ファイル_2016-11-18_16_38_39

欅坂46in幕張2017夏。歌謡曲とロックのはざまにて。

 欅坂46の全国アリーナ・ツァー2017の千秋楽である幕張メッセ8月30日に行った。結成して2年、デビューしてから1年5ヶ月か。長いようで短い、短いようで長い時間の距離である。

 僕が「「欅坂46」を散歩して。」という原稿をnoteに書いたのが、2016/05/14 23:13。

 そこからいろいろと書いてきた。僕は、完成した作品より、完成に向けて成長していく姿を見るのが好きだ。投稿雑誌は、完成した原稿なんてなくて、未熟だけど、これから凄いものになりそうだという「可能性の魔」(Pヴァレリー)に満ちたメディア空間である。そういう環境作りしていた者から見ても、欅坂46の成長はスリリングであり、まっすぐである。

 ライブに行くのは2度目。4月の代々木のバスラと今回。全部追いかけるほどの体力と時間はない(笑)。でも、代々木における平手の「僕は嫌だ」の本気度と、今回の幕張の「僕は嫌だ」の平手の覚悟は、確認出来た。さあ、これからが大変だ、と思った。

 欅坂46の楽曲は、どれもが高い水準で完成されている。Twitterを見ていると、さまざまな作曲家が、欅坂に楽曲提供したが没になった、と嘆いている発言が見受けられた。欅坂の音楽の作り方は、楽曲をコンペして、秀逸なメロディラインが採用されて、そこに秋元康が言葉を乗せていく方式だろう。全部がそうではないかもしれないが大半はそうだろう。つまり、世の中の作曲家たちが、欅坂の音楽に参加したくて投稿をしているのだ。それは、もちろん、平手友梨奈に歌ってもらいたいという衝動で、おそらくそれぞれの作曲家の自信作を投稿するのだ。欅坂46のムーブメントに参加したいという衝動がクリエイターたちにまきおこったのだろう。

 TAKAHIROは、もうひとりの欅坂46と言ってよいほど、一心同体である。これも、平手友梨奈という存在がいたからこそ、彼のクリエィティブな欲求が集中しているのだと思う。TAKAHIROは、他にもいろいろ仕事をしているが、本気で集中しているのは、欅坂46だけだろう。僕は器用な人間ではないので、一つのことしか集中出来ない、というような発言をしていたと思う。

 平手以外のメンバーも同じである。普通のアイドル志望の女の子が集まった欅坂46だが、平手がいたからこそ、ひとりひとりが、想像以上の成長と、表現に対する欲求を高めたのだろう。そのことを自覚しているからこそ、平手が倒れた時に、みんなで支えた。

 ソニーミュージックのスタッフも同じだろう。「平成の山口百恵」といわれ、僕は「平成の美空ひばり+椎名林檎」だと思うが(笑)、それだけの逸材が輝いていく過程に参加したいと思うだろう。代々木のライブ以上に、今回の幕張のライブは、欅坂46以外のスタッフの大人たちの本気度が伝わるものであった。金もかけただろう、時間もかけただろう、もうそれだけで光のアートイベントのような空間であった。

 平手友梨奈の才能とは本気になることである。馴れ合いの日常から、スイッチを入れると本気の世界に没入する。昨年のワンマンライブを経験して、平手は、舞台に上がる時にスイッチをいれるのではなく、人生そのものにスイッチを入れたように思う。さあ、みんな、大変だ。

 メンバーを本気にさせ、秋元康はじめとする大人たちを本気にさせてしまった。幕張のライブは、純粋な子どもたちと、誠実な大人たちが作り上げた、美しい空間であった。これがもしかしたら、最後の美しさなのかもしれないという思いも横切った。

 平手は、ブログを書かなくなった。馴れ合いのコミュニケーションではなく、本気のコミュニケーションを目指しているように思う。

 秋元康は「平手だけは目指すものが違う」と言っている。「未確認フェスティバル2017」のイベントに出て「Some Life」というバンドに衝撃を受け「凄すぎて、心が折れた」という発言をした。Some Lifeは、10代のドロックバンドである。未完成だが本気の音楽やってる。

 やがて、欅坂46がぶつかる壁は、「歌謡曲」と「ロック」の衝突だろう。秋元康は、大人のおじさんであり、女の子ではないが、実に巧妙に言葉を使いこなす。歌謡曲の世界では、阿久悠が女心を歌い上げたように、こうした方法は、普通のことである。しかし、ロックは違う。ロックとは、作品の完成度やエンタティメント能力ではなく、発する言葉は自分が主語であり、本気であるということである。欅坂46に対して、単なる人気に対するアンチとは別に、音楽ファンからの否定は、分からなくもない。

 平手は、ブログは書かないが、毎日思うことをノートにたくさん文章にしているとラジオで言っていた。作曲も自分でやりたいと言っていた。なんだか、平手友理奈が、やがてどこへ飛び立とうとしているのか、見えてきた気がする。

 ファーストアルバムで、もっとも歌謡曲的な名作「山手線」が入っていないことが意外だったことと、全曲の中で、僕が繰り返し聞いているのが、「沈黙した恋人よ」(ひらがなけやきのユニット「りまちゃんちっく」)というのも、我ながら驚く。これは、実に見事な、青春歌謡曲である。幕張で見れて良かったあ。


ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

橘川幸夫の無料・毎日配信メルマガやってます。https://note.com/metakit/n/n2678a57161c4