失格
人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った
実感がなく、ただ心に穴が空いてるような
嫌な感覚しか残らないそんな夜を歩いてた。
不意に気配がしたから後ろを振り向いたけど
誰もいないことぐらい分かっていた。
もう居ないはずのその顔を思い浮かべてたら
閉まった店のガラスにその顔が写ってた。
どうやら幽霊になって出てきたらしい
恨んでるのかな僕のこと
成仏したら消えるならいつまでも恨んでて欲しい
それならもう離れることはないはずだから
なんて考えさせる君は幽霊失格だよ
いつまでもついてくる君は「懐かしい」だなんていいながら
呑気にドアを通り抜ける。
幽霊って本当にこんな事出来るんだ。
君が僕の前に出てきてから 君と住んでた時のこと
寝る前に繋いだ手の感覚とか 全部思い出しちゃうんだよ。
本当は君が出てくる前から思い出してるんだけど。
本当は君がこっちに未練があって出てきてるんじゃなくて
僕が君に未練があって君の事を見てしまってるのかな。
本当に失格なのは幽霊の君じゃなくて人間の僕じゃないか……
それでも君の事を見続けてしまう
そんな僕の考えを消すように君は 僕の横に座って
眠り始めた。まるで生きていた時のように。
心に穴が空いた感覚は
嫌な感覚から心地良い物に変わっていた
幽霊の君と出会った日は 静かで優しい夜だった
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