Forgetful Angel

　傷付くことによって生きていると感じる。正しく傷付きたい。

　大学の単位も、取り損ねた免許も、趣味に対する熱も、将来も、流れてくる光や音も、成長も、怠惰も、全てが透明になって自分をすり抜けていく。自分から放り投げるのではない。難しいことは考えられない。

　そういうものをいったん全部捨てて、バスの一番後ろの五人乗りの席の端で、見たことない景色を眺めながら、でも、何か考えてしまうだろう。知らない終点。知らない道路。知らない砂。知らない海。知らない空。知らないものに囲まれているようで、その全てが、どこかで見たことがあるように感じるのは、なぜだろう。

　夢の景色。果てまで続く床と天井の低い建物、曖昧な境界線、石膏のような観覧車。許しもないが厳かさもないのだ。私がこれまで感じた中で、いちばん懐かしい空間。そこに自分が居なければ、懐かしい空間はその懐しさを保ったままでいられる。

　もし自分が死んでしまったとして、それを心から悲しんでくれる人はどれくらいいるのだろうと考えることがある。私は確信をもって推定することができない。それはとても薄情なことだ。他人を信じきれないという事実は罪なことだ。痛み。