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マーケティングは何処へ行く★対談=高橋朗+橘川幸夫

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標題=マーケティングは何処へ行く(第一回)対談 高橋朗+橘川幸夫(2012年6月)

掲載媒体=メタチェットで実験

執筆日=2012.06

対話相手=高橋朗

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1.マーケティングは何処へ行く

橘川:今日は、日本企業の一番大事な要素である、商品開発・サービス開発の現場の話をしたい。僕は学生時代に雑誌メディアの世界に入って、30代になってから企業の付き合いが増えて、いろんな業種のコンサルティングやマーケティングの仕事をしてきたが、90年代の半ばくらいから、マーケティング調査の仕事が激減した。最近はほとんどやってないので、現役の高橋くんにいろいろと話を聞きたいと思って声かけました。

高橋:はい、よろしくお願いします。

橘川:まず、高橋くんのやってきたことを簡単に説明してくれないか。

高橋:学生時代は心理カウンセラーを目指していて、精神科の病院で働いていました。結局はマーケティングの世界に入ることになりましたが、人間の心理を研究しているという点では同じですね。自分は主にブランド戦略のお手伝いをしています。例えば、レクサスが日本に導入される際のプロジェクトに参加させていただいて、色々勉強になりました。

橘川:高橋くんがマーケの仕事を始めた頃と、現在では違ってきていることはあるかな。

高橋:端的に言えば、定量から定性に軸足が移ったということだと思います。20世紀の頃は、なんでもかんでも数値で表現しないと、納得してもらえませんでした。でも最近では、文章や図で表現する方が納得してもらえることが多くなりました。マーケティングの根本は人間の心理ですから、全て数値だけで表現するのは、そもそも無理があったんですよね。調査手法で言えば、アンケート形式ではなく、インタビュー形式が増えたということです。

橘川:えっ? それは意外だ。世の中は、ビッグデータだなんとかだで、データ解析が全盛かと思っていたが。それなら、まだ、僕の出番がありそうだな(笑)

高橋:笑い事じゃなくて、本当にそうだと思いますよ。橘川さんは、かなり前から定性調査に注目してましたよね?

橘川:僕は80年代に、子ども調査研究所の手伝いから、マーケの世界に入ったのだが、もともとが投稿雑誌の編集やっていたので、投稿型のマーケが出来ないかと思ってた。80年代に一度、定量では駄目で定性だ、という声が大きくなったんだけど、見てると、定性調査は、グルインだ個別面談調査だと、やってる人たちはテープ起こしに追われているw 肝心な分析に費やす時間が充分にとれなかったりする。それで、なんとか、定性調査を定量調査のようなシステムで処理できないかと思って開発したのが、気分調査法なんだよ。

高橋:気分調査は以前見せてもらいましたけど、あれを80年代にやっていたというのは画期的です。画期的すぎて、当時はあまり理解してもらえなかったんじゃないですか?(笑)

橘川:どこの世界にも100人に一人ぐらいは、時代感性の鋭い人がいて、共鳴してくれたりした。気分調査というのは、簡単に言うと、ある用語に、まず-10から+10までのパラメータの中から、気分度を選んでもらう。好きとか嫌いとか、正しいとか正しくないとかではなくて、気分の数値をね。その上で、その用語について、ひとことコメントをもらう。例えば「渋谷」という用語であれば、気分度は「+5」コメントは「人が多すぎる」とか。200人の人にインタビューして、その発言からキーワード抽出するのは大変だけど、本人がキーワードだけ書いてくれれば、それを整理するのは楽。あとは、コメントを分類するだけ。例えば、20代のOLのコメントを見ると「パルコ」とか「ハンズ」とか、店舗名が出てくることが多い。高校生だと、「いろんな店があって楽しい」「おしゃれで大好き」とか感情的なコメントが多い。定量的なカウンターでは高校生の比率がこのくらいで、OLがこのくらいという数値が出てくるが、気分調査だと、OLは目的の店に直線的に移動しているけど、女子高生は渋谷の街を回遊していることが推察出来る。

高橋:気分調査は、定量調査と定性調査のミュータントみたいなものですよね。ところで当時は、定量調査と定性調査のどちらを重視する企業が主流だったんですか?

橘川:僕の場合は、スタートが子ども調査研究所の手伝いだったので、玩具メーカーとの付き合いが出来た。1984年に「現代気分の基礎知識」(三省堂)という、気分調査の手法を使った若者の意識データの本を出して、少し話題になったけど、あまり仕事にはならなかった。僕の場合、マーケティング業界にいたわけでもなく、むしろ個人で活動していたから、90年から若者論の本を何冊か出して、企業関係者を集めたセミナーでの講演に呼ばれることが増えて、そこで講演すると、クライアントさんが関心を持って、調査の依頼があると気分調査を提案した。自動車メーカーや銀行系のシンクタンク、家電メーカー、教育会社などの仕事をした。なので、僕に統計データの分析は期待しないだろうから、定性調査ということだな。

高橋:その頃は、適正に定性調査を実施できる人が少なかったのでは?

橘川:80年代に一度定性調査の流れが出来たんだけど、僕の感想だと、マーケッターが勘違いして、自分の考えを押し付けるだけの分析をする人が増えて、メーカーの信頼を失った。なかなか消費者のニーズもつかみきれない時期だったのかもしれないが。そうこうしているうちに、POS解析や、インターネットアンケートが出てきて、定量調査全盛になっていったものだと思っていた。

高橋:途中までは、そういう流れだったんでしょうね。でも、その経験のおかげで、定性調査だけでも定量調査だけでもダメで、どちらとも平行してやる必要があるってことが実感できるようになってきたんじゃないでしょうか。

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