帰りに寄った。そこは、予定調和のない「雑」な人たちとの出会いがあったからである。
人は寂しい存在である。しかし、寂しさを紛らわすためにではなく、寂しさを強く意識して、その上での交流を諦めてはいけないと思う。
純喫茶「キツ」は、あなたの雑踏である。
マスターは、奥の部屋にいるので、何か用があれば声をかけてください。
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小説「占い師の時代」-----探偵と純喫茶マスターと占い師
マスター橘川幸夫の小説を連載しています。 オンライン純喫茶「キツ」 24時間営業しています。 https://miraifes.org/…
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