トランプ大統領弾劾は歴史的に市場への影響は薄い?

米国株式市場は上昇し、ダウ平均株価<.DJI >が162ドル値上がりしたほか、S&P総合500種指数の上げ幅は過去2週間で最大となった。
民主党によるトランプ大統領弾劾に向けた動きはあまり材料視されなかった。
スポーツ用品大手ナイキが好決算を手掛かりに買いを集めた。
米民主党が24日、トランプ大統領の弾劾に向けた正式調査を開始したことを受け、 25日序盤の取引では主要株価指数が一時下落。
米司法省はこの日、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が今年7月に行った電話会談の記録を公表したが、市場は 弾劾を巡るニュースを消化し、株価指数は上げに転じた。
インバーネス・カウンセル(ニューヨーク市)の首席投資ストラテジスト、ティム・ グリスキー氏は、民主党の動きが妨げにはならないとの見方が広がったことで、地合いが 堅調だったと述べた。
米商務省が25日発表した8月の新築一戸建て住宅の販売戸数(季節調整済み)が市場予想を上回ったことも市場心理を支援した。
ロバート・W・ベアードの市場ストラテジスト、マイケル・アントネッリ氏は「良好な経済指標が政治的なノイズと争い、指標が勝った」と述べた。
トランプ大統領がこの日、中国との通商合意が予想よりも早期に実現する可能性があるとの考えを示したことも株式市場の追い風となった。
通商面では、安倍晋三首相とトランプ大統領が25日、ニューヨークで開いた会談で 貿易協定締結で合意し、合意文書に署名。
トランプ大統領は約70億ドル規模の日本市場 が開放されると述べた一方、自動車については協議継続となった。

トランプ大統領の弾劾調査開始

米下院は、トランプ大統領の弾劾に向けた正式調査を開始する。来年の大統領選で野党・民主党の有力候補と目されるバイデン前副大統領に打撃を与えることを狙ってウクライナに圧力をかけたとされる疑惑を受けた動き。

米司法省は25日、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が今年7月に行った電話会談の記録を公表した。会談ではトランプ氏が民主党のバイデン前副大統領の息子に絡む疑惑を調査するようゼレンスキー氏に依頼していたことが判明した。

この問題を巡っては、トランプ氏が来年の大統領選で有力候補と目されるバイデン氏に打撃を与えることを狙ってウクライナに圧力をかけたとされる疑惑が持ち上がっている。民主党のペロシ下院議長は24日、下院でのトランプ氏の弾劾訴追に向けた審議を開始すると表明した。
会談記録の要旨によると、トランプ氏はゼレンスキー氏に対し「バイデン氏が自身の子息に対する訴追をやめさせたなど、子息に関するうわさが数多くあり、多くの人が真相の追究を望んでいる。したがって(バー)司法長官と協力して何とかしてもらえるとありがたい」「バイデン氏は自分が訴追を止めたと自慢して回った。だからこのことを調べてもらえたらと思う。これはひどい話だ」などと語った。
トランプ氏はまた、ウクライナのガス会社に対する調査再開に関してバー司法長官からゼレンスキー氏に連絡が行く予定だと述べた。ただ司法省によると、トランプ氏はバー氏にそうした要請はせず、バー氏もウクライナ側と連絡を取ったことはないとした。
さらにトランプ氏は、自身の顧問弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏と話をするようゼレンスキー氏に要請。ゼレンスキー氏は側近らがすでにジュリアーニ氏と話をしており、同氏がウクライナを訪問する際はまた面会したいと答えたという。

会談記録の公表を受け、トランプ大統領は、民主党による弾劾手続きの開始は恥ずべき行為であり、自分はゼレンスキー氏に圧力など掛けていないと強調。「歴史上最大の魔女狩り」が行われていると非難した。
ゼレンスキー大統領との電話会談前、トランプ大統領が同国に対する約4億ドル規模の支援を保留するよう指示したこともこれまでに明らかになっている。
会談記録からは、トランプ大統領はバイデン氏に関する調査が支援の条件になるとは明言していないものの、調査を要請するにあたり、米国の対ウクライナ支援の重要性を強調していることが分かった。

トランプ大統領は「米国はウクライナに多くを提供している」と指摘。メルケル独首相はウクライナに「何もしていない」とし、「米国はウクライナに非常に良くしている」と述べた。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「1000%」正しいと応じ、とりわけ防衛面での支援に謝意を示し、米国製のミサイルの購入拡大を計画していると述べた。その上で「ウクライナがこの(バイデン氏の)問題に真剣に取り組み、調査を進めることを約束する」とした。
会談記録の公表後、トランプ大統領とゼレンスキー大統領は国連総会の合間に会談。ゼレンスキー大統領は共同記者会見で「誰も私に圧力は掛けていない」と語った。
トランプ大統領もゼレンスキー氏に圧力を掛けたことはないと言明し、弾劾手続きを開始したペロシ下院議長を批判。「私が知る限りでは、ペロシ氏はもはや下院議長ではない」と述べた。
ペロシ下院議長は、会談記録からトランプ大統領が米国での選挙の信頼性や大統領の尊厳、米国の安全保障を脅かす行動を取ったことが明示されたと述べた。

バイデン氏は声明を発表し、「米大統領が神聖な誓約よりも自身の政治活動を優先させたことは嘆かわしい」とし、議会はトランプ大統領の「権利乱用」を追及すべきと訴えた。

米大統領の弾劾における過去の市場への影響

米議会の民主党議員が、トランプ米大統領の弾劾への調査開始を正式に発表したことで、米金融市場は神経質な展開となっているが、歴史をみれば投資家はそう心配する必要はないかもしれない。

1974年にウォーターゲート事件を巡り当時のニクソン米大統領が辞任に追い込まれるまでの数カ月の間、米株式市場は大幅に下落し、ドルも急落した。

ただ、JPモルガンのジョン・ノーマン氏によると、市場の混乱の背景には、ニクソン氏による金とドルの兌換停止や、1973年末のオイルショック後の景気後退(リセッション)もあったという。
米金融市場は1998年のクリントン大統領の弾劾も切り抜けた。S&P500指数(.SPX)は、クリントン大統領の弾劾条項が下院に送られた1998年10月8日までの11営業日で10%下落した。しかし、同指数は10月21日までにこの下げ分を戻し、年末まで上昇を続け、27%高でその年を終了した。

総括

市場の感心は弾劾よりも米中貿易戦争。

良い結果が得られなければ、すぐにトランプ砲により株価は大幅に下落すると予想する。

その「良い結果」がトランプ大統領的にどのレベルなのか。
米農産物の購入の確約なのか、それ以上か。

もともと6月の首脳会談では、
中国側は米農産物の購入、
米国側はファーウェイの制限緩和、
が約束だった。

次回の通商協議で中国は農産物購入の約束果たし、その見返りがファーウェイの緩和になるのか。
今のところ12月に延期した追加関税の中止が濃厚に思えるが、そうすると米国は約束を果たしていないことになり、中国がこれをどう評価するか、がポイントとなる。

合意に行き着くことはないが、次回の通商協議の進展度合いで、この戦争の先行きが変わると予想する。

出展

UPDATE 1-米国株式市場=ダウ162ドル高、米大統領の弾劾リスク響かず ナイキ上昇

米大統領、バイデン氏疑惑捜査をウクライナに依頼 会談記録公開

米金融市場、過去の大統領弾劾の動きにおおむね持ちこたえる