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フォーマットの罠に落ちた事。ちょこっと映像お仕事こぼれ話

前回完パケフォーマットについてのお話をしましたが、そのフォーマットの落とし穴にはまった失敗談をひとつ。

編集や合成、カラーコレクト(色の調整)を終わらせてやっと映像を完成させたらMAで音をつけます。
通常は映像が完成してから音をMixしていくのですが、どうしても間に合わずに先に音の作業をしなくてはならないこともあります。
ナレーターやタレントのスケジュールがあって時間がずらせないなどの理由などです。
時にはMAをしているうちに監督やクライアント、エージェンシーなどが一部の映像を直したいということも起きます。

この音を付ける作業の時に、それは起こりました。

最初の電話

編集の作業も一段落して、後はクライアントに試写をすれば完成という
ところ。
リラックスしてスタジオで待機していると、MAルームから電話が鳴りました。

先ほど直しが入ることがあると書きましたが、実際には映像が完成して音の作業に入ってからは、もう一度映像編集に差し戻すと言うことは少ないのです。

「ちょっと、MAまで来ていただけませんか?」

制作部の人からの電話でした。

「はい、直ぐに伺います。」

MAルームは同じビルの中にあって直ぐ上の階でしたので、急いで向かいます。クライアントの試写の時間は決まっているので、面倒な直しなら出来るだけ時間が欲しいのです。

MAルームの重い防音ドアを開けて中に入ります。


「どうしましたか?」

監督
「ごめんね、音をつけて見直していたらどうしても1カット目と2カット目を入れ替えたいんだ。なんだか、そちらの方が伝わり方が良いようなんだよ。」


「確かにそうですね。それじゃ入れ替えましょう。カットのテレコ*なので尺の調整も無しなので問題ないですね。じゃ、直ぐに作業をして送りますね。」
*テレコとはテレコンバートの略、入れ替えるということ

編集室に戻りながら、簡単な直しで良かったと思っていました。
作業は簡単、1カット目と2カット目をさっと入れ替えます。
ノンリニア*のデジタルなので5秒もあれば出来ます。
*ノンリニアではテープ編集と異なり必要な部分のみの作業で済む。

電話をとって制作部の人に連絡します。

「終わりました。すぐに送りますね。」

「早いですね。ありがとうございます。確認しますね。」

全体を見直して他の部分には問題がなさそうでしたので、これで無事に試写して納品できるなと思いました。
コーヒーでも飲んで待っていようとラウンジまで行って、コーヒーの入ったカップを持って戻ってきた時でした。

”トゥルル”

二度目の電話です。
きっと先ほど送った映像を確認して、OKの連絡だろうと思い受話器を取ります。


「はい、大丈夫でしたか?」

制作さん
「急いでMAまで来てください。良く判らないのですが問題があるようです。」

電話を切って慌ててMAに向かいます。
どうしたんだろう?問題なんか起こることでは無いのだけれども、、、
再び防音ドアを開けて中に入ります。


「問題って何でしょうか?」

監督
「いや、良く判らないのだけれどもミキサーの人が編集の人を呼んでくれって言うんだよ。」

ミキサー
「この完パケ、ノンモンがとれないんだよね。」

ガーン!!

そ、そうか。

ノンモンとは前回の完パケフォーマットでお話したのですが、局に納品する完成原版は本編の始まり、つまり1カット目の最初は15フレームの無音を作らなくてはいけないのです。

お判りになったでしょう。
最初の編集では1カット目の頭にはちゃんとノンモンを取っていたのですが、2カット目は直ぐに台詞が入っていました。
それを何も考えずに入れ替えてしまったので当然、規定のノンモンが無くなってしまったのです。
これでは、納品できません。

2カット目と3カット目の入れ替えだったら良かったのに、、、


「すみません、何フレたりないでしょうか?」

ミキサー
「うーん、3フレしかないね。」

ということは、後12フレーム何とかしなくては、、
1秒は30フレームなので、
12フレームだったらわずか半秒に満たないぐらいじゃないか、
と思った人もいるでしょう。

確かに映画やドラマなどの長尺のモノならば多少の融通もききますが、
これはTVCM、しかも15秒450フレームなのです。

たかが12フレームされど12フレーム

現実的な解決方法は今の1カット目の頭を12フレ伸ばして、2カット目の元々のノンモン部分の12フレをカットすることです。

そうだ、それが一番良い。
そう思い監督に話をして了解を貰います。

編集室にとって返しながら、ちょっと手間はかかるけれども簡単な尺の調整ぐらいなんだから大丈夫だなと思っていました。

ところが、これがそうは行かなかったのです。

新たな問題が、、

「どうでしたか?大丈夫ですか?」

編集室に戻って席に着くと、私についていたアシスタントが心配そうに尋ねてきました。

とりあえず、ここまでの経緯を説明して2カット目の素材を出して貰います。オフライン(仮編集)の時と違ってオンライン(本編集)の際には余り必要とは思われない素材はデータは取り込んで置かないのです。

アシスタントに素材のテープを入れて貰い、オフラインのデータから必要な前後を1秒ずつ多めにコンピュータに取り込みます。

切り出した映像をチェックすると、、

ゲッ、足りない、、、

そうなんです、足りないのです。
正確にいうと前の1秒の映像は存在しているのですが、使えないのです。

その一秒前の映像では、何とタレントさんの顔の前でカチンコが打たれているのです。
普通ならば画面の端で打つか、カット終わりで打つケツカチンコなのですが制作さんがまだ慣れていないのか、顔の真ん前でカチンコを打っていたのでした。

ちなみにカチンコとは

画像1

画面からカチンコがはけるまでの所をカットすると、、
頭3フレしかありません。

こういうことだったのか、、

せめて、顔に掛かっていなければカチンコを処理して消せるのに、、
タレントさんの顔に掛かっているところは、今から作業していては試写に間に合わない。

それではまだ画面には入っているけれども、ある程度消せる範囲はどのくらいだろう。
確認すると4フレありました。
出来るところから進めていくしかありません。
とりあえず、その4フレームを処理して7フレームは確保することにしました。

あと8フレームどうしょう。

選択肢は余り多くはありません。
確保した7フレームを逆回転にして、ラストの1フレームはカットします。
ラストの1フレームは次の頭と同じ絵になるからです。
その6フレームになった逆回転の映像を1/2のスピード、12フレームに伸ばします。
それを頭につければノンモン19フレームを作ることが出来ました。
なぜ8フレームあれば済むのに12フレーム作ったのかですか?
それはですね、1.3倍という半端な変速よりも2倍といったキッチリとした倍数の方が映像に変なカクツキが出にくいからです。

こうして、なんとか15フレのノンモンを確保しました。
最初に3フレーム分はあったので、伸ばしたのは12フレームになります。
2カット目の頭12フレームを落として完尺(きっちり15秒)にします。

完成した映像を何度か見直して出来映えをチェックします。
うん、これならばいけるだろう。

「お待たせしました。出来上がりましたので、早速送りますね。」

制作さんに直ぐに連絡して、MAに送り直します。

送ると同時にMAに向かいます。


「どうですか?」

ミキサー
「うん、大丈夫だね。」

監督
「いいんじゃない?」

良かったー、なんとか上手く行った。
試写にも間に合いクライアントにもOKを頂けました。

こうして、無事に完パケになり納品することが出来ました。

この事があってから、簡単な作業に見えても注意深く行わなくてはいけないと思うようになりました。
でも、この後もいくつもの失敗をするのですが、、

長い話を最後まで読んで頂いてありがとうございました。

お疲れ様でしたー!







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